第5話 一世一代の計画
「ついにこの日が来たか」
今日は俺が今まで培ってきた全てを総動員しなければならない。雷を纏う姉も、砂糖を操る妹も突破しなければならない。
「今日は2人とも用事が立て込んでいて俺への意識が薄くなるはずだ」
姉さん対策には二号を改良した三号を用意した、前回の反省を踏まえて俺の生体源流を模倣して再生するタイプではなく俺の身体とリンクさせて破壊されるまでは全く同じ反応をするように調整した。これなら前回よりも時間を稼いでくれるはずだ。
「こっちも……結構キツかったけど。なんとか間に合った」
ラァの氷砂糖を一塊食い切ったことでとんでもないハンデを背負ってしまったからな。俺の身体の中に溶け込んだ砂糖を無理矢理濾過して体外に隔離する事に成功した。体重を結構持って行かれたせいで体調は最悪だが。
「できればあんまり泣かないで欲しいけど……」
ラァに関しては裏切りに近いことをしてしまったからな。服に関しても、たぶん全部に仕込み直されているだろうから今この場で魔法具を使って織ったやつを着ていくことにするし。下手をしたら二度と口も聞いてもらえないかもしれないな。
「それでも、俺は行くよ。色々言われた事もあるし、自分の身の丈に合っていないとも思うけど」
結局の所、俺も夢を見たいんだ。俺でも、強くなれるって。理屈をこねていたのは諦める理由が欲しかっただけ、手を伸ばさない理由付けに過ぎなかった。
「俺が最強になれるのか、試したい」
逃走経路はこっそり庭に作った坑道、近くの崖に出たら姉さん達に追いかけられないくらいまで遠くまで行く。そこから強くなる手段を探そう、ひとまずはダンジョンの最深部にあるとかいう宝を目指してみようと思う。
「行くか。身代わりがバレないうちに」
地下を進む、万が一にも探知されてはいけないので灯りは使わない。全くの暗闇をただ進む。その先にきっと希望があると信じて。
「っ!? 思ったより早く着いたな。早足になっていたのか……」
焦りによる揺らぎも失敗要因になりうるからできるだけ冷静だったつもりなのに、逸ってしまっていたらしい。
「ん、しょっと……」
偽装した坑道の出口から身体を出す。
「……くそ」
目に飛び込むのは紫電の閃きと渦巻く砂糖。
「シンちゃん、どこに行くの?」
「お兄様、ラァは悲しいです」
「……早いね」
どうして、バレた? 極力隠していたはずなのに。もしくは、俺の極力なんてその程度だったって事なのか。
「うん、まあね。シンちゃんが最近おかしかったから、
「奇遇ですねお姉様。ラァも
24時間体制で張り付かれてたのか……、俺が想定していた前提からして間違っていたと。なんてこった、このままだと連れ帰られる。
「お姉ちゃんね、ちょっと考えを改めたの」
「……俺を行かせてくれるってわけじゃなさそうだ」
だって、手に本気の象徴であるハンマーを持っているから。あんなの食らったら俺は消し炭になるぞ。
「うん。お姉ちゃんは今からシンちゃんの背中にビリビリを流します」
「姉さん、それで俺がどうなるかは」
「分かるよ、シンちゃんはね動けなくなるの。でもね、安心して良いよ。一生お姉ちゃんが面倒見るから」
電撃による全身不随とは恐れ入った、そこまでやる気なのか姉さんは。
「ずるいですお姉様、そんな風になったらラァは困ります。ラァだって、お兄様を砂糖漬けにしたいのに!!」
「あらあら、それじゃあ下半身だけにしましょうね」
「それなら、まあ」
マズいな勝手に俺の半身不随が決定した。
「待ってくれ、俺は」
「ダメだよ、シンちゃんの話はもう聞かない。嫌いって言われてもやるもん」
「お兄様、お覚悟を。ラァ達から離れようとするので仕方ないです」
本気だ、本当の本気で二人はやる気だ。最悪のパターンをさらに越える事態になった。俺が取り得る手段は3つ。1つ目は受け入れること、2つ目は抵抗すること、そして3つ目は逃げることだ。そのどれもが無理難題だ。
「……それでも、俺は行くよ」
「やるよシンちゃん」
「お兄様、傷みはありません。眠るようなものです」
来る。当然のように二人の動きは目で追えたものではない。
「っ!?」
なんだ、【熟練工】が何かを訴えている。時間をかければ誰でもできる事が初めからできるような能力が、今? 何をしろと?
「手を?」
自分に備わった能力を信じて右手を挙げた。
「え?」
なにかが触れる、身体が浮く。
「うえええええええええええええええええええええええええ!!!?」
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【鳥籠の願い】
何時までも隣に居て欲しいと願う、とりたてて目立たない願い。このささやかな願いを叶えるためなら鬼でも悪魔にでもなる。たとえ、愛しき相手の可能性を奪ってでも。
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