第28話 三面六臂鬼火阿修羅 

「……避けたか」


 生きている?


 なんでだ。


 確かに俺は2つにされた。


 はずだ。


「5分保たなかったでしゅ、ごめんでしゅ……」


 シロ?


 どうした?


 白い羽毛はどうした。


 赤いじゃないか。


 いきなり色が変わるなんておかしいじゃないか。


 いや、おかしくない。


 攻撃を受けたんだ。


 鬼火を纏った致死の一撃を、俺の代わりに。シロの力は強力だ。俺でさえ戦闘を継続できた。


 じゃあ、どうしてシロはこうなった。


 俺が弱いからだ。


 俺があいつに手も足も出ずに斬られ続けたからだ。


 俺のせいで、このまま、シロが、死ぬ。


 俺のせいで優秀な同行者が死ぬ。


 俺のせいでいつかきっと、デーレ姉さんとラァも死ぬ。


「あ、ああ、あああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「やかましいな、手品は終わりだろう。死ね」


 迫り来る自分の死。


 そんなものより怖いのは、自分のせいで死なせる事。


 今から、自分の命を度外視する。


 そうじゃないとできない事がある。


「…………」


 眼前で止まった剣。


 止めたのは紫色の鬼火。


「……それができるなら初めからやるべきだったな」


 青白い正当の鬼火と塞がりきっていない手首を傷をこじ開けて出した赤黒い鬼火。


 生存を考えない血液消費と引き換えに、無理やり混合させた。


「紫炎を扱う者は少ない。あまりにも消耗が激しいからだ。貴様はどれくらい戦える? 数秒か、それとも今すぐにでも死ぬのか」

「今すぐ死ぬのはお前だ」

 

 急速に死が迫るのを感じる。確かにこの状態を維持することは難しい。


 だがそれで良い、一瞬あればそれで良い。


「やってみせろ」


 この炎は鬼火とは別物だ。これならアシュラにも通じる。その証拠に奴は今、2本目の剣を持っている。


 警戒が必要だということをアシュラ自身が教えてくれた。


 まずは、目眩し。


「小癪な……」


 大きく巻き上げた紫炎で視界を塞ぐ。目的はアルカだ。桜腕を伸ばして拾う。


 そして、アルカと紫炎でアシュラを殺す。


「ふ、良いだろう。石が燃え尽きる最期の一撃。正面から切り伏せよう」


 意図はバレているが、どうやら最後まで侮ったままで居てくれるらしい。


 好都合だ。 


 確かに俺は弱いが、俺がもらったものは決して石ではない。


 それをこの一撃で証明する。


「紫炎」


 命を燃やし。


「アルカ」


 風を呼び。


「これで吹き飛べぇええええええ!!!」


 渾身の力で薙ぎ払った。


「良い一撃だ。腕が一本しかなければ手傷を負ったかもしれんな」


 1本目。


「だが、腕は余っている」


 2本目。


「まだだ!!」


 弾かれた力を使って逆方向からもう一撃。


「無駄だ。貴様には腕2本分しか要らない」


 アルカは、伸びる剣だ。


 それがどこまで伸びるか、お前は知らないだろう。


弾かれた動きでもう一度切り掛かる。


それを繰り返す。何度でも。


どんどん長くなっていくアルカ、合わせて速度も上がっていく。


長くなるごとに一撃は重くなり、早くなるごとに鋭さは増していく。


「これが狙いか。だが、貴様はもう保たない。紫炎での長期戦など不可能だ」


 無言でアルカを振り続ける。


「……2本では抑えきれないか」


 3本目。


 4本目。


 5本目。

 

 そして6本目。


「貴様……不死身だとでも言うつもりか」

「そんな、わけないだろ」

「貴様は既に死んでいるはずだ。紫炎は死炎、使い続ければ死ぬものだ」

「それは、今までの、奴が、人並みに使えていなかっただけだ」


【熟練工】が言う。


 紫炎で俺ができることを。


「まさか貴様、紫炎を取り込んでいるのか」

「消費が、つらいなら、循環させれば良い、散らしてしまうから、減るばかりなんだ」


おそらく、今まで紫炎を使い続ける奴はいなかった。危険すぎて、習熟する奴なんていなかった。


 だから誰も知らない。だから誰も分からない。紫炎を長期運用できる可能性に気づかない。


 紫炎を発生させることさえできれば、そこから先は難しくない。鬼火と同じだ。


「狂っている」

「正気だ、間違いなく」


 俺はできる事しかできない。狂気の中できることなんて一つもない


 俺にそんな潜在能力はない。


「狂気には付き合えぬ。串刺しになるが良い」


 初めて見せた長槍、迎撃の合間に投げて来たか。


「紫炎は貴様だけのものではないぞ」


 しかも紫炎の付加がある。紫炎ごと貫こうという魂胆だろう。


「その通りだ。俺だけのものじゃない」


 アシュラの紫炎を吸収し、長槍を受け止める。紫炎の規模は俺よりも遥かに大きいが、練度不足でバラバラだ。少し引っ張るだけでこっちのものになる。


 これで火力を補えるな。


「自らの力としたか、認めよう。紫炎の扱いにおいて貴様の方が上だと」

「お前が数日練習すれば、同じことが俺よりも上手くできる。今だけだ」

「戦場には今と、ここしかないのだ。ゆえに貴様に敬意を払おう。最大の攻撃をもって決着とする」


 一際大きく弾く動き。


 アシュラが6本の腕に握られた剣を振りかぶった。


「六道斬滅」


 迎え撃つは紫炎のアルカ。


「かっこいい技は何もないんだ。だから単純にいく。紫炎一閃」


 今までの打ち合いと奪った紫炎を乗せて。


「いけぇええええええええええ!!!」


 6本腕とアルカが激突する。


 強い衝撃。


 撒き散らされた粉塵で、何も見えない。


「……はぁ、はぁ」


 もう動けない、指一本すら動かせない。これで耐えられたら終わりだ。


「ふ、ふふ、ふははははははは!!!」


 笑い声、クソ、これでもダメなのか。


「見事、御見事、貴様は成し遂げた!!!」


 煙が晴れたそこには、大破したアシュラが居た。


**********


【六道斬滅】

音に聞こえし阿修羅の奥義。

一振り一道滅する刃。

六道斬り伏せ輪廻の先へ。



【紫炎一閃】

いや、その、ノリというか。場に酔ってたというか、相手が必殺技を出して来たからこっちも名前負けしないようにというか。

あの、恥ずかしいのでもう勘弁してください。


紫炎を纏ったアルカによる一撃。循環していた分の紫炎すらも出し切るため、撃ったあとに余力はない。

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