第445話
――――いっ……――――!
至近距離からの爆発は、俺の体を岩場から引っ剥がし再び海の中へと引き戻した。
弾かれた玉のような勢いで海中へと叩き込まれた俺は即座に回復魔法を使用して傷の回復を計った。
――――――――てぇな!
強化魔法の重ね掛けをしていたことで事無きを得たが、倍率を下げたせいで思わぬダメージを食らってしまった。
体が痺れる、痛みが抜けない。
立て直そうと使用した回復魔法が蚯蚓腫れのように荒れた肌を癒やしていく。
水の抵抗で勢いは減じたが、島の近くだけあって水深がそこまででもなかったせいか早々に海底へと到達した。
僅かに火傷を負った肌が回復していく間に思考を巡らす。
絶対に役人じゃないだろ?!
火晶石だ。
ダンジョンの深奥にて度々役に立っていた冒険者の
幾度と見た爆発が、先程の爆発と被る。
魔力を見掛けなかったことから、その想像は益々と俺に確信を抱かせた。
同時に思う。
本当に海賊なのか――――?
『火』の魔晶石は高価だ。
ダンジョンの探索をする冒険者でさえ、逃げる時にしか使わない。
そんな物がポコポコ買える程、冒険者という職業は高給取りに出来ていないからだ。
冒険者でさえ、それで魔物を倒すかどうかで躊躇するのに……金にがめついイメージがある賊が只の罠になんか使うだろうか…………。
しかしハッキリとしていることがある。
そう、つまり……。
――――こいつらは金を持っている!
水中呼吸の魔法を使うより早く強化魔法の段階を引き上げた。
やる気に押されるように屈めた足が海底を蹴飛ばす。
跳躍。
魚雷のような速さで海中を進み、島を一望出来る程の高さへと飛び出すと――叫んだ。
「――金よこせえええええ!」
人間って正直に出来てる。
…………ハッ?! イカンイカン、冷静にならなくては。
自失から回復出来たのは連中が持つボーガンのような何かを向けられたからだ。
なんてことだ、話し合いに来ただけだというのに……戦闘は避けられないのか?
不本意で大変に遺憾ながらも拳を握った。
倍率を上げたことで強化された聴覚が奴らの呟きを拾う。
「――――仲間か?」
恐らくは罠に掛かった人物と別の人物を想定しているのだろう。
残念ながら
体の勢いが重力と引き合い、動きが止まった瞬間を狙われて撃たれる。
……これが海賊ぅ……?
どうにも俺の中の海賊像と一致しないのだが……。
まあいいや――――捕まえて聞けば、ね!
襲い掛かってくる八本の矢を、全てシャフトを握って無効化する。
――――毒か?
鏃を僅かに濡らす液体には、粘性と微量の刺激臭を感知した。
もしかしたら証拠になるかもしれないと矢を握ったまま島へ――奴らの中心地へと降り立つ。
反応は攻撃時より速かった。
着地の瞬間を狙われると身構えていた俺の予想を裏切って、連中はそれぞれバラバラと思われる方角へと逃げ出した。
――――つまり海の方へと。
確かにウェットスーツっぽいけど――水中戦に自信があるのか?
奴らは――――《全部で十人いる》。
八方向へと飛び込む黒水着の集団を無視して、バレてないとでも思っていそうな――島へと残った二人へ接近する。
「――な?!」
「あ、そういう台詞いいから」
加減した筈のボディブローは、しかしメキメキという手応えと共に二人の口から血反吐を撒き散らせる結果になった。
……よし、生きてる!
ビクンビクンと痙攣したり泡を吹いたりと芸が細かい二人を置いて、海中へと逃げられた八人を追い掛ける。
他の小島にも人の気配があるのだ。
ここほど人数は多くないし、そこまで近くでもないが、合流されるのは面倒である。
向こうの海にはパーズもいる。
ここの連中を全員捕まえて様子を見よう。
確かに戦闘に際する練度は高く、実力もダンジョン深層レベルの冒険者と比べても遜色がない。
意外な罠や行動に面食らったことは認めるが……――強化時の俺の敵ではないだろう。
充分に捕まえられる。
しかし行動の意外さが読めないということは、逃がすと面倒なことになるかもしれないということでもある――
相手からしても『一人だけでも逃げ切れれば』という思惑の透ける布陣が、俺の警戒心を削ぎ、焦りを募らせた。
先程、罠に掛かったばかりだというのに無警戒に海へと飛び込む。
連中は――――
速い。
瞬く間に水中を泳いで距離を空けている。
それでもパーズの方がまだ速いというのだから――本当にどうなってんの、あいつ……?
しかし強化された俺の遊泳(?)速度には勝てまい。
ただ連中にあっても呼吸の心配がないようにも見えるので――どうやら決着は海中のようである。
バラバラに逃げられてはいるが、大して時間は掛からないだろう。
踏み出した足で海底を蹴飛ばす。
奴らの速度は魚と遜色がないレベルのものなのだろうが、こちらは魚雷にも勝るとも劣らぬ速さなのだ。
蹴立てる地面の心配さえ無くなれば、更に速度を出せるだろう。
そんなに速くなくてもいいが。
瞬く間に追い付いた俺に、魔力を放つウェットスーツを着た賊が動揺する。
まず一人。
金を! 違った、ごめん! 酸素を吐き出せ! と腹を殴り付けて海中を泡で彩る。
気を失ってゆっくりと海面へ浮上し始める賊に、どうやら問題なさそうだという思いを強める。
――問題なく、倒せる。
早速とばかりに近くに居たもう一人の方へと向き直ると、そいつは手にした何かを俺に放ってきた。
魔晶石だ。
また爆弾か――――?
火か水か風か土か、僅かな逡巡と海中にあって感じる水の抵抗と――――何が来ようとも対応出来るという余裕が、魔晶石の効果を吐き出させた。
俺の体は動かなくなった。
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