レイキュウシャ
親戚のおばあちゃんとやらが死んだらしい。
よくわからない。死にそう、だったかもしれない。とにかく夜遅くまで、ぼくは車に乗せられた。結構長い間乗っていた。夕日は沈んで空は黒くなった。街の明かりが少なくなって、真っ暗な道に変わっていった。それを窓からずっと眺めていた。いつのまにか車は止まって、知らない家についていた。
家の中には知らない人がたくさんいた。知らない人しかいない。とりあえず人がたくさんいて、お父さんとお母さんが何か話してて、ぼくはそれについて行った。話しかけられてもうまく答えられなくて、とにかくお母さんの後ろに隠れる。なんで話しかけてくるんだろう。やめてほしい。
ひとり、横たわっている人がいた。その周りに人が集まっていた。知らないおばさんおじさんに促されて、ぼくは横たわっている人のそばまできた。
目を閉じている。動かない。動く気配がまるでない。
それがぼくの見た親戚のおばあちゃんとやらだった。さっぱり知らない人だった。そもそもぼくには、おばあちゃんは二人しかいないはずだし。
知らないおばさんが「まるで眠っているみたいね」とぼくの頭をなでて言った。ぼくは何もできないので、おばあちゃんとやらをじっと見つめるふりをした。周りの人はおばさんの言葉に「本当に」「そうね」「ちょっと笑っているみたい」なんて言ってた。よくわからなかった。
しばらくぼくは横たわるおばあちゃんの側に座っていて、お父さんもそうしていたけど、いつの間にかお母さんはどこかに行ってしまった。なんだか家にいる人たちがざわざわしている気がした。ぼくがちらちらと動き回る人たちを気にしていると、お父さんが言った。
「霊柩車が来たんだ」
「レイキュウシャ?」
「……この人、親戚のおばあちゃんを乗せていく、特別な車のこと」
ふーん、と、ぼくは頷いて。お父さんは「手伝ってくる」と言って立ち上がった。周りの人もなにやら動き出していた。ぼくも何となく立ち上がった。でもどうすればいいのかわからなかった。お母さんはどっか行っちゃったし、お父さんはお手伝いだし。
ぼくは何となく部屋の端っこの方に移動して、移動している人と、その背後にある窓を眺めていた。葉っぱっぽいものが見えるけれど、それ以外は何もない黒だった。
ぼくは想像する。レイキュウシャってどんなだろう。
特別な車なんだって。じゃあきっと、ピカピカしてる。あの窓の向こうの黒の中、目立つんだろうな。どこへ行くんだろう。おばあちゃんを乗せる?じゃあ、きっと天国か。それって空ってことだよね。もしかしてロケットみたいな感じなのかな。
ぼくはレイキュウシャを想像する。
暗い夜の中、それはやってくる。ピカピカして、左右にロケットみたいなのがついていて、かっこよくて目立つんだ。それはおばあちゃんを乗せる。乗り心地はきっと抜群。だってお父さんも特別だって言ってたし。ピカピカピカピカ光りながら、レイキュウシャは一直線に空を飛ぶ。それはどんどん小さくなって、お星さまのところまで行くんだ。それできっと、ピカピカピカピカ光りながら、お星さまの仲間入りをする。
誰かが声をかけてきた。
「外に出る?かっこいい車来てるよ」
「……」
首を横に振る。かっこいいレイキュウシャは見たい気がしたけれど、知らない人がたくさんいるところは嫌だった。知らない人はどこかに行った。しばらくぼんやりしていた。することもなかった。人がどんどん外へ行った。部屋は静かになった。横たわっていたおばあちゃんが、いつの間にか消えていた。
やがてお父さんとお母さんが帰ってきた。
「おばあちゃんも行っちゃったし、帰ろうか」
窓の向こうを、あのレイキュウシャが駆けていった。
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