第482話
だから素直に
ハヘ? と惚けて首を傾げてやる。
ちなみに嘘偽り無いのだから演技かどうかは見抜けまい! ちょっと言ってて悲しいぞ!
俺の反応にポニテが頷く。
「……なるほど。帝国の街の名が分からないところを見るに、恐らくは――他国の者なのだな?」
いかん! 何故か出身を絞られてるぞ?!
こいつ……なんか騙し易そうなお嬢様だな? 暗がりにでも連れ込んでやろうか? ――なんて思ってたのに、とんだ食わせ者だ! 騙したな?!
……でもまあ、こんな展開には慣れたもの。
観察するような冷たさを含む視線から目を逸らしつつ、鉄板の言い訳が口を衝く。
「お貴族様に於かれましては分からぬと思いますが、元より村出身で学の無い私のような輩は……自らの国名は疎か、出身となる領の名前すら覚束ない有り様でして……」
「ここに居るということは、海へ出たのだろう? 最も近い港街の名前が分からないということはあるまい。つまり他国の港を経由したか……あるいは脛に傷を持つか……」
――げえ?! なんでそうなるん?!!
ほんとに……ほんとに知らないんです! なんなら自国に港があるのかも知らない山育ちなんです?!
あわや真実を掠めてくるポニテに、何か別の真実をぶつけて路線変更しなくてはと言い募る。
「ほ、本当です! 信じてください! なんなら私の村には名前が付いてないぐらいでして?!」
「そんなわけあるまい」
あるんだよおおおお?! このっ、世間知らずぅぅぅぅッ!!
思い込みの激しいきらいでもあるのか、今やゴミを見るような目に、自分でも気付いているのかいないのか抜刀体勢で剣に手を置くポニーテール。
やあ、犯罪者扱い。
ち、違っ! ……いや違わないけど! むしろ大当たりなんだけども?! 誤解なんですよ?!
間違ってるのに当たってるという状況が、俺に口を閉じさせた。
剣呑な雰囲気が漂い始める――
フォローは意外なところから来た。
「……ねえ? そいつ斬ったら、もう水飲めないんだけど?」
ハッとした表情になるポニテに『そりゃそうだろ』とも思う。
……この娘、割と猪武者っぽいな。
お嬢様は退屈そうに続ける。
「言葉遣いといい態度といい……一定の教育は受けてるみたいだけど。どうせどっかの没落した零細貴族ってところでしょ? 服も買えないのに魔道具であるローブとか立派な剣とか売り払ってないのが良い証拠よ。家宝とかなんじゃない? 大陸西の都市国家群なら居そうよね」
大したことないでしょ? みたいなお嬢様にシリアスな雰囲気に踏み込みかけていたポニテが赤くなる。
……いや、『水が飲めなくなる』に赤くなってんのかな?
赤面騎士が吠える。
「だとしても! 警戒するに、越したことは……ありません……」
…………そんな今更。
ダブルなジト目に見つめられたせいか、言葉尻が小さくなっていく赤面少女。
もっと野卑でムサい輩が沢山居たろ? とは言わないでおく。
いやね? 俺も黒ローブに全裸という大概な格好だけれども、そこまで警戒するほどでも! …………あるか?
あるね。
なんだその変態? ご近所に出たなら村人総出で歓待しちゃうよ。
しかし責めらているような雰囲気に間違っていないというのに口を塞いでしまった正論ポニテは、何か肯定材料が欲しいとばかりに俺を上から下まで見つめてくる。
「ま、魔法を使うじゃないですか! しかも無詠唱な上に、連続で! ……ほ、ほら? 無意味な接触は危険でしょう? 警戒するのは間違ってません!」
お前……ポンコツ、なのか……?
「『水』の何が危険なのよ?」
ギャフン。
どうしても魔法使いとして認められにくい水属性の魔法。
属性の特徴なのか攻撃性のようなものが低い。
チャノスも『水弾』の魔法を使えるのだが、これが顔ぐらいの大きさの石が飛んでくる程度の攻撃力しかないと嘆いていた。
充分怖い、魔法使える人って怖い。
しかし専ら
お陰で市井には隔意無く受け入れられているのだが……やはり上流階級ともなると違うのだろうか?
その攻撃性に基づいたお嬢様の発言に、ポニテは降参とばかりに口を閉じた。
いや危険やで? 頭ぐらいの石が飛んで来たら充分な殺傷力よ?
ポニテを封殺したとばかりに得意気なハーフツインが、その青い瞳を今度はこちらへと向けてくる。
「まあ、貴方の出身は聞かないでおいてあげる。私だってそのぐらいの情けはあるのよ?」
はあ……ありがとうございます。
勘違いさせておいた方が都合がいいので無言で頭をペコリと下げれば、ますますと調子に乗ったお嬢様の口が滑らかに動く。
「ところで貴方、お金が無いのよね?」
おう、むしろある人間の方が少ないやろ? 庶民舐めんなよ。
「今回のお礼も兼ねて、ここを出られたらある程度を支払うと約束するわ」
私はお嬢様の犬にございます……靴でも足でも舐めましょう。
金の話とあって思わず居住まいを正してしまった俺に――――向けられる視線は二つ。
ゴミを見るとしたそれと至極当然としたそれ。
……仕方ないやん? 中流家庭以下は宝くじを買うものなのだ。
至極当然とした目のお嬢様が、我が意を得たりと上機嫌に続きを口にする――――
――――前に、視界が大きくグラついた。
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