第27話 ヘルヘイム攻略 ③

「うん、最低限の補給は終わったでしゅ。もう動いて良いでしゅ」

「まさか体調管理までしてくれるとは」

「前も言ったでしゅ、宿主の健康がシロの健康でしゅ」

「そうだったな、じゃあ行くぞ」

 

 ゴーレムの残骸を超えて先に進む。どこまで続いているのか分からないが、無限ということはないだろう。


 ないよな?


「……何度かの襲撃を超えて、扉が出てきたか」


 ゴーレムに奇襲をかけられること3度、それを安定した鬼火で蹴散らしながらたどり着いた。


 古い場所だと思っていたが、機械の集合体のような大きな扉だ。城門のような大きさだが、この大きさが必要な相手がここに来るのか?


「シロ、これはなんだ」

「分からないでしゅ」

「分からないかぁ……」


 有識者が知らないとなると、いよいよこの扉をどうしたら良いか判断しかねる。


「一応上の方も見ておくか」


 スカイフィッシュを使おうとした瞬間。


「お客様を感知しました。こちらは賢者の石です。この度は挑戦していただき誠にありがとうございます」

「そう来たか……」


 予測のうち一つが当たった形になるな。


「しゃ、喋ったでしゅ!?」

「喋る鳥が何を言う」

「生き物が喋るのと扉が喋るのは不自然さが桁違いでしゅ!!」


 それもそうか。


「良いから聞くんだ。重要な事を言うはずだ」

「お客様ユーザーデータを参照、他ダンジョンのボス撃破を確認しました。有資格者と認めます。ダンジョン番号8番ヘルヘイム、ハードモード解放。ボスの解凍処理を行います。なお、これから起こる一切において賢者の石は責任を負いません。武運を祈ります。解凍処理完了。これより阿修羅を解放いたします」


 アシュラ。それが今から出てくる奴の名前らしい。前に戦った虫と同じかそれ以上の相手になるだろう。


 勝てば更なる力を、負ければ死ぬ。


 上等だ。


「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 低い唸り声が扉の後ろから聞こえてくる。


 扉が。


 冷気と共に。


 開いた。


「貴様、弱いな。我が相手には不相応なり。座して首を差し出せ、苦しまぬよう一息で落とそうではないか。これは慈悲だ。それとも手足を一本ずつ斬られたいか?」


 赤みがかった岩の肌、三つの顔と、六本の腕、背にするは桁違いの鬼火、持っている剣はまず間違いなくアルカと同じかそれ以上の業物。


 物腰から分かる。


 一目で分かる。


 手に負えない。


「に、逃げるでしゅ!! 無理でしゅ!! 死ぬでしゅ!! 死んでほしくないでしゅ!!!」


 同じようにシロも戦力差には気づいているようだ。引っ張って逃がそうとしてくれている。


 当然か。


 俺じゃあ勝てないもんな。


「シロ、俺は今からこのアシュラを倒す。それができなきゃ、この先もないんだ。それに、逃げ場もない」

「ほう、気づいていたか。逃げ場はすでに潰した、我に殺されるかそれとも我を打倒するかだ」

「アシュラ、お前のいう通り俺は弱い。お前から見ればそこらの石と変わらないだろう」

「然り、ただ蹴散らされるのみよ」


 はっきり言いやがって。


「小石につまずいて死ぬ奴もいるって事を覚えて逝けよ」

「舌戦はもう良いか? 貴様は戦意を示した。ならば蹴散らすのみ」


 クソ、時間稼ぎもさせてもらえないか。


「……5分でしゅ」

「シロ?」

「5分以内にあいつを倒すでしゅ。それまでは、保たせるでしゅ」


 5分とはなんの制限だ。保たせる? 何を?

俺を? それまでは俺とアシュラは戦える?


「別れは済んだな?」


 風を感じた。


 それが首を通った一撃である事に気づくまで瞬き3つ分の時間が必要だった。


「妙だな、確かに当てたが」

「……そういう事か」


 すり抜けの感覚はヘルヘイムに来た時と似ていた。違うのは自分の感覚がそのままである事。


「そこだ!!」


 振り抜いた姿勢にアルカを叩き込む。


「遅い、それに軽い。蛇腹剣は珍しいがそれだけよ」


 シロは言った。


 5分だと。


 この状態が維持できる限界か。


 相手の攻撃は通り抜け、こっちの攻撃が通じる今しか勝機はない。


「やはり石だな、なんの面白みもない」


 全力を叩き込む、アルカを、桜腕を、鬼火を、全て使って攻撃を続ける。


「その手品、長く続くものではあるまい。タネはなんとなく分かるが、もう少し遊ばせてもらおう」


 攻撃の回転を上げる、限界まで。


「早くなったな、多少」


 六本腕の一本分、俺が使わせているのはそこまでだ。


 歯が立たないどころではない。それでも俺が一回攻撃する間に十回は死んでいる。


 斬撃が、刺突が、俺の命を刈り取っていく


「くそ、くそ、まだだ、まだやれる」

「もう引き出しはないのか? つまらんな。死ぬか」

「うぉおおおおおおおおおお!!!!!」


 限界を超えて動き続ける。


「もう良いな?」


 アルカが相手の剣に巻き取られ、俺の手から離れて飛んでいく。


「よく頑張った。諦めない胆力は評価しよう。だがここまでだ。石は石らしく、身の程を弁えるがいい」


 鬼火を纏った剣が振りかぶられる。


「(避けるでしゅ!! これは避けきれないでしゅ!!!)」


 剣が俺の中心を正確に断ち割った。


 

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