第611話
ふうううぅぅぅぅ……なんだろう、このサッパリ感は? まるで無我夢中に仕事をこなしている自分を機械のように感じていたのに気付けば転送されていたデータの処理を全て終えていて人間であることを思い出した――かのような爽快感じゃないか?
だからたとえ終電が終わっていて近くの漫画喫茶に駆け込むことになったとしても怒りはしない。
注文した食べ物が実は売り切れていたとしてもチョットしか怒らない……そんな感じだ。
あくまで例えだけどね? 例え。
そんな人非な所業に覚えなんてないけどね? うん。
「なんか私がお金渡した時よりも喜んでない?」
「全然そんなことはない」
まさかこんなにスッパリと商売(?)が上手くいくことが今生であったろうか?
いいや、無いね、皆無、大抵邪魔が入るんだ、僕知ってる。
例の強奪した護衛船に積まれていた品が首尾よく売れて、纏まったお金が手に入ったナウ。
しかも救援料というのもちゃんと貰えた?!(?)
漁村の村人達が実は悪い人で騙し取られるということもなければ、冒険者ギルドでお尋ね者だと囲まれることもなく……さりとて何か問題が発生して恋々と関係者よろしく絡まれることもない! なにこれ?! 夢かな?!
賊から金品を奪うじゃないが、まさかこんなにスムーズに盗品ゲフンゲフン……失敬した品を売り捌けるとは……。
まるで本当に異世界物じゃないか?! 変に現実的で賊がお金落とさない世界の癖にさあ!!
そうなんだよなぁ……過去になんか犯罪者集団っぽい奴らと絡んだことあるんだけど、どうにも儲けに対する手続きが面倒で……話を持ち掛けたっていうか無理やり巻き込んできた少女に後処理を自主的に任せてトンズラ――じゃなかった、颯爽と去ったこともあったから。
ちゃんとお金になるんだなぁ……と何故か不思議な気分ですよ、ええ。
売り抜けた商品は、金針三本と銀板いっぱい銅棒いっぱいになった。
しかしお陰さまで泊まれることになった宿屋のグレードは、三食我儘令嬢付きという微妙なもの。
碌な宿屋がないな? 異世界。
そのサービスの本体が二つあるベッドの一つに腰を降ろしながら言う。
「まあそこそこの金額にはなったけど……イーストルードまでの足代としてはちょっと不安じゃない?」
いや充分なんじゃない?
実はまともな交通機関を自腹で使ったことがないから分からないけど……密航みたいなことをしなければ普通に行けるのでは?
だってあなた、金針三本ですよ三本!
ちなみに金針はフランが、それ以外は俺が持つというリスク分散を行っているのだが……ぶっちゃけ金針を何本も貰った時より『儲かった』感がある。
金貨の現物を渡されるよりも、福沢さんをご招待する方が素敵……みたいなね?
もう海賊やっちゃおうかなぁ……帝国の護衛船一隻で十年は暮らしていけちゃうよぉ、ふええ。
そんなわけで。
懐も温かく、追っ手も撒けて、先行きにも希望が出来た――ということにして作戦会議だ。
迷子をお家に送り届けるのがミッション。
終いまで殺るのが遠足だってどっかの組長さんも言ってたから気を抜かないで行こうと思う。
問題はこの場合の迷子がバツイチ令嬢なのか一般通過転生者なのか分からないことぐらいだろう。
「――ねえ? 聞いてる?」
「え? 全然。全く聞いてなかった」
正直に答えたというのに飛んできた肉マンっぽい何かをキャッチして頬張る、サンキュー。
先日よろしく食料を買い込んでの話し合い中である。
時刻はお昼時も随分と前に過ぎ去っておやつの時間も既に過去。
夕飯にしては早いかな? という時間である。
手続きだ、売買だ、救援料だと色々と時間が掛かったので、変な時間の昼食になったのも仕方のないことだろう。
だからなのかは知らないが、プリプリとしているフランが言ってくる。
「もう! だから! このままイーストルードに行くのも問題よね、って言ったのよ!」
「え、そうなん?」
何が問題なん?
助けてくれそうな叔父さんとやらがそこにいるんでしょう?
追っ手も完全に撒けて、何か不安要素でもあるんだろうか……ああ、お金だっけ? いやいや足りますって。
不思議そうな表情の俺に、自説に不安を持ったのか声量を弱める桃髪ハーフツイン。
「え……だって、私達がイーストルードへの輸送船に密航してたのはもうバレてるもの……先回りとか…………されちゃうんじゃない?」
…………。
「奇遇だな? 俺もそのことについて話そうと思っていた……」
「そうよね? そうよね? ……びっくりするでしょ?! こんな時にふざけないでよ!」
そ、そっかー……なるほどなー……そういう考えもあるかもなー……うん、まあ、確率的な話でね? うんうん、確率確率。
真剣な表情で脳みそを空回りさせる俺に、ようやく話が通じたとばかりにアンマンっぽい何かを千切っては口に放り込みながら、フランが続ける。
「また密入を頼むには金額も足りないと思うの。かといって正面から堂々とイーストルードに行けるわけもないじゃない? そんなの間違いなく見つかるわ。まあ、そこまで馬鹿だとは思われてないだろうけど」
馬鹿ですいません。
馬鹿は自分が買ってきたバーガーっぽい何かを口にしながら、お上品にアンマンっぽい何かをチマチマと食べるお嬢様の続く言葉を待った。
どうにもフランには考えがあるようで……腹減りのせいか頭に栄養が回ってない俺が何かを言うところでもないだろう……あくまで腹減りのせいだけどね? うん。
飲み物で口の中を空にしたフランが、いよいよと本題を告げる。
「だから――――この隙に領地に戻ろうと思うの。私の故郷、オルジュベーヌに」
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