第37話 白翼落とし ③
姉さんが去った。嬉しいような寂しいような気持ちになる。
とはいえ。
「……とりあえず疲れたから休むか」
「シロもそう思うでしゅ」
デーレ姉さんとの試合なんていう冗談抜きの命のやりとりをしたのだから、少しくらい休んでも良いだろう。
姉さんの居なくなった部屋に戻る。
「ん? 扉が、開かない?」
何かで抑えられているような?
「どうしたでしゅ?」
「扉が開かなくてな。鍵がかかってる訳ではなさそうだが」
「それならシロが見てくるでしゅ。扉なんてちょちょいでしゅ」
扉の先へとシロが行った。
姉さんが何かして行ったのか?
「ひっ……!?」
「何があった!!」
シロの悲鳴、緊急と判断して扉を斬って中に入る。
「どわぁあああああ!?」
中から溢れ出した何かによって押し流された。液体ではない。薄い何かが大量に?
「シン……こ、これって?」
「姉さんの置き手紙だ」
凄い量だ。まさか部屋の空間を圧迫するほどとは。
「これを書いてから来てたのか」
流石は姉さんだ。
「どんな早さで書けばこうなるでしゅ」
「姉さんだからな、雷と等速かそれ以上だろう」
「そんな風に書いたら普通は紙が焼けるでしゅ……」
「そこが姉さんの凄いところだ。速さと繊細さを両立させる事ができる。姐さんに限って拙速という事はありえない」
シロのいう通り、本来であればそんな速さで文字を書けば紙が耐えられない。その当たり前を当然のように超えてくる。
「さっき勢い余ってシンの腕を斬り落として泣いてたでしゅ」
あれは、まあ。
「んー、あれは、ふふ、自慢に聞こえるかもしれないが俺だけだ」
姉さんが俺以外の事で取り乱すのを見たことがないしな。
「……なるほどでしゅ」
なんだ? シロが心なしか距離を取ったような?
「今からこの手紙を全部読む。おそらく2日、いや1日で読んでみせる」
速読には多少自信がある。素早く読み解かないといけない場面は何度もあったからだ。部屋一杯の手紙でもなんとか読みきってみせよう。
「無駄にできる時間はないでしゅ。あの玉を使った練習をするべきでしゅ」
「ああ、その通りだ」
「なら、手紙を置くでしゅ」
「だが」
「だが?」
「姉さんの手紙は全てに優先される!!!」
「……正常な判断力を失ってるでしゅ」
そうかもしれない、そうかもしれないが。
「いや、聞いてくれ。本来2日かけるはずの準備時間が無くなったんだ。そのうちの1日を手紙を読む時間にしたって1日増えた計算だろう」
これを読まないという選択肢はないんだ。
「手紙を後で読めば2日丸々あるでしゅ」
おっしゃる通り。
「ぐぅ……正論すぎる」
「分かったら手紙を置いて休むでしゅ。時間はいくらあっても足りないでしゅ」
「なあシロ、これは仮の話なんだが」
なんとか時間を勝ち取れないか。まだ足掻けるはずだ。
「却下でしゅ」
「まだ何も言ってないが!?」
「どうせなんとかして手紙を読もうとするだけでしゅ」
「俺への理解度が高い……!」
「短い付き合いでも、ずっと一緒にいればそれくらい分かるでしゅ」
ダメだな……これ以上の説得は逆効果だ。
「……分かったよ、休む」
「待つでしゅ」
「なんだ?」
「この一通、多分これが1番大事なものでしゅ。これだけは読んで良いでしゅ」
「シロ……!!」
「そんなに嬉しいなら、今度シロも手紙を書いてやるでしゅ」
「手紙を、書く?」
鳥が? どうやって?
「どうやって文字を書くんだって思ってるでしゅ」
そんなに分かりやすい顔をしていたかな。
「白霊鳥ならこれくらいの事は簡単にできるでしゅ」
ペンがふわりと浮いて文字を書き始めた。まさかこんな事までできるとはな。
「字の練習はもう少し必要だな」
「やかましいでしゅ!!」
姉さんからの手紙には、ひたすら心配だからできるだけ早く帰って来てほしいという内容が超緻密な文字で書いてあった。
「これを、この枚数……!?」
「いやー、やっぱり姉さんの文字はすごいな。とても真似できない」
ん? なぜかシロがまた距離をとったような。
「シンの姉ちゃんには敵わねえでしゅ……」
「まあ、姉さんにはしばらく勝てないだろうな」
「そういう意味じゃねえでしゅ。いいから早く寝るでしゅ」
呆れ顔に見える。
一通だけでも読めたのだから今日は良しとしよう。
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