第447話
動きを止められるのは数十秒だけのようだが……。
それは戦闘において致命的とも言える時間だった。
両強化の三倍でようやく動けるだけの強制力を持つ攻撃――強化魔法頼りでやっている俺としては、これ以上ないぐらいに効いた。
ていうか負けるよね?
小舟へと戻った俺は、しかし感覚の結界も最大限に広げて警戒心を露わにしている。
「追ってくる気配はないな……」
気絶させた仲間の回収に走ったか?
船へとパーズを寝かせながら、他の島にある気配の様子も探ったが……今の戦闘に気付いてない筈もないのに近付いてくる様子がない。
速さを優先させるのに海面を走ったにも関わらず、である。
めちゃくちゃ目立つ水飛沫が立ってたわ。
事情を知らなければ調べてみようという気にもなるんじゃなかろうか?
もしくは逃げるか――どちらにしろ反応が無いわけがない。
――――なのにピクリとも動かない。
……どう考えても漁師や役人じゃねえやな。
陸にあって近付いてくるというのなら万が一もなく俺は察せるだろう。
しかし唯一の不安要素が最も接近されそうな方法でもあるというのがまたなんとも遣る瀬ない。
そう、海中だ。
残念ながら海の中の気配を探る術を俺は持たない。
とっととこの海域を離脱して役所へと駆け込みたい気持ちで一杯です。
こういう時のために税金払ってるんだからさあ(未払い)! ちゃんと取り締まってくれないと困るよ?!
朝食のタイミングでは来訪していたというのに、肝心な時にいないのが何ともお役所っぽい。
動けないパーズを余所に、一先ず
ちゃんと手順を習ってて良かったなぁ……。
噴き出した水に押され、船が進み始める。
「パーズ、聞こえるか? 今から島に戻るぞ。役人……ギルドと連絡を取る方法とかあるか? 一先ずはガンテツさんと合流して、念のため本島の方に避難したほうがいいかもしれん」
「――……あ。動いたぞー?」
やはり数十秒……もしくは一、二分か?
パーズの効果時間の方が長かった気がするが、それが強化魔法で抵抗したお陰なのか、元々あった魔晶石の効果の差異なのかは分からない。
パーズが首を傾げて訊いてくる。
「あいつらなんだー? なんで襲われてたんだー?」
「む……やはり地元の人じゃなかったのか……」
「あのなー? あんなの、地元云々関係なく怪しいぞー? 大丈夫かー?」
なんで頭をツンツンしてるの? 『頭大丈夫?』ってこと?
意外に辛辣な命の恩人に、出掛かったツッコミを飲み込む。
代わりに口元をヒクヒクさせるぐらいは許される筈だ。
「なんかずっとこっち見てたんだよ、あいつら。だから『何見とんワレ?』って言いにいったら、突如の爆発ですよ。ストーカーだな、ストーカー」
「……喧嘩かー?」
「ええ? 何言ってんだよ、違うちが……」
……わないねえ? いつから俺はチンピラにジョブチェンジしたんだろう?
脳裏を過ぎる『金よこせ』発言にチンピラもチンピラ、かなりのグレードダウンを予感させた。
全部異世界が悪い。
「い、いや違う違う。あいつら怪しかったろ? 隠れてパーズを盗み見てるみたいだったし……。俺はそれに気付いて注意しようとしたわけね? 喧嘩も、売ったというか……売る前により凶悪な商品を押し付けてきたというか……。とにかく危ないとこだったんだよ、うん。危なかったなー? うん……」
「そうかー」
あ、これ聞いてない時の返事だわ。
「いやいやいやいや、本当だからね? 俺が吹っ掛けてなきゃ、今頃あいつらはパーズを攫って目も当てられないようなことを……! ああ?! なんて奴らだ! うらや……いやクソだな! 人間のクソだ! クソ野郎だ!」
「目も当てられないようなことを、なー?」
そこピックアップする?
「……うん。たぶん」
「そうかー。じゃあ爺ちゃんに言わなきゃなー。攫われて、目も当てられないようなこと、されそうになったってー」
「待って。それは色々と誤解を生みそうだから説明は俺がするよ」
そこだけ切り取ったなら犯人俺じゃん?
良くない……それは非常に言葉足らずだよ。
イマイチ操船が上手く行かずに微妙に島からズレる進路を取っていた俺に、近付いてきたパーズが操舵を受け取った。
風に靡く髪から雫が後方へと飛んでいく。
近くに来たパーズの横顔をチラリと見て、言わなくてもいいような不安が思わず口を衝いた。
「ガンテツさん、無事かな……」
魚を取っていた海域からでは、ガンテツさんの安否は確認しようがなかった。
ただの海賊だと高を括っていたが……どうにも様子が違う。
まさかあれ程の準備がされているとも思わず。
結構な襲撃に、狙われているのが俺じゃないとすれば――――
パーズの表情は変わらない。
「爺ちゃんは大丈夫だー」
その言葉に嘘はないのだろう、横顔には自信と信頼が溢れていた。
……海賊相手なら、俺もそうだろうとは思うけど。
敵対した賊共の持つ装備や、連携をする時の練度から……どうにもただの海賊のようには思えなかった。
そして何より用心深い周到さを、罠や魔晶石も放つ布陣から感じ取っていた。
…………いや、全部早計ってやつだろ……そもそも賊が乗り込んでいる可能性の方が薄い……。
――――しかし無情にも、ガンテツ島にガンテツさんじゃない他の誰かの気配を感じた。
腹に響く重低音と共に、島に黒煙が上がるのも同時だった。
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