第583話
なんかそういう小動物や虫が逃げ出す魔晶石があるんだとさ。
……マジで?
もう何度思ったか分からないが異世界の魔晶石文化優秀過ぎない?
地震を予知して逃げ出す小動物が如く、その魔晶石の近くには自発的に近付かなくなる効果があるそうだ。
あの鯨肉を運んでいた巨大な輸送船にも装備されていたと言うから驚きである。
それも派生魔晶石ってやつなので、結構希少であるらしく……当然だが護衛船の方には積まれていなかった。
なので持ってきた魔晶石の中には、そのネズミ除けの魔晶石は無いそうだ。
なら仕方ない――――とならないのが異世界で得た知恵である。
俺の得た知識の中に、『洗濯便利木の実』に次ぐ謎植物……『なんかネズミとか寄って来ない草』がある。
「なにそれ?」
凄く胡散臭そうにこちらを見てくるご令嬢にショックである。
「いや俺にとったらその魔晶石の方が胡散臭えから。なんだ、ネズミが寄って来なくなる魔晶石って」
眉唾も大概にしてほしい。
なんでもかんでも魔晶石で解決するんじゃねえよ! 魔晶石はあれか? 某青ダヌキのポケットか? うん?
「失礼ね。あんたが物知らずってなだけで、こっちの方が常識なんだから」
「ハッハッハッ……俺が物知らずだと? 何をバカなことを」
フッと鼻で笑ってやりながら、今日泊まる予定の小屋の前で言い合っている。
俺もネズミとか嫌なので解決策を扉の前で会議中だ。
まあ何度も野営とかしたことあるし、絶対ではないんだけど……。
出来れば目が覚めた時にネズミのアップとかはヤメてもらいたい。
村でも農作物を扱う以上、ネズミは害獣として捉えられていた。
あのテトラでさえ追い掛けるっていう…………遊んでいたわけじゃないと信じてる。
しかも実際のネズミって可愛さ皆無だからね。
『そりゃ病気持ってるよ……』って姿形だから。
そんなネズミだからこそ、庶民が住む村々でもしっかりと対策が取られていた。
……よく考えたら他の村の食糧貯蔵事情とか知らないけど、まあうちの村じゃネズミ対策をしてるし、他の村も似たようなもんじゃない?
少なくとも『ネズミが寄ってこない魔晶石』よりは実績も信頼もあるよ。
ある手順で混ぜ合わせるとネズミが寄ってこなくなる臭いを発するのか、その草を煮詰めた汁を食糧庫なんかの扉に塗っておくのだ。
手順を間違えると全く効果が無くなるんだけどね。
しかもだからって畑に植えると他の農作物がダメになるという不思議効果付き。
森に取りに行くのが常套手段である。
一連の説明にフランは苦い顔だ。
「…………本当に効くの、それ?」
たぶん魔晶石の説明を聞いた時の俺の目もこんな感じだったと思う。
いやそりゃこっちの台詞だから。
「そんなこと言っても魔晶石の現物が無い以上、俺の方法を試すしかないだろ? ……まあ、お目当ての草がこの近くの森に生えてるかって問題もあるけど」
やっぱり植生ってあるからなあ。
彼のエルフの森では知らない植物ばかりなせいか、採り方を幼女エルフに注意されたぐらいだもの。
知らなかった、それが僕らの免罪符。
フランが細く溜め息を吐き出して言う。
「こんなことなら船を止めて、そこで待てば良かったわ」
「バカ言うなよ。それこそ色々と怪しまれんだろ」
あれは海の近くに住むんなら一目で帝国の護衛船だと分かる、ってお前が言ったんだけど?
そんな所で寝泊まりしてたら怪しさ満点やん?
これはまたもや我儘タイムか――――と思いきや。
寄っかかっていた壁から背中を離したフランが振り返りながら言う。
「何してるのよ? 早く行きましょ。まだ朝だけど、ゆっくり出来るんなら早い方がいいわ」
「え、あ、うん……」
「何よ? ……まさか私が船に戻りたいって言うとでも思ったの?」
うん。
「うん」
「あんたね……」
「あ、いや違った! てっきり船を引き戻してこいって言うと思ったんだ! ほんと?!」
「余計悪くなってるんだけど?! あんたほんとに私をなんだと思ってるわけ? 実の姉に暗殺されかけてる以外で」
どツンデレだなとは思っております。
「……ま、別に分かってるけど。ほら! 早く行くわよ!」
そうか……自覚があったか。
僅かに頬を染めるというあざとさを見せつつ足早に去るフランを追い掛けながら思う。
「そっち海や」
こいつ本当に方向音痴だよな?
村人を捕まえて植物の特徴を伝えたら、近くに似たような植物が生えてると言っていたので森に来た。
今度は案内役もいないので少し手間取ったせいか、すっかりと太陽が頭の上だ。
村の外に出るのに簡単な柵はあったが、うちの村のような木壁は無かった。
直ぐ外に広がる森も、いわゆる『魔の森』じゃないそうで……動物はいるが滅多に魔物は流れて来ないという。
ただ僻地にあるらしく、流通の便や立地のせいで陸の孤島状態なんだと。
すげー親近感。
これで森の奥に人語を解す巨大蛇とか居たら逆に嫌になっちゃうね。
しかしながら森は進めば進むほどに木々を減らすらしく、なんならここが一番濃いまである。
ならなんでこんな不便な所に村を……と思ったが、これは単純に森から得られる恵みよりも海からの収獲の方が大きいからだそうだ。
警戒の程を考えると、陸地はそうでもないと思われているんだろうか?
「王国と違うなあ」
「何処もこんなもんじゃないの?」
フランが歩き易いように道無き道の先陣を切りながら歩いている。
直ぐ後ろを付いてくるフランが俺のぼやきを拾った。
「まあ海沿いじゃないってのもあるんだけど、もうちょい頑丈な壁を建ててるぞ? あれじゃ農作物が……」
「畑なんて無かったじゃない」
…………ホンマや。
やっぱり海に住むのと山に住むのじゃ違うんだな。
そうか、そりゃそうだよな、違うよな。
どっか似ているところがある村だから、俺はまた……てっきりテッドよろしくあの日焼け少年が――――
「うわ、うわ、うわあああああ?!!!」
どっかで聞いたことある悲鳴に、俺とフランは顔を見合わせた。
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