第6話 挙げた手とその結果
「なんだぁあああああああああ!!?」
地面、離れ、俺飛んで、なんで?
「シンちゃん!!?」
「お兄様!!?」
下に姉さんとラァ。あの2人が追いつけない? そんなの事があるのか?
「違う、俺の周りに何か……」
薄い膜のような……? これのせいで近づけないのか。でも、これはいったい。
「見るのが怖くて、わざと見てなかったが……」
原因は俺の右手にあるはずだ。
「……なんだこれ」
俺の右手に何かがくっついている。半透明で細長いナニカ、触手のような翼のようなものが生えているが。こんな翼で空を飛べるはずもない。だから、これが別の方法で飛んでいるはずだ。
「操作、方法? これ道具なのか」
【熟練工】が俺に告げる。存在を認識しさえすれば、誰でも扱える道具の使い方を。
「指の動きで操作するのか」
速度の調整に、高度の調整、その他諸々を全部右手の指で操作するらしい。これがなんだか分からないが、今は僥倖だ。一芝居打とう。
「ぐわぁああああああああああああああ!!?」
「今助けるから!!」
「今行きます!!」
姉さんとラァに追跡を諦めてもらうためには……
「ダメだ!! 来るな!! これは近づいてきた者をこの空間に取り込む古代兵器だ。暴走していて俺の【熟練工】ではどうにもならない!! 姉さんとラァまで犠牲になる必要はない!!」
「そんな……!!」
「う、そ……それじゃあお兄様は」
「俺はなんとかこれを人のいないところに落とす。ギリギリ【熟練工】で干渉できるのは行き先の調整くらいだから。今まで、本当にありがとう」
もう助からない感じで飛んでいってしまえば、追い続ける事もないだろう。
「し、シンちゃん……それ以外に方法はないの?」
「そうです!! ラァとお姉様ならなんとかできるのでは……!!」
「残念だけど、もう時間がない」
こんなことして、帰って来たときにとんでもない事になるような気しかしない。怒られたらその時は、平謝りだな。
「それじゃあ、元気で。幸せになって欲しい。これが俺の最期のお願いになる」
「うん……うん……!!」
「お、おにいさまぁ……!!」
あーあー、そんなに泣かないで欲しい。これが嘘だってバレたら謝るとかそういうレベルじゃなくて、マジで殺されるかもしれない。
「っ!!」
えっと、加速に方向調整っと。後ろの姉さんとラァがどんどん小さくなる。
「にしても早いな、どこに向かうべきか」
理想としてはこのまま降りても特に騒ぎにならないような場所。つまりは市街地とかの人目につく場所はダメだ。森とか、砂漠とか、広大な草原とかそういうのが好ましい。
「ん?」
嫌な音がする、これってあれだろ? 魔法具が壊れる時の音!! そして魔法具が壊れる時は大体爆発する!!
「右腕がぶっ飛ぶなんてごめんだ!!」
急いで高度を降ろす、近場で着陸できそうな所は……あった!! なんか桃色の森だが仕方ない、命には代えられない!!
「早く外さねえと!!」
「ピー、ガガ、プー、この度は
「え?」
今しゃべったぞこれ。しかもこれなんていった、金払えって言った?
「お問合せの際は弊社に念話をお願いいたします。弊社は賢者の石、賢者の石です。どうかお忘れなきように」
「賢者の石、聞いたこともない魔法具メーカーだな。それにこのスカイフィッシュとかいう魔法具も見たことないし」
知らないだらけだが、これで助かったのも事実だ。見かけたら贔屓にしようか。
「んで、ここはどこなんだろうか」
今は別に春でもないのに桜が咲きまくっている。一年中咲いてる桜? スカイフィッシュで結構飛んだし、慌ててたから場所の見当もつかないがこれは普通の光景ではないだろう。
「とりあえず進むしかないか、今の俺に退路はないのだし」
進めども進めども、目に見えるのは桜だけか。こんな場所があるのなら、少しくらい有名でも良いはずなんだが。そうではないということは、ここがよほどの危険地帯かもしくは本気で秘境なのかどっちかだろう。前者ではないことを祈るばかりだ。
「っ!?」
足場が崩れた!? 落とし穴か、原始的だがそれゆえにまともにまればどうしようもない。
「くそっ!!」
そこに槍が仕込まれている可能性がある、少々の傷を覚悟の上で両手足をつっぱった。
「な」
周りの土が、ふかふかすぎて、止まらねえ。
「あー、やっちまったなあ」
今から誰かが愚かな獲物を狩りにやってくるだろう、それが少しでも話の通じる奴だと良いが。
「おい」
「うわぁ!?」
いきなり土から顔が出てきた!? この人は、植物系の特徴を持つ人型種の樹人(ドリアード)か。しかもこの色は桜の樹人か。
「お前、天使様だろ。出してやる」
「てんし、さま?」
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