第29話 雷の鳴るところ
「勝った……」
アシュラを、俺が、倒した。
自力とはかなり遠いが、それでもこの勝ちは大きい。
勝ちを噛み締めていると何か固いものが落ちる音がした。
アシュラの一部でも落ちたか? 幸い距離はあるから下敷きになったりはしないだろう。
「ん……?」
指先に当たる感触。ここまで弾かれて来たのか。だとするとここも安全ではないかもしれない。
「こ、れは」
手に触れたものがなんだったのか。それを唐突に理解した。【熟練工】が言う。
これは入れ物だ、力を貯めておくもの。
今はアシュラの残りカスが入っているだけだが、俺には十分だ。使用には詠唱が必要なものらしい。
「オーダー、エネルギーを譲渡せよ」
瞬間、指先から力が流れ込む。体力とか、活力とかそんな感じのものだ。
「驚いたな……」
動けなかった身体が動く。
「う、うう、シンを守れなかったでしゅ……」
「シロ……!!」
俺と繋がっているシロにも影響があったらしい。むくりと身体を動かしていた。
「あれ、なんかぶっ壊れてるでしゅ」
「シロ!!!!」
嬉しい。生きていてくれて、こんなにも嬉しい事はこれまで生きて来て数回しかない。
「うるさいでしゅ、勝ったんでしゅ?」
「ああ、やったよ。シロのおかげだ」
「当たり前でしゅ!! 186回、それが受けた致命傷の数でしゅ。シロが居なければ、それだけ死んでたでしゅ」
「その通りだ。お前が居てくれて良かった」
「んきゅっ……あんまりはっきり言われると照れるでしゅ」
「いいや、何度でも言う。ありがとうシロ、お前のおかげだ」
「んー!! 分かったでしゅ、それくらいにするでしゅ」
言い足りないのに。
「おめでとうございます。阿修羅の討伐を確認しました。戦利品のコアを譲渡いたします」
「これか……」
手の中に収まる大きさの球体を見る。これであのアシュラが動いていたとは思えない。
「阿修羅のソロ討伐を確認いたしました。条件達成により、裏モードを開始いたします。引き続きお楽しみください。第二形態、黒曜三眼大黒天を起動します」
え?
「今、あの扉なんて言ったでしゅ」
「まだ続くって言ったな」
いや、無理。
「ははは、笑えてきた」
「もう笑うしかねえでしゅ……」
アシュラの体から黒い煙のようなものが立ち昇っている。
暗闇に浮かび上がるのは3つの目。
もはや隔絶しすぎて、相手の強さすら伺いしれない。
手に負えないなんてものじゃない。前に立つことすら不可能だ。
詰みか。
「もう戦えない。シロは逃げられそうか」
「無理でしゅ。シンがここで死ぬなら一緒に逝くでしゅ」
座り込んで相手が完成するのをボーっと眺めていた。
ちょっと無理だな。
打開策がない。
「……こんな時俺じゃなくて」
その先を言おうとした時だった。
空気が変わるのを感じた。
「嘘だ」
ありえない。ここに来るはずがない。
だけど、俺がこれを間違えるわけがない。
この感触を。
空気がピリピリとするこの感覚を。
ずっと一緒に居たから。
この、雷と共に生きてきたから。
「デーレ、姉さん……?」
まず到達したのは光だった。
真っ白に埋め尽くす閃光。
遅れて来たのは音、洞窟内に響き渡る雷鳴。
最後に感じたのは香り。
懐かしい。姉の匂いだ。
「シンちゃん、ここにいるの?」
しばらくぶりに見た姉の姿、それはとても見れたものではなかった。髪も、肌も、服装も、何もかも、ボロボロだった。
それが自分のせいだと気付いたとき、絶叫するのを堪えられたのは奇跡だった。
分かっていた、自分が居なくなればどうなるか。
分かっていた、どれほどの傷をつける事になるか。
分かっていた。
はずだった。
だが、実際に目にした時。
胸が潰れそうに悲しかった。
血液が逆流するほどの怒りを感じた。
いくら最終的な目標のためとはいえ、デーレ姉さんがこんなになって良いわけないだろうが!!!
あの、デーレ姉さんが、こんな姿になって、良いわけが、ないだろうが!!!!
ふざけるな!!!!!
「シンちゃん……? いるの?」
憔悴しきっていて、まともに探知もできていないみたいだ。今すぐに駆け寄って、声をかけて、安心させてあげたい。
大丈夫だって、もうどこにも行かないって言ってあげたい。
けど。
だめなんだ、今そうしたら2度と俺は姉さん達と並べない。掴みかけたものは、2度と戻ってこない。
だから、一言だけしか言えない。
口を開こうとしたとき、別の声が上がった。
「みすぼらしい、身なりを整えよ女」
は?
今姉さんになんて言った?
3つ目のびっくりお化けごときが、姉さんになんて言った?
ぶち殺すぞ
「ねえ……じゃましないで、シンちゃんがいるかもしれないんだから」
この時、俺は初めて姉さんが臨戦態勢に入るのを見た。
生きた雷として恐れられるデーレ・ビクトリウスの姿を
迸る雷によって淡く光っており、力に満ちた姿は憔悴など全く感じさせない。
「そういう事か。ならば女、我を打ち倒すが良い。さすればシンちゃんとやらは見つかろう」
「……ほんとう?」
「もちろんだとも」
「じゃあ、さっさとしんで」
デーレ姉さんの戦いが始まってしまった。
*********
【黒曜三眼大黒天】
阿修羅をソロ討伐した勇者を試す第二形態。
別名アヴァタール・シヴァ。
大きな黒炎に三つ目が浮かび、腕や武器が浮かび上がるようにして攻撃を行う。
彼の三眼を開かせる事なかれ、その時世界は焼け落ちる。
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