第465話


 僅かに漏れた情報が点として繋がり、朧げながらも全体が見えてくる。


 溜め息を漏らしながらも切なげな表情を隠さないウィーネへ、今が最後とばかりに問い掛ける。


「なんでバラす必要があったんですか?」


「……なんだい?」


 決別の瞬間に滑り込むような問い掛けをした俺を、ウィーネは嫌悪を隠さずに見つめた。


 敵意に構わず――独り言のように問い掛けを続ける。


「周到な用意の元、他国の工作員を運び入れて……周辺の冒険者を『防衛』という名目で島へと集めた。特に強い冒険者には宣戦布告なんて情報を一部解禁してまで島へと留めている……。なんで島に戦力を集めたんですか?」


「ハッ、何にも分かってないね? 監視する手間と戦力の分布をコントロール――」


「――ならここでガンテツさんにバレる危険を犯す必要は無かったですよね?」


 練り上げた魔力が密度を上げ、魔法へと変わる前に世に姿を示さんと干渉を始める。


 渦巻く風が肌を流れ、小舟の周囲に漣が立つ。


 緊張感が高まる。


「俺は……邪魔ですか? ?」


「……ほんと、何処までもイレギュラーな存在だね」


「潜り込ませた帝国の間者と内応して島を取ってしまえば良かったのに……しなかった。その方が手っ取り早かった筈なのに? ――違う……なによりことを優先している」


 ああ……分かるよ。


 俺もそうだから。


 ウィーネが不敵に微笑む。


「隠す? 何をだい? 宣戦布告は別に嘘じゃないよ。現に島の周辺で帝国の者が暴れた報告が入ってる。ギルドの中には裏切ってない奴もいるからねえ……誤魔化しは――」


「――最初からの狙いが東の群島ここだと知られたくなかった?」


 ウィーネの表情が僅かに固くなる。


 その反応が俺の推察が正しい方へ進んでいると教えてくれる。


 ――――


「いや違うな。島の周りに帝国の奴らが出没してる……。? 隠したいのは。島の周りを観察しているのはギルドの船だけ……他には知られない」


「…………見誤ったね」


「ガンテツさんに送った刺客がって分かってたんですよね? それでも必要だった。パーズにも……ガンテツさんと同じぐらいの人数の刺客が襲い掛かっていました。最初はガンテツさんに対する人質にするもんだと思ってたんですが……違う。? ――? 


 刺すような敵意が空間に満ちる。


 それだけで頭をおかしくする闘争の気配が臭ってくる。


 パーズの指先が震えるのが見えた。


 これから行われるのが只の喧嘩や争いではないと理解したのだろう。


 賢いなぁ……。


 ――――俺と違って。


 今や射殺さんばかりの狂気を瞳に宿すウィーネに告げる。


「俺の水中呼吸の魔法は邪魔ですか? たとえ使えるのが一人でも? 奴らが味方にいるのに? 何か……見られたくない、目立たせたくない事があるんですね? ――――


「……海溝かー?」


 呟いたパーズの言葉にウィーネから視線を逸らさずに頷きを返す。


「そうだ。たぶん……あの海中を進める装備も、本来ならそれが目的で生み出された――――としたら? 帝国は海溝に用がある。そしてそれを知られたくない。僅かに邪魔されるのも許容出来ない程に――」


「あーあー……」


 深く長い溜め息を吐き出すウィーネは、何処か諦めたような表情をしていた。


「悪いね、ガンテツ……。さっきの話は無しだ。あんたらには破滅して貰うことになった。……手を繋ぐ前に絶対に知られてはならない情報ってのがあるのさ。雇われの辛いところでね?」


「いやあ? 別に構わんぜ? むしろ溺れた奴も助けとくもんだと思い直してるところだあ」


 持ち手を確かめるようにガンテツさんが銛をクルリと回す。


 ああ、そうだな……ガンテツさんは慣れてるよな?


 しかし――――


 ウェットスーツやギルドマスターへの攻撃に躊躇が無かったパーズが……まだだというのに浅く息を切らしている。


 そりゃそうだよなぁ……そうなるよなぁ。


 強化しなかったら、等身大の精神なら、普通はそうなるよ。


 こんなイカれた空間――


 躊躇しないのは、躊躇わないのは、そういう教えか性格なんだろう。


 頭がおかしいのはパーズ以外だ。


「金針三本」


 唐突に俺は告げた。


 今の今までギルドマスターの指揮棒から目を離さなかった俺が、まるで無警戒にパーズへと振り返った。


 パーズは海を見ている。


 ――――


 そのパーズの瞳が、緊張感が最大限に高まった場だというのに警戒を捨てて振り返る俺を映して驚きに染まる。


「貸しといてくれない?」


「……あ、……え? …………なー……?」


 了承と取ろう。


 再度振り向いて、赤毛の美女と対峙する。


 適当に構えて拳を握った。


 素人構えだ。


 その構えを見て――――しかしギルドマスターは


「何をしようと無駄さ。ギルドを攻撃する以上、反逆者の汚名は――」


「――それがなら話が変わってきませんか?」


 魔力が魔法奇跡を発現させた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る