第417話


「なるほど……漂流物を拾ったら、拾得者の物となる……それは中々難しいお話ですねー」


「なーん難しいことないわ。わりゃ誤魔化してるつもりか?」


「オレ、人拾ったの初めてだー」


 圧迫面接の最中だよ?


 拷問のように照り付ける日差しと熱い砂地が肌を焼く中、爽やかな風だけが救い……。


 ビーチだというのに正座でお話を聞いている。


 この恐いお爺さんの名前はガンテツさん。


 近くに住む漁師らしいけど……見た目的には完全にアッチ系(火傷する)の人だ。


 孫娘だという、こっちの小麦色に日焼けしたパーズさんと暮らしているとのこと。


 ここは…………見た目そのままに俺が暮らしていた王国じゃないらしく、諸事情で流されてきたと言ったらめちゃくちゃ変な顔をされた。


 どうも王国って遠いらしいんだよね。


 そこにどうやって来たのかと問われれば……いや本当に『流された』としか言いようがなくて……。


 しかも住んでいた王国の名前を覚えていなかったもんだから、ガンテツさんに諸王国の名前をズラズラと並べられても答えられないという事態。


 アゼンダ王国じゃないというのは覚えてる。


 そう言ったら、また『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をされてしまったけど。


 まあね?


 自分が住んでいる所の都道府県を答えられないのに、なんで住んでもいない国の名前は覚えているかってね?


 あそこにいる『五槍』をぶっ飛ばしちゃったからです……なんて益々持って言えないけどね?


 報復を恐れているので、あの国の関係者とは関わらないようにしています、なんて…………ねえ?


 しかしアゼンダ王国の隣りとなったら話が早く、二つにまで絞り込めた出身地。


 目標が分かれば帰るのにも容易いというもの。


 いや〜、ほんとありがとうございます、それじゃ俺はこれで……。


 ――――とは行かなかったのが現状。


 なんでもこの国のでの救命行為というのは謝礼有りきのものだと言う。


「ほれ? 騎士が捕えられたら賠償金を貴族家が払うだろ? あれと同じようなもんだ」


 そもそもそんな制度があるのも知らねえよ。


 そういえばテッドがそんなことを言ってたような言わなかったような……。


 ぶっちゃけ戦争に参加した自慢話がメインだったので聞き流してテトラの相手をしていたので覚えていない。


 捕まったら殺されるか売られるかになるというのは、実際に体験していたチャノスが言っていたので覚えているけど……。


 これは何も人に限った話じゃなく、海で拾った物は拾った奴の懐に入れていいという、なんとも豪気な法律がこの国にはあるという。


 当然だが、金銭を得た場合は税金を取られるらしいけどね。


 救命かどうかの線引きというのは、相手に対して了解を取った時か、既に意識が無い者を引き上げた時とのこと。


 そっかー。


「あ、俺、実は意識がありました」


「嘘つくんじゃねえよ」


 軽い冗談で場を和ませようとしただけなのに……ガンテツさんの眼光が鋭すぎて断念だ。


 マジで怖いや、この人が? ううん、異世界が。


 いや……御礼を言うのは分かるよ? 百歩譲って謝礼を払うのも頷ける。


 でも俺は文無しなんだよ?! 何も持ってない奴に「さあ払え」言われましても?!


「ちなみにおいくらなんですか?」


 お高いんでしょう?


「まあ相場は金針一本だな」


 本当に高いやないかい。


 ほんの少しだけ『家に帰れば……』なんて思っていたけど、家に帰ったところでそんな貯金は無いよ。


 全くの無利子だけどなんか借りとくことに抵抗を覚えるジト目金融なら、もしかしたらそれぐらい持ってそうな気もしなくはないが……。


 いや持ってないよなー、いくらターニャといえど。


 となると……。


 ここは交渉だ!


 家電売り場で鍛えた俺のネゴシエーション力を披露するとき!


 額をピシャリと叩いて口を開く。


「せめて銀板になりませんかね?」


「ならんな」


 バッサリなんだけど?


「じゃあローン……」


「持ってないならテメーは奴隷落ちだ。なーに、アゼンダ王国に売られることもあっからよ。上手く行きゃ故国に帰れる……かもしらんわ」


 ど、ど、ど、奴隷落ち? 誰が? あ、俺か…………いやいや嫌だが?!


「…………ちなみに逃げたりとかされないんですか? あ、学術的興味があるだけで決して試してみようなんて思っちゃいないんですがね?」


「そういうことする奴もいるじゃろなあ。でも既に役人の見届けが済んでるわ。言うたろう? 税は払わなにゃいかんと。テメーには悪いが、こっちも生活かかってるんでなあ。逃げたらお尋ね者だろうよ」


 いつの間に……! ってか寝てる間にか。


 とすると…………この日焼け娘って介抱してくれてたんじゃなくて、逃げないように見張っていたのかな?


 知ってたよ、異世界に夢がないなんてのはさ……。


 クニクニと足の指先を動かして話を聞いていない日焼け娘を眺めていると、ガンテツさんが指を三本立てて手を突き出してきた。


「オメーが選べる選択肢は三つだ。一つ、金を払う。二つ、奴隷に落ちる。三つ、謝礼分働く。さあ、えら――――」


「働かせてください」


 俺は食い気味に土下座した頭を下げた


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