第3話雷を突破する方法を探せ
「……行ったか」
新たな解決策を見いだすため、デーレ姉さんを尾行する事1時間。買い物やら、何やらをしているのはとてもほっこりするのだが。
「これ、バレてるな」
所々自然な動きの中で俺とばっちり目が合っている。絶対に偶然じゃない、何かしらの方法で俺の居場所がバレたと考えた方が良い。
「念を入れて1キロくらい離れてるんだけどな……」
双眼鏡を使って、反射光にも気を遣ったつもりだったがダメらしい。ほぼほぼ確定でバレているが、一応確認のためにカマをかけてみよう。足首を捻ったふりでもしてみようか、姉さんの事だから気づいているならすっ飛んでくる。これで来なければ気づいていない事になる。
「痛っ」
「大丈夫!?」
紫電が尾を引きながら直線距離で俺の元に跳んできた。ということはやっぱりバレてたな。
「どこか痛めたの!?」
「いや、大丈夫だよ。それで、いつから気づいてたの?」
「いつから? 今日は離ればなれのままデートするんでしょ? シンちゃんたら焦らすの上手いんだから」
「……最初からか」
「ふふん、お姉ちゃんは自分でビリビリするだけじゃなくて他の人のビリビリも分かるからね。どこに居るかなんてすぐに分かるのですよ」
「他の人のビリビリ?」
「そうだよ? 人でも獣でも身体の中でビリビリしてるんだから」
身体の中にあるビリビリ……肉体の電気信号を感知してる? 我が姉ながら規格外すぎる。人間レーダーじゃないか。
「すごいな姉さんは、これでも隠れてるつもりだったんだけど」
「わーい!! シンちゃんに褒められた!!」
「ははは、ほんとに。どうやって追い抜けば良いのやら」
「前も行ったけどシンちゃんの方が強いんだからそんなこと考えなくて良いんだよ?」
「そういう訳にもいかないんだ」
「もー、真面目なんだから」
待てよ、電気信号なんて誰でもあるじゃないか。どうやって俺だって識別していたんだ。
「姉さん、なんでビリビリだけで俺だって分かるの?」
「え? シンちゃんのビリビリは24時間365日追跡してるけど?」
「さいですか……」
「んふふ、シンちゃんならもっと離れてても分かるよ」
「っ!」
射程範囲は把握しておくべきだ、聞くなら今しかない。
「それってどれくらい?」
「そーだなあ、今シンちゃんが見てた距離の倍くらいかな」
「射程2キロ……やっぱり姉さんはすごいな」
姉さんから2キロ離れるのは至難だ、そもそもの移動速度が桁違いなのに加えて全方位に伸びる2キロのレーダーとなるともう俺の移動手段じゃどう考えても振り切れない。
「でしょー? じゃあはい」
「はい?」
「もー、褒めてくれたんなら撫ではセットでしょ。だからはい」
頭を差し出してくる姉さん、これを拒む理由はない。
「えへへぇ」
「帯電していない時の姉さんの髪は撫でやすいんだけどね」
「むー、仕方ないでしょー。バチバチすると髪がバリバリになっちゃうんだから」
「はいはい、仕方ない仕方ない」
「分かればいーの」
この日はその後普通に姉さんの用事に付き合わされて終わった。しかし、この日から俺の試行錯誤の日々が始まった。
「今回は姉さんの探知をすりぬけるために電気信号を遮断する方向で行こうか」
服に電気を遮断するような素材を編み込んで姉さんレーダーを阻害しようとしてみた。これには一定の効果があったようで。
「シンちゃん!?」
「うごわぁ!?」
俺の居場所を見失った姉さんが俺の居た場所に全速力で移動してきてぶっ飛ばされるはめになった。これはマジで特別製の服を着てなかったら感電死していたと思う。
「シンちゃーん!? 居たの!?」
「いま、まさに、居なくなりそう、だった……ガクッ」
「しんちゃぁあああああああああん!!!?」
黒焦げ一歩手前にまで行ったが、なんとか一命をとりとめる事に成功した。しばらくミイラ男のようになったが仕方がない。実験に犠牲はつきものだ。
「今度は飽和させてみよう」
静電気を大量に発生させて俺の存在を紛れさせてしまおうという作戦だ、これは電気をため込む性質を持つ金属の玉を複数個用意して行った。これも、悪くない結果を生み出した。
「シンちゃぁん……なんかムズムズする……助けてぇ……へくちっ!!」
姉さんに花粉症に似た症状を引き起こす事ができることが分かった、でも鼻水と涙でズルズルになるのは可哀想なのでこれも没とする。
「となると、これが本命だ。囮作戦が上手くいけばいいんだが」
今までの実験は前座だ、これこそが本命。むしろこれ以外は遊びだったと言っても良い。姉さんと遊んでるみたいで少しだけ楽しかったのは内緒にしておこう。
「頼むぞ、二号」
俺の電気信号を解析して、99%くらいの精度で再現する人形を作ることに成功した。1%の揺らぎを姉さんがどれくらい捉えてくるかだが。
「さて、どうなるか」
俺の部屋に二号を残して、こっそりと移動する。俺が家の外に出ようとするといつの間にか姉さんが後ろにいるのだが、今回は限りなく俺の電気信号を押さえて二号を起動しているから追跡をかわせるのではないかと考えた。
「ようし……行くぞ」
「シンちゃん、どこ行くの?」
「……姉さん」
「もー、変なもの部屋に置いてたでしょ。まったくもう、お姉ちゃんはこれ嫌いです」
ゴトリと置かれたのは炭と化した二号、どうやら俺の作戦は姉さんの逆鱗に触れたらしい。これは結構本気で怒っている。
「シンちゃんには罰として、お姉ちゃんを撫でる券を発行してもらいます。1枚1時間、20枚綴りです」
「……分かったよ姉さん」
これ以上の厳戒監視体制になられると本気で突破の可能性が潰えるので、今回は姉さんの要求を叶えることにした。俺が姉さんを突破する日は遠そうだ。
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【生体電流感知】
生まれた時から感じていた。見える前から、聞こえる前から知っていた。だが、思いもしなかった。この煌めきを共有できる同胞が皆無だとは。しかし、その事実は今となっては福音である。最も愛しい煌めきを独占できるのだから。
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