第15話 散華
「オマエハ、ニンゲンチガウ、イイニオイ、テキチガウ」
「お前はとっくにオイラを怒らせてんだ、違うだの違くないだの言う時間はもう終わってんだ」
逆巻く風がアルカの感情を代弁しているみたいだ、にしてもあいつ匂いで人の区別つけてるのか。俺の事は臭くてアルカの事は良い匂いってのはなんとなく分かるが。
「アルカ!! 頼む!!」
「うん、今から細切れにするから見ててくれ」
「う、うん」
ん? なんか、雰囲気が変わったか? なんか姉さんとラァに近い雰囲気を纏っているような? 気のせいか? 気のせいであってくれ? 笑い方が何か昏くなっているような気がするんだけど、きっと今だけだと思いたい。
「シン」
「ん? なんだ」
「目を、離さないで」
「ああ、分かった」
「絶対、だ」
「ああ」
うーん、手遅れかも。あの目はなかなかヤバい時の2人と一緒だ。
「というわけで、お前を殺すぞ」
「オロカ、ハナヲ、チラスカ」
「散るのはお前だ」
「ヘラヌクチ」
鱗粉が、今までの比じゃない量散布された。逃げ場は、ない。
「ははははは!!!! オイラの風と相性最悪だな!!!」
「そうか、風なら鱗粉を動かせる……いや待て」
あれは爆発する、それなら風で一気に巻き上げようものならどうなるか。そんなの分かりきっている、大爆発が起きる。
「止めるんだアルカ!!」
「心配するなって、オイラだって分かってる。これは爆発するんだよな」
「分かってたのか!?」
「ああ。でも、オイラはそんなこと気にしない」
「へ?」
「正面からプライドをへし折って地面にたたき落としてやる」
普通に風使う気マンマンだ!?
「くっ!!」
確実に爆風がここまで来る、耐える体勢にしなければ。
「いくぞぉおおおああああああああああああああああ!!!!!!」
来た、アルカを中心にして風が、そして。
「うおおおおおおおおおお!!?」
うるせえし、風すげえし、もう何も分かんねえ!!
「どうなったんだ!? アルカ!! 無事か!?」
煙が出すぎで今何がどうなってんのか全然分からない。今の爆発を耐えきってあのデカブツに突撃できたのか?
「ーーーー」
「■■■■」
何か、言い合ってる? つまりアルカは無事だ!!
「ははははははははは!!!!」
「キサマ、ホントウニ、ドリア-ドカ」
「その程度か、尊大な態度割に弱いんだな」
「マジか……」
俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。
「ここまでとは思ってもみなかったな」
片羽を失って地に伏せるデカブツ、それに乗って見下ろすアルカ。誰がどう見ても勝者は明らかだった。
「見てるかシン!!」
「ああ!! 見てるぞアルカ!!」
「そっか、じゃあこれからこいつバラすから」
「バラす……?」
「いっくぞー!!」
桜が舞う、風が渦巻く、それはさながら削岩機のようで。
「イギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
「あはははははははははは!!!!! お前がオイラからシンを奪わなければこんなことにならなかったのにな!!! 苦しめ!! オイラの痛みはこんなもんじゃない!!!!!」
飛び散る体液、抉られゆく肉、止まない悲鳴。
「こ、れは」
「あはははははははははははははは!!!!!!!!」
これをやり過ぎだと、残酷だと、そう言う権利が俺にあるだろうか。俺ではこのデカブツを倒せなかった。それを倒して貰っておいて、こんなやり方はないだろうなどと言えるだろうか。言えないだろうな、そもそも俺が穴に飲まれなければこんなことにはならなかった。弱者は勝ち方を選べない、選ぶ強さを持ち合わせない。
「それでも、だ」
「ん? どうしたシン。まだまだこいつには痛い思いをしてもらうんだ」
「アルカ、もう良い」
「もう、良い? 何が? オイラからシンを奪ったコレを許せって? なんで? そんなこと言うんだ? オイラは痛かったぞ? 全身が張り裂けるくらいの痛みだぞ? それを? この程度で? シンはオイラのことキライか? だから止めるのか?」
ああ、この目、この詰め方、懐かしいな。姉さんとラァもたまにこんな風になったっけ。おっと、こんな風に考えてると察知されるんだよなこういう時。
「今、オイラ以外の事考えただろ」
「生き別れの姉妹が居るんだ、それを思い出していた。今のアルカみたいになることも結構あったんだ」
これを言うと大体の答えは予想がつく。次にアルカが言うのはたぶん。
「今、シンと一緒に居るのはオイラだぞ」
まあ、大体こうなる。ここで返答を間違えようものなら、ちょっと命の保証ができない感じになる。というか何回かなった。
「アルカ、実はこの化け物の身体を使って装備を作りたい。軽くて良い素材になりそうなんだ、俺は弱いから少しでも装備で埋めたい」
「あ、そーいう事か!! ごめんな、崩しちゃって!!」
相手が納得できる理由を見つけられればこんな感じで丸く収まる。ここでしくじると次の詰めが始まって困ったことになる。ここのポイントは自分の目的がちゃんとあって止めたと言う事だ、口が裂けても相手の行動に関してコメントしてはいけない。
「こっちこそ悪いな、まだ足りないと思うが」
「ううん、もう良い。手を繋いでも良いか?」
「ああ、良いぞ」
こうして、俺の初めてのダンジョン攻略は終わった。
「あ」
いや、終わってないな。ダンジョン攻略したらお宝探しのターンじゃん。
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【仇討桜】
己に刻まれた痛みは肉体にあらず、心に、魂に刻まれしものなり。とすれば、なんとする。怨敵を滅し、奪われたものを取り返す他に道はなし。心せよ、我が花を全て血に染めようとも、受けた仇は万倍にして返上せん。
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