第610話 *アン視点
「強力な使い手を生み出したいのなら氣属性に与えるのが正しい……。しかしそれも剣が応えてくれねば意味の無い話であろう? 剣を持てる『資格』とやらがハッキリせんことには、妾達は前例に学ぶしかない。故に七剣の使い手は、代々が同じ属性の魔法使いでもある。その方が使える確率も高いからのう」
「『前例に添う』という選別方法のせいなのかどうなのか、歴代の七剣の使い手には別の共通点もあります」
「うむ。それがもう一つの要因としても捉えられておる――『血統』じゃな。過去を振り返れば分かるのじゃが、七剣に選ばれる使い手には同じ貴族家の血筋の者が多い。しかしこれもあくまで『多い』であって、例外は存在しておる」
「それでも使い手を輩出した家となれば、指名されることが多くなるのもまた自然の流れです。なので使い手が現れるまで同じ貴族家で管理されることもあるのですが……」
……それは勝手に使い手を見つけちゃってもいいものなのかな?
副官様が「責任は自分が取る」って言っていた意味がやっと分かったよ。
色々と問題がありそうな気がするなぁ。
しかしお姫様は問題ないと話を続ける。
「なに、構うまい。元より聖炎剣となれば国防にも関わる。直ぐに次の使い手が見つかったのなら、陛下とて御の字じゃろう。しかも何者かが狙っておるという状況じゃ……次の使い手を見つけておくにこしたことはない。持ち運ぶだけなら只の剣と変わらぬ七剣も、使い手が見つかったのならそれも容易とはいかん」
そうなんだ?
なんかあるのかな? 使い手以外じゃ触れないとか……。
「――私が『火』属性の魔法使いを集めた理由はそれだけではないのですが……元より『移動させる』というのが本筋です」
先頭を行く副官様の声が割って入った。
お姫様が首を傾げて聞き返す。
「どういうことじゃ? そういえばお主、『賊が現れた』と報告を受ける前より火属性の者を集めておったのう……」
「見てもらう方が早いでしょう。もう直ぐそこです」
何処まで行くのか――――そう思われた案内は、城砦の最上部付近まで登ったと思われる。
かなり登ってきた。
七剣を収めているという部屋にしては……ちょっとイメージと違う。
宝物庫や専用の部屋があるにしても、それは地上階や地下といったイメージが強かったから。
副官様が足を止めた部屋は……良く言って『偉い人が居そうな』、悪く言うと『普通』の扉の前だった。
とても宝物庫の扉に思えないのは、部屋に鍵や鎖が掛かってないせいだろうか?
副官様が言う。
「ここです。ヴィアトリーチェ様やリーゼンロッテ様はあまり奥まで行かれませんように」
両開きの、中に偉い人が居そうな扉を開け放った副官様が先に入り――
「……なるほど」
「これは……?」
お姫様とリーゼンロッテ様が驚く。
次いで入ったあたしにも、その理由が一目で分かった。
燃えている。
豪華……というか厳格な部屋だと思う。
中に設えられた調度品や実用品はどれも一流の物で……しかしどれも目に入らないぐらいの特徴が一つ。
部屋の真ん中に立つ火柱だ。
どういうことなのか……ありとあらゆる調度品をそのままに、半径一メートル程の青い火柱が部屋の真ん中に突き立っていた。
――――神々しいとすら思える剣が一振り、その火柱の真ん中で浮いている。
…………幻? ……にしても随分と暑いなあ。
それが偽物ではないと言わんばかりに、部屋の中の熱気は凄かった。
隣りでテッドが呟く。
「……へっ、燃えるぜ!」
うん、燃えるねえ?
ちょっと何言ってるのか分かんないから頭叩いて正気に戻そうかなぁ。
使い手になるには剣を振るえなきゃいけないんだから……つまり――
部屋に収まりきれずに入れない騎士様達も、中を覗いては驚いているので知らなかったのだろう。
……なんで下の絨毯とか天井とか、燃えてないのかなぁ……。
不思議な炎だ。
それでもハッキリと分かる。
触れれば只では済まないことが。
副官様のお声が響く。
「七剣を賊に渡すまいとしたリアム様の最後の技です。この炎を放ったリアム様は、その命が潰えると同時に炎に焼かれ塵と消えました。どうやら使い手以外の者を焼く炎であるようで……」
「うむ。その愛国精神といい、この自己犠牲の為すとこといい、天晴な騎士じゃったのう……リアム・ドルン・エイブラハム。しかし……この火はいつ消えるのじゃ?」
問われたのは同じ七剣の使い手であるリーゼンロッテ様だ。
これにリーゼンロッテ様は思い悩むように答える。
「消える……のでしょうか? 私の聖光剣もそうなのですが、七剣は元々……その属性の力に溢れています。聖光剣なら常時『光り輝く』といったように……。これはその力を増しているだけのように思えます。恐らくは魔力と命を捧げて威力を押し上げたのでしょう。だとするのなら……恐らくは使い手であれば……?」
「なるほど、七剣拝受の豪華版であるわけか。資格無き者を拒む時、剣はその者の身を焼くというが……実際には手が焦げる程度の筈じゃ。しかし今なら全身が焼けること間違い無しか……ふむ。――――して? 誰から逝く?」
勢いよく手を上げようとした幼馴染の頭を、あたしは遠慮なく殴り倒した。
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