第4話妹の追跡は甘くない

「ラァは俺がどこに居るかって分かってたりするのか?」


 デーレ姉さんの人間レーダーみたいな例があるからな、下手に遠回りするよりも直接聞いた方が早いと考えた。これで教えてもらえなかったらまあ、それはそれで別途調査が必要になるか。


「分かりますよ?」

「それはやっぱり何かで判別しているのか」

「はい。お兄様にこれをつけてます」


 ラァの手からサラサラと粒がこぼれていく。これはラァの能力を顆粒状態で使用していることを意味している、そしてこれは俺になかなかの衝撃を与えた。


「……もしかして服に仕込んでる?」

「はい。全ての衣服といくつかの食事に」

「……そっか」


 ラァが操っているのは自らの固有能力によって生み出した砂糖、のように振る舞う謎の粒子だ。実際味に関しても上品な甘みがあるらしく料理に入れても問題はないらしい。だが、問題はそこじゃない。


「一応聞くけど、それいつから」

「どうでしょう、初めてやったのはずいぶん前ですし。それ以降はずっとやっているので何とも……」

「……そっかあ」


 俺の肉体がラァの砂糖を消化吸収している場合、俺がラァの探知から逃げられないことを意味している。というか、姉さんとラァに俺の行動ほぼ完全把握されている気がする。俺のプライベートは存在しないのか。


「あ、でもでも。流石に食べていただいた場合は一日ほどで追えなくなりますし、服に仕込んでいるのもお兄様が嫌だと言うのなら半分ほどに減らしますが……」

「半分なんだ」

「半分です」

「全部……は、ダメか」

「……わかり、ました」


 あんまり表情が変わっていないように見えるが、目は潤んでいるし声も微かに震えている。絶対これ無理してるやつ。本当はしたくないけど俺が言うならギリギリなんとか我慢できるラインってところか。


「やっぱり半分で」

「分かりました!!」


 ダメだった、いくらなんでもあの顔のラァを見続ける事は俺にはできない。これで難易度がまた1つ上がってしまったような気がするが今更だ。


「あ、でもでも。今回はお試しということで、やっぱり気にならないようなら数日ほどで戻しますね?」


 あ、この顔は俺の話聞かない時の顔。これは多分俺がダメだって言っても勝手に仕込まれるな。それなら、ちゃんと自分から期間を設定してしまったほうがコントロールできる。下手したら明日には戻っている可能性まである。


「とりあえず1週間で」

「え!?」

「え」

「は、はい。分かりました……」


 マジで明日くらいには仕込み直す気だったようだ。危ない危ない。


「そんで、だ」


 ここにあるのが、ラァの砂糖が仕込まれてる服とそうじゃない服。ラァから貰った砂糖のサンプルと照らし合わせながらどうにかして砂糖を回収したいんだが。とりあえず安易な手段を試してみよう。


「これを試そう」


 用意したのは掃除に使うような吸引効果のある魔法具だ。このスイトール君に頑張って貰おうと思う。


「いくぞ」


 ギュゴーという音と一緒に服に付着した砂糖が吸い込まれていく、思ったより簡単に取れるな。結局のところ服の繊維に絡まってるだけで別に自分からくっついてるわけじゃ。


「ん?」


 スイトール君の様子が。


「なっ!?」


 あ、これアカンやつ。


「くそっ!!」


 慌ててスイトール君を放り投げる。すると爆発した。


「……なんで?」

「お兄様、申し訳ありません。言い忘れていましたがラァの砂糖は何かに取り込まれると半自動的に攻撃するようになっていまして」

「そっか……、それとなんで俺の部屋に?」

「お兄様の部屋にある砂糖が1カ所に集まっていたようでしたので何かあったのかと」

「掃除、だったんだけどな」

「これからは掃除をする前にラァにお申し付けください。そうすればもう壊れることもないですから」

「……そうするよ」


 吸い込むのはNGと。それが分かっただけでも収穫だな。あと、一粒単位で管理してるとなるとなかなか難しくなってきた。


「もっと原始的に行こう」


 もう粘着テープで良いんじゃないかな。これなら爆発する事もないし。


「コロコロ転がして地道くっつけるぞ」


 服に付いている砂糖を取るだけだからそんなに手間でもない。さっさとやろう


「はいはい、うん。まあ、取れるよな」


 今回は取り込んでいるわけでもないし、別にテープが爆発する事もない。これで良いじゃないか。


「ん?」


 おや? 粘着テープの様子が。


「……砂糖が外れてるな」


 なんか、こう。ぴょんぴょんしてる。なんでだ、なんで砂糖が動く?


「お兄様、お召し物の手入れ中申し訳ございません」

「良いところに、これなんだ? ラァの砂糖がぴょんぴょんしてる」

「ぴょ……!?」

「大丈夫か!?」


 なんかラァが鼻を押さえている。


「ず、ずみまぜん。お兄様がぴょんぴょん等とカワイイ事を言うものですから。鼻血が出かかりました」

「……ぴょん」

「っ!?」


 なんか変な弱点見つけちゃったな。少し複雑な気分だ。でもちょっと面白い。


「ぴょんぴょん」

「くぁっ!?」

「うおぁ!?」


 すげえ勢いで鼻血が出た!?


「お、お許しください。これ以上は」

「ああ。悪ふざけが過ぎたな。それで、この砂糖が跳ねてるのは?」

「あ、それはですね。粘着質のものに絡まれた場合には半自動で震動して離脱するのです」

「そうなんだ……」


 粘着テープもダメと。


「あのう、もしかしてお兄様はラァの砂糖がお嫌いなのでは……?」

「そんなことないぞ。どうしてそう思った」

「これはラァの勝手な妄想なのですが、先日からラァの砂糖を取り除こうとしているように思えて」

「ははは、ソンナマサカ」


 ラァは鋭くて賢いなぁ、それが今だけ少し恨めしい。


「こんなことを言うと、気持ち悪いと思われるかもしれないのですが」

「どうした? 何かお願いでもあるのか」

「こ、ここ、これを、食べてはいただけないでしょうか。ラァが……安心できる……だけ……ですけど」


 ラァの手のひらの上で構築されていくのは砂糖の結晶、そして赤みがかった氷砂糖が完成した。


「もちろん食べる」

「あっ」


 一秒と待たず氷砂糖をかみ砕いて飲み込んだ。これでまた懸念事項が増えるが、ラァの心を守るためならこれくらい食べる。たぶんこれ、いつもより長く体内から追跡できるやつだけど。


「お兄様……!!」

「これで良いか?」

「はい……!! ありがとう、ございます!!」


 これで、体内の砂糖についても本気で考える必要がでてきたな。それでも、何を克服すべきか分かっていればいつかは突破できるさ。


————————————————————


【淡血氷砂糖】

ふうわり甘くてサラサラな普段の砂糖とは違うもの、硬くて甘ったるくてそして重い。蓋をすべきものと恥じるなかれ、それはきっとなにより尊い思いのひとつ。




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