第30話 生きた雷 デーレ・ビクトリウス

 デーレ姉さんの攻防は、基本的に雷と同じ速度で行われる。


 動き始めると凡人の俺ではほとんど見ることができない。


 だから、何が起こっているのかは、相手の様子から推測するほかない。


「良いぞ、素晴らしい速度だ」


 ダイコクテンと呼ばれた三つ目は、デーレ姉さんの動きに対応できているらしい。目まぐるしく動く黒い炎がそれを物語っている。


「だが惜しい。貴様では我に傷を与える事ができない。先に体力の尽きる貴様には勝ち目がない」

「うるさい」


 三つ目の左側が消し飛んだ。


 おそらく、強めに殴ったのだろう。


「ば、馬鹿な!? 黒炎だぞ!?」

「黒炎は、速さと力で突破できる。知らないの? 使ってるのに」

「馬鹿げている。貴様の言う方法は黒炎の反応速度を超える事が絶対条件。貴様にそこまでの速度はないはずだ!!!」

「それならさっき潰された目はなんなの」

「ただの偶然だ、2度目はない!!」

「そう」


 三つ目の右側が消し飛ぶ。


「偶然、ではないのか!?」

「そう言ってる。これで終わり」

「させぬ!!」


 最後の目が光を放つ。一つだけ閉じていた目は炎を宿していた。


「我が目は世界を灼く」


 おそらく熱線か何かを発射するのだろう。


「三眼寂滅!!」


 案の定、でかい光線が発射された。デーレ姉さんにそんなもの当たるか。


「うっとうしい」


 避けるまでもないのか。正面から破るつもりだ。


「消えて」


ダイコクテンを超える規模で放たれる雷撃は熱線を飲み込んでいった。


最期の悲鳴すらなく、ダイコクテンは消滅した。

 凄まじい。そうとしか言いようがない。分かってはいたが、ここまでとは。力の差を見せつけられた。


俺はあの隣までいけるのだろうか。


「ふぅ、これでシンちゃん……が」


 辺りを見渡した姉さんと目が合う。


「あれ、お前の姉ちゃんでしゅ?」

「ああ、デーレ姉さんだ」

「バチバチしてかっけえでしゅ……」

「お前はよく分かってるな」


 だが、まだ浅い。これから深めていこうな。


「シンちゃん」

「姉さん……」

「言いたい事はたくさんあるの。でもね、お姉ちゃんは今からシンちゃんに向かって倒れ込むから受け止めて」

「え、ちょっと姉さん!?」


宣言通りに倒れ込んできたのを受け止める。


「寝てる……?」


もしかしたら今までまともに寝ていなかったのかもしれない。


「で、この状況どうするでしゅ」

「姉さんを抱えたまま滝を突破できない以上はここに居るしかない」

「やっぱりそうなるでしゅ?」


 姉さんに傷がつくようなマネはできない。


「おめでとうございます!!! ボスの撃破を確認いたしました。レコードタイムです!!!」


 まだ何かあるのか、ダイコクテンは消え去ったから戦利品はないぞ。


「挑戦ありがとうございました。報酬として記念クレジットを進呈いたします」


 そうだった。前にももらったな。


「それじゃあ、この玉に使う」

「認証します。これより賢者の石より超高効率熱量保存容器【星】を譲渡いたします。なお、利用の際にはご自身でチャージしていただきますようお願いします。それでは3カウント後ダンジョン外に転送いたします」


 今転送って言ったか!?


「3、2、1、またのご利用をお待ちしております」


 視界が切り替わる。滝の轟音が聞こえるという事は本当に外らしい。


「姉さんは!?」


 どこにも異変は無さそうだ。良かった。


「むにゃむにゃ……」


 気持ちよさそうに寝てる。


「このまま姉さんを放って置くわけにはいかない。1番近い街はどこにある」

「あっちの方でしゅ。日が暮れる前には着くでしゅ」

「分かった、ひとまずそちらに向かうぞ」

「了解でしゅ、じゃあシロはちょっと寝るでしゅ。着いたら起こすでしゅ」


 そう言って姿を消したシロ。あんなふうに喋っていても、相当無理をしていたに違いない。


直接回復した俺よりもずっと辛かったはずだ。ゆっくり休んでほしい。


「行くか」


 方向と距離はなんとなく分かった。あとは行くだけだ。


********


【三眼灼滅】

超必殺技

目から出るビームでどんなものでも灰にできるぞ。唯一の弱点は、自分より出力の高い技には意味がないという事だ。


【雷審】

デーレ・ビクトリウスが放つ雷撃。通常技である。


敵は撃たれて初めて理解する。これが審判の雷であった事を


【星】

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