第22話 白翼の力
「……なるほど、こうか」
野営の準備を進めながら腕の調子を確かめる。確かにこれはなかなか面白いかもしれない。
街へ向かうことも考えたが、流石に状況を整理する時間が欲しかった。
「ん、今起きたでしゅ」
「おはよう、なかなか面白いものをもらったみたいだな」
白い羽の刻印の入った手が木の棒をすり抜ける。半ば霊体のように振る舞えるらしい。今のところ腕一本分が限度だな。
どこまでできるかも分かった。物理干渉は任意で可能、触れるものと触れないものも選択可能と。あとは大きさ長さを多少変形可能なのと、分離して少し遠くのものが取れる。視認不可にまでできるか。
「なんで使えるでしゅ? まだ何も教えてないでしゅ」
「俺が持ってる力でな。初見だろうがなんだろうが使い方が分かるんだ」
「ず、ずるいでしゅ!! シロの仕事がなくなったでしゅ!!」
ずるい、か。そんな風に言われたのは初めてだ。いつも言う側だったからな。
「がっかりしなかったでしゅ? あんなに大層な事を言っておいてこんな程度かって」
「そんなわけがあるか。腕一本でも使い道はたくさんある。ありがとうシロ、俺は強くなった」
「もっと感謝しても良いんでしゅよ!」
「はいはい。それでお前は何を食うんだ? 用意できるものなら良いが」
「お前でしゅ」
「ん?」
「お前の生命力を直接もらってるからの必要ないでしゅ。むしろお前がきっちり食事して眠って健康で居てくれないと困るでしゅ」
「……今まではどうしてたんだ」
「虫とか木の生命力を吸ってたでしゅ」
「同じようにできないのか?」
「できないでしゅ。今はお前だけがシロのご飯でしゅ」
「……分かった」
なるほど、宿主か。言葉通りの意味だったな。
「特別に何か用意してやる必要はないんだな?」
「……えっと、たまに血が欲しいでしゅ」
「血か、それには理由が?」
「血を媒介にして繋がりを作ってるでしゅ。だから定期的にもらわないと腕が元に戻るでしゅ」
「なるほど、どれくらい必要なんだ」
「シロの腹が満ちるくらいでしゅ」
……よく分からないな。でもまあ、大した量じゃないだろう。シロは小さいしな。
「了解した。それじゃあブランカを打倒するための作戦会議をしたい。知ってる事を教えてくれるか」
「ダメでしゅ」
「……どういう意味だ。事と次第によっては関係性を見直すぞ」
「あ、違うでしゅ!! そういう意味ではなくて、もう遅くなるからお前はさっさと寝るでしゅ。お前の健康が損なわれると困るでしゅ!! 裏切りとか離反とかそういう事では決してないでしゅ」
「そ、そうか」
なんかすごい剣幕だったな。
「ほら、さっさと寝るでしゅ。明日ゆっくりと話すでしゅ」
「分かった分かった。おやすみ」
********
やっと寝た。シロの宿主がまさかこんな男になるとは思わなかったけど。でも、姉ちゃんに挑めるのはコイツだけだ。
「姉ちゃん、きっと助けるでしゅ」
にしても、コイツは一体なんなんだろう。得てすぐにシロの力を使い始めた。そもそも持ってる剣と妙な腕から凄まじい執着を感じるのは何だろう。
たぶん女だ。
なんでシロが見初めた奴に先客がいるのだろう。なんかちょっと怒りを覚えるのはなんでだろう。
なんでこいつは1番最初にシロと出会ってないんだろう。
シロにはコイツしかいないのに、コイツには他に頼りにする相手がいるみたいだ。
なんだろう。
なんだろう。
このモヤモヤはなんだろう。
納得できない、理解はしてても。
どうしてシロが1番じゃないんだろう。
でも良いんだ。
そいつは今はここに居ない。居ないやつはどうしたって居るものには勝てない。
居ないものは、何もできない。
これから少しずつ1番になれば良い。シロが1番になってしまえば良い。
だって、仕方ない。
どうしたって仕方ない。
誰にも言えない秘密を言って、誰にも理解されない心を認めてもらって。身体に入り込む事さえ許された。
見殺しにしても良かったのに、助けてくれた。
斬り捨てても良かったのに、手を差し伸べてくれた。
一緒にやろうって言ってくれた。
共に行こうと示してくれた。
逃げ出して、今更になってもがいているだけのシロに対して。
それはもう仕方がない。
ここまでされたら仕方がない。
絶対に言わない、絶対に態度に出さない、絶対に悟らせないけれど。
こいつの運命はきっとシロじゃない、それでもシロの運命はこいつしか居ないんだ。
ここで誓おう。
聞こえていないうえ、迷惑かもしれないけれど。
白霊鳥の元筆頭、フギン・シロの名にかけて。姉であるムギン・シロをブランカの名から解放した時には、身も心も全てを捧げると。
要らないと言われても絶対に捧げてやる。その時が来るのをシロは楽しみしていよう。
*********
【半霊腕】
白霊鳥の刻印、それは一心同体の契約。肉体的特性を共有する半ば融合状態とも言うべきもの。寄生のように思えるが、実は生殺与奪の権利を握っているのは人間側であり、血を与えない事で一方的に白霊鳥の命を奪うことができる。
求めるならば、まず与えよ。言う事は簡単だが、実のところ何よりも難しい。
【白霊鳥】
霊体と実体を持つ希少な一族。希少さゆえに敵が多く、盾王の庇護下にある。
白翼の背後には一族全てがある。ゆえに白翼は堕ちない、ゆえに白翼は負けない。己が命を使い切るまで。
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