第16話トレジャーハント&カース

 さぁさぁ、お宝探しですよ。と言いたいところだが、その前に一応確認をしなければいけない事があるな。それは、俺の腕の事だ。


「アルカ、これの事なんだけど」

「びくっ!?」


 いや、そんな「え? 何で気づいたの?」みたいな驚いた顔をされても。どう考えても俺の身体から自発的に生えるようなものじゃない以上はアルカの仕業なんだから、そりゃあ聞くよ。


「お、オイラとおそろいだな?」

「そうだな。で、これが俺の命を救ってくれたわけなんだが」

「っ!? そうなのか!! 良かった!! あ」

「手をつないだ時に仕込んだな?」

「う、うん」

「そうか。さっきも言ったけど、これのおかげで助かった。ありがとう」

「え、怒らないのか」

「怒る? 命を救って貰って怒る奴がいたらそいつは死んだ方が良いな。もう一度言う、ありがとうアルカ」

「そ、それほどでもあるかなぁ!!」


 怒られると思って身と心を固めた者には何を言っても無駄だ、内容なんて入ってないしなんなら怒られたってだけでメンタルがバッキバキになって戻ってこない可能性すらある。姉さんとラァを諭す時もこんな風に1回褒めてからやんわりと伝えるようにしていた。1回普通に怒ったら2人とも1月寝込んだからな。


「でもな、次にそういうことをするときは事後報告でも良いから俺に教えて欲しい。すごく驚くから」

「うん、そうする」


 本当は事前報告にして欲しいが、衝動的な動きっていうのは止められないのはなんとなく分かる。理性と思考が戻って来た時にはもう行動が終わってるみたいだから。


「く……」

「大丈夫か!?」

「ああ、ちょっと血が足りなくて」


 ん? まさか、そんなこと、できるのか? 【熟練工】ができると言うならできるんだろうが。これやったら本格的に人間離れしたことになるんじゃ……


「まあいっか」


 桜の腕を地面に垂らす、そして瞬間的に根を張って養分を吸い上げる。


「うわ、一気に元気になった。樹人の身体ってすごいな地面から直接回復できるなんて」

「え、シン何やってるんだ、初めて見た」

「え? 樹人って皆これできるんじゃないのか」

「そんなの知らない、たぶんできないと思う」

「え?」


 おかしいな、【熟練工】で分かるのは誰でもできるようになる範囲のはず。つまり今の俺の身体の使い方はそもそも人間とも樹人とも違うってんだな。


「……これってあんまりやらない方が良いか」

「どうだろう、何やってるか分からないから大丈夫だと思うけど。それでも自然に近しい奴は気づくかもしれないな」

「じゃあ、バレないようにやるよ」

「その方が良いな」


 緊急時の切り札ってことにしよう、これで敵を作るのも嫌だし。


「さて、疑問も解消したところで。何かめぼしいものがあるかと思ったんだけど、なさそうだな」


 別に宝物庫につながる扉が開いたり、もしくは見えなかった階段がいきなり現れたり、天から労いの言葉が降り注いで何かが下賜されるってこともなさそうだ。


「やっぱり、こいつの身体を持ち帰るくらいしかないな」

「こんなには持ち帰れないぞ?」

「まあ、普通に考えてそうだよな」


 となれば、半壊したデカブツの何処を持ち帰って何を作るかを考えなきゃならない。


「ん?」


 結構グロテスクな光景の中に、何か光を放つものがあるのを確認した。あいつの鱗粉が光ったのかと思ったが、死んでからは鱗粉が爆発することもなかったので別のものだろう。腹の中っぽいから何か飲み込んでいやがったのか。


「うわ、ぐちゃぐちゃしてる」


 体液と臓腑をかき分けて手に取ったのは、木目の入ったインゴットのようなものだった。こいつは金属を食っているわけではなかったから腹の中で木が固まったものだと思うが。木がこんなにカッチカチになるものか。


「アルカ、これって何かに使えると思うか」

「し、ししし、シン。それって、ダマスカスじゃないか!!」

「騙すカス?」

「違う!! 世界樹が永い時間をかけて抽出されないとできないもんだよ!! 貴重なんていうレベルじゃないぞ」

「そんなにすごいのかこれ」

「それがあれば、とてつもない武器が作れる!! やったなシン!!」

「……俺が扱えるレベルを超えそうだな」

「あ」


 強い武器には高い技術と高い身体能力が要求される。そんな伝説の武器みたいなものは姉さんやラァが使うならまだしも俺が持っても振り回されて終わる未来しか見えない。使えない武器は持って投げられる路傍の石に劣る。


「でも、もったいないし。どうにか……」

「どうにか、なりそうか? たぶん武器の形にした段階で俺のキャパを越えるぞ?」

「うーん、オイラの枝を混ぜ込んで純度を落とせばなんとか」

「純度を落とすなんてできるのか」

「そもそも、これって世界樹の塊だからな。そこにオイラの桜を接ぎ木すれば少しは扱いやすくなると思うぞ」

「是非ともやってくれ、少しでも可能性があるのなら」

「……それでもキツいと思う、だからもうひとつ混ぜたいものがある」

「なんだ、なんでも良いぞ」

「これ」

「……俺の、腕?」


 そういやアルカが持ってるのに違和感はないな。なんか、切り離されて割と経つけど新鮮に見える。


「根をつなげてオイラの一部にしてある、自分の一部まで混ぜ込めばきっとシンにも使える武器になる。でも腕を返して欲しいっていうなら」

「ん? 俺の腕はもうあるから使って良いぞ」

「でも、それは元々の腕じゃ」

「俺はこの腕の方が気に入ってる」

「っ!! そっか、じゃあ要らないな!!」


 まだ腕の事を気に病んでいたのか、そんなのもう良いのに。これできっぱり後悔を断ち切ってくれると良いんだが。


「好きな形にできると思うけど、何か使いやすい形はあったりするか?」

「いや、特に得意も不得意もないんだ。どんなものでも人並みに使える。その代わり達人レベルにはなれないからあんまり月並みな武器だと埋もれかねないかもしれない」

「突飛な武器の方が良いのか、普通に扱うまでがとんでもなく難しいような」

「そんなものがあれば、だけどな」

「そーだな、重さに関しては木製だから問題ないとして。持ち歩く時に邪魔にならない長さと、複雑な動きが必要になるという特徴を持った武器か」

「そんなもの……思いつかないな」

「うーん、一応あるにはあるが。これが実用に足るものなのかオイラには全然分からないな」

「どんな武器だ」

「伸びる剣」

「え? 今なんて」

「だから、伸びる剣だって。刃の間に繋ぎの部分を入れて鞭みたいに使える武器が神話に登場するんだ。はっきり言って使いにくいなんてもんじゃないと思う、耐久性の部分はダマスカスが解決してくれるけど」

「それ、良いな。誰も使ったことのない武器なら俺が平々凡々な腕でも唯一になれる」

「本当に良いのか? 後悔しないか?」

「良い、やってくれ」

「……分かった」


 ダマスカスとアルカの枝、そして俺の腕が1つに混ざり合っていく。


「うぐ、あああああああ……!!」

「痛むのか!?」

「いや、オイラは大丈夫だ。続けるぞ」


 枝って簡単に言ったが、それって腕をそのまま金床に打ち付けて剣と融合させるようなものじゃないか!! 苦痛を伴うに決まっている!!


「……頼む」


 俺はこれを止められない。止めてしまったら、アルカの献身が無駄になる。


「はぁっ……はぁっ……できたぞ……これが……シンの武器……だ」


 アルカが倒れる、無理もない。文字通り身を削ってくれたんだから。


「ありがとう、アルカ」

「へへ、これでおそろいだ」


 片腕にあたる枝を失ったアルカが嬉しそうに笑う。そんなおそろいは望んでいなかったんだけどな。樹人の腕は生えてくれると嬉しいんだが。


「この剣の名前はアルカにする、この恩を忘れないために」


————————————————————


【神樹鋼剣アルカ】

 分割される刃は鞭の如き挙動をする、桜の樹人たるアルカと凡人たるシンの肉体が混ざっている事で生きた武器と化している。そのため低ランクの固有技能を有し、風を纏うことができる。

 伝説の武器となる事を手放して製造された凡人のための武器であるが、伝説の英雄と凡人、伝説の武器と粗悪な武器、その間にある壁は脆く儚い幻想に過ぎない。








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