第455話
特段、怒るような内容でも無かった…………と、思う。
あくまでは俺はね? 俺は。
サラリと纏めると『お前の魔法を試してみていい?』的な依頼だった。
まだ効果に疑問があるのか、それとも魔法の存在そのものを信じられていないのか、実地で試してみないか? といったもの。
これに『探海者』資格を持ってない俺は依頼を受理出来ず、そもそもの所有権がパーズ持ちなので、パーズの道具扱いで『使ってみるけどいい?』みたいなことを持ち掛けていた。
…………ガンテツさんがキレた理由がよく分からんが?
まさかここで人道的なキャラを発揮したというわけではあるまい。
となると、やはり例の『強制指名』とやらが問題なのだろうか?
これにラノベ知識を付け加えるのなら……やっぱりただの指名依頼みたいな物にしか思えないのだから役に立たない……。
俺の植物紙の作り方という知識チートはいつになったら披露出来るのだろうか…………既に紙があるのは置いといて。
「断われ」
ガンテツさんは
本当に聞くだけ聞いて席を立ったパーズは、酒場っぽいところで食料を調達していたガンテツさんと合流。
その後、当初の予定通り宿屋の一室に戻って食事を始めた矢先である。
……まだ依頼内容についても話してないんだけどねー?
テーブルに広げられたオツマミに、昨夜飲んだのとはまた別の色の酒がコップを満たしている。
酒盛りですね、分かります。
「強制指名って断れるのかー?」
「オレが許す、断っとけ」
モクモクとツマミだけを拝借するパーズと、モクモクとお酒だけを飲むガンテツさんとの会話である。
わあぉ、いいバランスぅ。
ちなみにガンテツさんの顔色は周りに悪いものという意味では変わらず、機嫌も良くなさそうだ。
なので口を挟むことなく部屋の端っこでチビチビと食事を頂いているのが
テーブルを挟んで互いの領分を決めているのが爺孫だ。
「あのなー、今回の強制指名なー。依頼料が金針二本なんだー」
そうなのだ。
俺が海に潜って魔法を使うだけで、一般家庭の平均年収ぐらい貰えるという破格の待遇。
これにはパーズも「オレ、四等級なのにかー?」とギルドマスターに聞き直していたくらいだ。
これが俺の稼ぎになるかどうかはまだ聞いてないところだが……ガンテツさんやパーズの考え方からすると半分は貰えそうである。
一先ず税金分にはなるという据え膳。
「だから何だ?」
魔王様の前では粗末な食事でしたね? すいません。
……怖ぇよぉ、ううっ……もう村に帰るぅ。
とりあえず心の中に天使の笑顔を浮かべながら死んだ目で酒を仰ぐことにした。
決定権が俺に無いのは当たり前だが、これを『ボロい』と考えてしまうのは仕方ない価値観だと思う。
俺もどちらかと言えば賛成派で……――何より依頼を持ち掛けられたパーズが乗り気だ。
だからこその恐怖である。
唯一の反対派が魔王様なんだよ? じゃあもう白もピンクも黒だもの。
精一杯の抵抗なのか……はたまた普段と変わりない対応なのか、それでもパーズは話を続ける。
「でもなー、強制指名だからなー?」
「……テメー、普段から言うこと聞かねえが……今日はやけに粘るじゃねえか。なんだ? そこの野良犬を哀れに思ってんならやめとけよ? 命を張る程の仲じゃねえだろ」
ごもっとも。
これが逆なら正しく俺もそう言っているので、なんの文句もないです。
……何よりガンテツさんの雰囲気が怖いから、早く話を終わらせたいです!
どうやら俺が考えている以上に『強制指名』とやらは危ないものらしい。
『命を張る』程って、どれだけだよ……。
それは『俺』に対してなのか『パーズ』に対してなのか……どちらにせよ、危ないのならやらないでいいや。
テトラの笑顔からジト目さんのジト目に変化するぐらいのストレスを受けていると……しかしガンテツさんの忠告にパーズが首を振った。
「助けるって、そんな簡単なことかー? 『一度面倒見ると決めたら』って爺ちゃんも言ってたろー? もう忘れたかー?」
「そりゃ人による。血の繋がった孫と、何処の魚の餌かも分からん自殺志願者じゃ話が違うわい」
「そうかー。でもオレは同じだと思うー。そういう風に育ったー。……育てられたー」
「……あのな? 溺れる奴に手を貸すのは善意じゃなく仕事だぞ? 目的は金だ。そこんところを履き違えんなや」
ヒートアップしているように感じる両者に、脳死気味の転生者は『今、「俺のために争うのはやめて!」って言ったら面白いかなぁ?』なんて思考を彼方へと飛ばしていた。
分かってる……分かってるのだ。
恐らくはパーズが俺に金を稼がせようとしてくれていることは。
それだけに何も言えずにいる。
どこまでも変わることのない白髪の少女が、その透き通るような青い瞳を祖父へと向けて言う。
「うん。わかってるぞー。金なー? 大事だー。でも、もっと大事な物もあるだろー。……爺ちゃんが教えてくれたんだー」
「……」
真摯に見つめてくる孫の視線を、一度として捉えずに――――手の中で遊ばせていた酒の瓶を一息に飲み干すと、ガンテツさんはベッドへと寝転んだ。
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