第481話
……まあ、考えようによっては時間稼ぎになっていいかもなぁ…………なんて思っちゃう時点で俺もだいぶ毒されてきたよな。
鉄板の前で一人、残った肉を楽しみつつ今後の展望を考えている。
いや考えたくなくなっている。
腹ペコ共のつまみ食いを終えて、恐らくは二時間ぐらいの間を取るという……なんともバカげた食事の後だ。
欲望のままに食い漁った腹ペコ共が、代わりの肉を焼くというアリバイ工作をしなかったせいで「効力切れです」と嘯いて光源を消すなどのハプニングはあったが……。
無事、お貴族様との食事を終えられた。
お嬢様にしてもつまみ食いのお陰か、二時間経つというのに焦げてない肉を腹に収めて満足されていたのだから問題ない。
……恐らくだがポニテは料理を欠片も知らないと見える。
いつぞやの村女子と似たような反応だもの。
食料を延々と熱してたら焦げるんだよ? 野菜は皮を剥いて食べるんだよ? 変なオリジナリティは出さないでいいからあ?!
…………おっと、忌まわしい記憶が甦り掛けたようだ……いかんいかん。
まあいい。
幾度か行われたつまみ食いのお陰で、二時間という毒待ちの時間を越えれたオジサン共は、そこそこ腹も満ちていたかに思われたのだが――
飢えた猛獣のように食べたね?
まだ二日という短い期間のせいか……それとも元々少食なのか、三人前程度のお肉で満足されたお嬢様の後で、宴とばかりに肉を食らっていた。
ぶっちゃけ
水の注ぎ手として店員さんに徹していた俺は、無事に全員が腹を膨らました後で一人の食事と相成った。
お嬢様とポニテは元居た場所へと戻り、オジサン連中は落ちないようにと胃酸の海から離れた所で横になっている。
焦げた肉を酸の海へと投げ込みながら、残った肉を焼いているところだ。
一番最後の食事になったが……こんなに気楽なら願ってもないよ。
良い具合に焼けたお肉を指で摘んで裏返す。
ちなみに普通に熱い。
誰も気にしてないので鉄板は最早ローブの袖でなく火魔法で維持しているのだが、何か言われたら「適宜継ぎ足しています」と答えるつもりである。
光源はローブのせいにしてあるので、俺は『水』の魔法使いとでも思われていることだろう。
だからこその無限燃料というポーズだ。
ふふふ……言い訳は完璧なのだよ。
ここで『火』も『水』も使えると思われるのは面倒だからなあ。
薄ぼんやりと浮かぶジト目を、自信という名の魔除けで撃退する。
しかし…………これからどうしようか?
早いところ脱出したいという考えは勿論あるのだが……昨日の今日で俺の指名手配が解かれているかどうかも分からない。
ガンテツさん達が上手くやったとしても一週間……いや念の為に一ヶ月は隠れ回る必要があると思う。
出来れば情報を仕入れつつ、程々に帰還も叶うという立地の物件を願いたいものだ。
ないかなぁ? そんな新生活を始められる所?
ブチッと肉を噛み切りながら、チャプチャプと音を立てる胃酸の海を眺めている。
ああ……………………お肉、美味しい……な?
もういいんじゃないかな? 本当に。
おかしいんじゃないかな? 神様は。
……いやおかしいだろ?! どう考えても!!
少し村を出ただけだというのに……同じっぽい前世の奴が作った遺跡に潜らされたり! 目が覚めたら借金背負ってるばかりか変な陰謀っぽいのに巻き込まれたり!!
何をどう伝えたいのかさっぱり分からんわ! まさか俺の運が悪いだけとは言うまいね?!
…………いや、待てよ?
これは…………神の啓示じゃなかろうか?
そうだよ……きっと神様は言ってるんだ……――
『村の外は危ないぞ、やっぱ村が最高やぞ』と。
「いや分かってますけどお?!」
どういうことぉ?!
「な、何がだ? ……何が分かっているのだ?」
ふと気付けばポニテ騎士が近くにいた。
「いえ、すみません。神は如何様にして我々にこのような試練を与えるのかを模索しておりまして……」
「け……敬虔な信者なのか? 神聖王国の出……では無さそうだが……」
「私など、故郷にいる神父様に比べればまだまだですよ……」
村の爺婆にしこたま毟られた時に「……神が金貸してくれればな……」とか呟いている神父様には負ける。
…………ところで、このポニテがいるということは……?
予想に違わず、ポニテの後ろに陣取るハーフツイン。
無いのに強調するような腕組みポーズでツンとしたお嬢様がいた。
なんだよ? 食事なんだよ?
せめてボッチ飯ぐらいは放っておく気遣いがあってしかるべきでしょ? いや俺のは機能的ボッチであって別に弾かれたわけじゃないけどね?
やはり当日入りした新人という立場が――――
「――貴方、何処の人間?」
俺の醸し出す『放っておいてください』オーラをブチ破って声を掛けてきたのは、やはり空気が読めない方の女の子でした。
話し掛けてきたくせにやや引き気味な態度を見せるポニテには、このあと「ところで神を信じますか?」という宗教トークに持ち込んで敬遠されようと思ってたのに……。
時折、何も考えない人の方が何か思惑のある人より恵みを得るという見本のようなツインテールだね? 嫌いだよ。
仕方なく胡座から正座へと移行する俺に、もう少し前にと寄ってくるお嬢様。
再度問い掛けられる。
「聞こえなかったの? 貴方が何処の人間か訊いたのよ、答えなさい」
「何処の……というのは?」
思惑を推し量るべくチラリとポニテに視線を向けた。
ポニテが答える。
「出身だ。恐らくはミトワーズかタリエの出といったところか? ラベルージュ海洋国の民という可能性もあるだろうが……」
やっべ、何言ってるか一向に分からん。
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