第467話
「――班を分けるよ! 半分はガンテツ達を追いな! まさか『海』の魔晶石まで持って来てるとはね……」
仲間の小舟へと引き上げられた、似非『海に愛されし御子』が叫ぶ。
「させねえよ」
再び無数の
本来なら不可視の筈の刃が海面を叩きその威力をまざまざと見せつけるので、ガンテツさん達の乗る船に近付くことを敵に躊躇させた。
接近した小舟もいくらかはあったが、ガンテツさんの銛の前に一蹴されている。
これなら囲いを抜けられるだろう。
ガンテツさんの小舟の速度がチャンスとばかりに上がっていく。
「――強引に進みな! 一撃は鋭くとも軽いよ! 船が沈む程の威力は無いんだ!」
「一々尤もなこと言いやがって……!」
その通りだよ!
しかし奴らの船がスピードに乗る前に、ガンテツさんとパーズの乗る船がグングンと速度を増して囲みを抜けた。
赤毛が叫ぶ。
「なんなんだい、あの加速は?!」
「それをお前が知る必要は無えな」
練り上げた魔力を自身の最高範囲となる魔法へと変換する。
前触れのような風が海面を撫でていく。
弾かれたように――回復されていたウィーネが顔を上げた。
さすがはギルドマスターなだけあって鋭いねえ――
「――でも遅い」
「魔法持ち! 先に――」
ギルドマスターの叫びは魔法が上げる産声に掻き消された。
轟音が耳を満たし、視界を風が埋めていく。
のたうつように――天へと伸びる風の龍が海面から吹き上がった。
回転速度と範囲を増していくハリケーンが、高じた威力に応じて海水を巻き上げる。
足場にしていた小舟の水位が下がり、巻き込まれた他の船が天高く昇る渦の中でぶつかり合い壊れていく。
誤算といえば、水を吸い上げたせいか……本来なら切り刻む役割を持った風の刃が機能を果たさなかったことだろう。
お陰で――――
渦の中心で、上から落ちてくる人影を見上げた。
大渦も大概な自然現象に巻き込まれてるっていうのに、銛を構えて殺意をこれでもかとぶつけてくる冒険者風の装備の奴らに辟易する。
「大人しくくたばってろよ……」
「死ねええええッ!」
次々と渦を抜けてくる探海者の奴らが、渾身の力を込めた銛を投げてくる。
空気を引き裂いて弾丸も斯くやという速度で飛ぶ銛は――――しかし両強化の三倍を破ること適わず。
俺の体を打ち破らんとする銛の群れを受け止めた。
一つ一つ掴んでは無力化した銛を海底へと投げ捨てる。
渦が海を抉ってしまったのだ。
剥き出しの海底へと着いた船に――今度は腰の剣を抜いた探海者共が落ちてくる。
落下速度を乗せた一撃を最小限の見切りで躱し、腹に蹴りをくれて再び渦の中へと戻した。
ボタボタボタボタと落ちてくる探海者共を流れ作業のように渦の中へと返していく。
剣を割っては蹴り、躱しては殴り、掴んでは投げた。
これで――――充分に引き付けられた筈だ。
海水のせいで必要以上のエネルギーを消費したのか、魔力を燃やし尽くすまで消えない竜巻が唐突に消える。
吸い上げられた海水や壊れた小舟が敵共々落ちてきた。
海原を戻さんとする海水に身を任せて海中を巡る。
こんなこと――――強化された肉体でないとやろうとは思わなかったろうな。
揉みくちゃにされる視界で、それでもしっかりと敵影を捉えた。
海の中では……予想通り、被害を逃れんとしたウェットスーツが俺から距離を空けていた。
竜巻の治まった今、恐らくはガンテツさん達を追い掛ける最先鋒になるだろう。
――――ここで潰そう。
考えるより先に体の方が動いていた。
脊髄反射のように海底を走って、ウェットスーツ共の懐へと潜り込んだ。
纏わり付く海水が走る度に重さを増し――払い除けられては海が動く。
盛り上がり滅茶苦茶に乱れる海流に動きを絡め取られたウェットスーツ共を、一人一人海上へと殴り飛ばした。
爆音と共に上がる水柱が、海へと穴を空けていく。
海中から姿を消した敵影に、残りを探索するべく海上へと飛び出した。
やはり海の中と外では感知出来る限界がある。
バラバラに破損し見る影もなくなった桟橋の
強化された感覚が海面に存在する情報を伝えてくる。
囲いの一方を食い破った形には為ったが……まだまだ敵は残っているようだ。
魔力残量と敵の残数を照らし合わせて目算する。
……強化魔法併用時の魔法の重ね掛けは魔力の消費が早い、そう何発も使えないが――
「……やってくれたじゃないか?」
静けさと緊張感を増していく戦場で、その声は朗々と響いた。
目に入ってきたのは――赤。
ふてぶてしい笑みを浮かべるギルドマスターが再び姿を見せた。
「生きてたのか……頑丈だな?」
間違いなく竜巻の圏内に居たと思ったんだが……。
「……抜かったねぇ。水中での呼吸魔法を使えるんだ、『風』の魔法使いである可能性なんて予想出来た筈なのに……。ちょっかいを掛けさせた探海者の話じゃ、珍しいことに『氣』属性だって言うからさ?」
「キュラス一家とかいうのもお仲間かな?」
「冗談はやめて欲しいね? ただの道具ってだけさ。ああいう連中が一つでもあると色々と便利でねえ……」
陽の光に照らされる髪の明るさは変わりないというのに――――その微笑みと眼の色は濁って見えた。
既にダメージは抜けたのか、まだ無事な小舟の上に立つウィーネが剣を手に言う。
「……勝てるとか思ってないかい?」
「何言ってんだ? ――勝つんだよ」
「フフフフフ…………アッハッハッハ!!」
高らかに笑い始めたウィーネを気にせずに、再び魔力を練り上げ始める。
二発目だ。
今度は中型船が残っている……中継島から離れている海域を狙おう。
再び飛び出そうとする俺に――しかしウィーネは機先を制して何かを取り出した。
――――魔晶石か?
ウィーネが手の内に収める何かに、海底で動きを止められた事実を思い出して足を止めた。
「――ハッハッハアァアアアア!! それはこちらも同じだね!」
自信の見え隠れする表情で、ウィーネは手に持つ何かを己の首元へと叩き付けた。
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