第23話 対白翼の手段
夢を見た。
デーレ姉さん、ラァ、自分が横に並んで戦っている様子だ。
ありえない光景だ。
俺だけが、釣り合わない。
俺だけが、弱すぎる。
弱者は戦場を選べない。
強者の隣には、居られない。
「ちくしょう……!!」
歯ぎしりをしながら目を覚ます。
「ずいぶんうなされていたでしゅ。悪い夢でも見たでしゅか」
「大丈夫だ、夢というか現実を見た」
「……?」
首をかしげるシロ。それはそうだ、寝てたやつが現実を見たなんて意味が分からないだろう。
「ほら早く朝ごはんを食べるでしゅ」
「果物……これはお前が?」
「当然でしゅ。宿主の健康はシロの健康。不摂生など許さないでしゅ」
目の前には小さな山となった果物があった。それらは俺の知識と照らし合わせても食えるものだった。
「ありがとうシロ。でも、次集めに行く時は俺を起こしてくれ」
「睡眠舐めんじゃねえでしゅ……寝ないだけで生き物は死ぬでしゅ。睡眠舐めた奴はみんな死んじまったでしゅ」
なんかすごい圧だ。
「いや、その理屈ならシロも寝ないといけないだろ。俺ばっかり寝ててシロがどうにかなったら困る」
「シロは半分くらい霊体でしゅ。だから睡眠も半分で良いでしゅ」
その理屈は通っているのか? 霊体ではない身ではなんとも言い難い。
「そう言われると言い返せないな……」
「でも、気遣ってくれたのは嬉しいでしゅ。では報酬に撫でるでしゅ」
ご褒美に撫でるというのはよくやっていた。あまり時間は経っていないが懐かしい。
「どっちの腕がいい?」
「木の方は怖いから嫌でしゅ!!」
刻印がある方の腕で撫でた。ツルツルふわふわで実に良い手触りだ。
「すごい……」
「ふふーん!! そうでしゅか!! 触り心地に関しては他の追随を許さないと自負しているでしゅ」
「ああ。姉と妹の髪に次ぐ手触りだ」
デーレ姉さんの髪は帯電していなければサラサラだし、ラァの髪はふわふわだ。俺の中で最上の手触りとはその2つ。
「は?」
「ん?」
あ、これは間違えたな。ダメなものに触れた。一気にシロの纏う空気が澱んでいくのを感じる。
「ふぅうううん、そうでしゅか……」
放っておくと悪化するタイプの「ふーん」だ。何か言っておかないと。
「シロ、無神経なことを言った。すまない。撤回しよう、お前ほどの羽は今まで知らなかった。別のものを引き合いに出さなければ評価ができなかったんだ」
「……次はないでしゅ」
「分かった、もうしない」
ギリギリで踏みとどまったか。
「さて、少しこれからの話をして良いか」
「聞くでしゅ」
甘酸っぱい果実を齧りながら話を続ける。
「俺があのブランカと戦うにあたって、何が足りないと思う?」
「全部でしゅ」
それを言われると頷くしかないのが悲しいところだ。
「それはそうだが、もう少しだな……」
「冗談でしゅ、まず最低限の基準は満たしているでしゅ。飛べるし、触れるようにもなったでしゅ。本当ならそこからでしゅ」
「触れるようになった?」
つまり白翼のブランカは通常では触れることすらできない?
「姉ちゃんの身体はデカくなっても性質は変わらねえでしゅ。つまりは霊体を含んでいるでしゅ。というか、あの巨体のどっかにシロと同じ大きさの姉ちゃんがいるでしゅ」
「ほとんどが霊体ということか」
巨大化の能力があるのかと思ったらそういう事か。大きな体は大きな鎧を纏っているようなものということだな。
「その通り、だからのただ武器とかじゃ意味ないでしゅ霊体を殴るには霊体でないといけないでしゅ」
厳密に言えば、そうではないが。霊体に傷を与える装備など持ち合わせていない。
「その点この腕ならという事か」
「そうでしゅ」
なるほど、手段はある。しかしな……
「どう考えても届かないし。届いたとしてもどうにもできない気がするが」
「今のままだと、無理でしゅ」
「その口ぶりだと何か心当たりがあるんだな?」
「ふっふーん!! シロには秘策があるでしゅ。貧弱な宿主をもっと強くする秘策が!!」
胸を張るシロ、ふわふわ小鳥なのも相まってすごく可愛い。
「それはすごいな。どんな策だ」
「ここからしばらく行った先に谷があるでしゅ。そこにある滝の裏側の最奥にとんでもないお宝があるでしゅ」
「お宝?」
「そうでしゅ。シロの一族に伝わる話によると、そのお宝を使えばどんなものでもすごい力を得られるんでしゅ」
「……なるほど」
かなり胡散臭い。だが、今はこれを信じてみるしかないか。もしかしたらスカイフィッシュと同じ出所のものかもしれない。それなら馬鹿げた性能をしていても不思議ではない。
最後の果物を飲み込んで立ち上がる。
「それじゃあ行くか、そのお宝を取りに」
「先導は任せるでしゅ!!」
そう言って勢いよく飛んで行ったシロ。数秒後、他の鳥に鷲掴みにされた。
「いやあああああ!!!? 助けてぇええ!!!」
「……狙ってやってるのか?」
「んなわけねえでしゅ!!?」
一閃して助け出した。
「うう……肩に止まって指示を出すでしゅ」
「それが良いな」
シロの定位置が決まった瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます