第14話吹けよ神風、墜ちよ虫

「か、ははは、動けねえか」


 身体にまるで力が入らない、このままじゃ体当たりで圧死するか爆殺されるかのどっちかしかねえ。敵のミスで勝ったと思ったら強化状態に変態するとか、ダンジョンの試練は厳しいな。


「く、そが、動け動け動けええええええええええええ!!!!!」


 気合いでどうにかなれば苦労はない、声も出せなくなったらもうダメだが。一応叫ぶ事くらいはまだできる、絞り出せ体力を、燃やし尽くせ命を、それができなきゃ俺はここで終わる。ここで何か、新しい力に目覚めたりすれば良いんだが、そんな都合の良いことは起こらないだろう。そういうのは素質に溢れた精鋭が命を振り絞った時だけに起きる奇跡だ。凡人が当然のように死ぬときには起こりえない。


「カァアアアアアアア……」

「なんで時間をくれるのかは分からないが、できる事はまだあるか」


 そろそろ身体が冷えてきた、血を失いながら動き回りすぎたな。痛みも凄いんだろうがもう麻痺してしまっている。それなら足の1つでも動いて欲しいんだけどな。あいつが滞空しているうちに立ち上がる事くらいはしたいが……


「く、ぅううううううううううううううう!!!」


 力を、こめろ、少しでも、動け、立ち上がれ。


「パチッ」


 なんだ? 静電気が走った時のような音がしたぞ。俺の記憶が正しければ、この音は姉さんが良く出していた音のはず。ここは確かに乾燥しているが、今動けていない俺が静電気を食らう? 何かが起こった、のか?


「うご、いた」


 足が動く、動くぞ!? 今の今まで動かなかったのに!?


「おかしな感覚だ、足に力は入っていないはずなのに。どうして思い通りに動く? ん?」


 俺の【熟練工】が告げる。使える道具があると。


「……これか」


 姉さんの髪を梳かすのに使ってた櫛が微弱な電流を帯びている。それが俺の身体を無理矢理動かす事に成功したらしい。髪を梳かすだけで魔法具を生み出すなんて、我が姉ながらつくづく規格外な存在だ。ていうかなんで木が帯電してるんだ。


「だが、これで動ける」


 俺の動きを補助してくれる以外の使い方はないようだ、今取り得る最善の手段は一刻も早くあいつから離れる事。


「こんなところでまで、助けられるなんてな」


 飛んでいるあいつはまだ動かない。組み立てろ勝ち筋を、組み上げろ戦術を、何かできる事はないのか。


「あ」


 迂闊、そう言うほかない。上を見すぎて、前を見ていなかった。目の前には光る鱗粉、恐らく触れたら爆発する類のもの。


「死っ!?」


 正面から爆発に巻き込まれ!?


「……ん?」


 さらりとした感触、そしてほのかな甘い匂い。


「ラァの砂糖?」


 俺を爆発から守ったのは、ラァが使っていた砂糖だった。


「あの時食った奴の残りがあったのか?」


 赤い色が混ざるそれは、確かにあの時食べた塊の色だ。


「守られてばっかりだな、俺は」


 もう、見落としで爆破されるような真似はしない。


「キェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「くそ、動きやがったか!!」


 こっちに向かって飛んで来やがった、まだなにも考えついてないってのに。俺はどうしたら。


「え?」


 【熟練工】が告げる、腕を振れと、それで助かると。しかも、これは無い方の腕だ。馬鹿げている、しかし、スカイフィッシュの時も同じだった。訳の分からない行動でも、それは確かに道具の使い方に他ならない。それが俺の【熟練工】なのだから。


「信じてるぞ【熟練工】!!」


 無い腕を必死で振る、それで何が起こるかも分からぬままに。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 腕生えた!? 


「なんで俺の腕から木が生えるんだ!?」


 木の根が絡まったような腕が確かに俺から生えていた。これは多分アルカと同じもののような気がするが

、これは俺の意思で動く、そして、伸びる!!


「気にするな!! 今は離脱だ!!」


 壁面にまで伸ばした俺の腕に引っ張られるように身体が高速で動く、これは良いぞ、伸縮自在、加えて複数の根として扱うことも可能と来ている。だが、なんで今こんな、考えろ何かあったはずだ。


「……仕込まれたのはあの時か」


 アルカに手を握られてチクッとした時に種でも入れられたと考えるのが自然だ。桜に寄生樹としての素質があったのは驚きだが、それ以外に考えられない。


「助かったから不問としよう」


 なんてことしてくれやがると言うのは簡単だ、だがまあそれで助かってんだからなんも言えないな。


「とはいえ、火力不足は否めない」


 流石に腕を伸ばしてあいつをたたき落としたり、絞め殺したりってのは無理そうだ。そんなことができるなら【熟練工】が提示してきているはず。


「どうするか、ん?」


 ふわりと俺の頬が何かに撫でられる。


「っ!?」


 ひらりと舞うのは桜。


「まさか!!」


 天井にあたる部分にヒビが入る。


「遅いじゃねえか」

「シィイイイイイイイイイイイイイイイイイン!! ここかぁああああああああああああああ!!!」


 根をぶち破って竜巻と共にアルカが降り立った。


「お前か、お前がシンをオイラから奪ったんだな? 楽には殺さない、オイラの痛みを知ってから死ね」


————————————————————


【微雷櫛】

 雷神の髪を梳かす権利はこの世に2つ、最愛たる肉親とこの櫛のみ。微弱ではあるが、雷神の持つ雷を宿し持ち主の動きを補助する。一説によれば、この櫛が他者の手に渡ったときこの櫛は自壊するという。それは雷神の思いの顕れだろうか。

【血守糖】

 お別れの挨拶をしましょう♪ これは一度きりの指切り♪ 愛する貴方を守りましょう♪ もはや届かぬあこがれでも♪ 私は貴方を想います♪ 今の今まで溜めてきた♪ 私の盾を使いましょう♪ さよなら貴方♪ 愛しい貴方♪ 

【桜腕】

 なぜそうしたのか分からない、つなぎ止めねばと思ったときに身体は動きを完了していた。桜にあるまじき所業、それを厭わぬほどに、欲しかった。それは名と共に飛来した感情。














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