第411話
結局それか……。
別にいいよ、そこそこ回復出来たから。
ミシミシと……本当に関節が存在しているのか疑問だった体の固さが、めちゃくちゃ後頭部に響く痛みを伴うけど動く――までになった。
……っ! お、…………っけ〜、戦え……る……?
ちょっと疑問だ。
立ち上がったのはいいが……体は一ミリも動かしたくない状態である。
なんなら風が吹いても死にそう。
……痛風かなあ? そろそろ齢も(合計で)四十の半ばまで食い込むしねぇ。
そろそろと立ち上がった俺が気にされるわけもなく――戦意を漲らせる白服達が囲う中で、姫様が朗々と告げた。
「妾は欠片も死ぬつもりがない。よって抵抗させてもらう」
『……だろうな。俺だって生きてたらそう言うよ』
「姫殿下お下がりください! ここよりは我々が――」
「よい。
「……は?」
『……』
姫様の眼に――――紫の光が色付く。
「此奴は言うておったな? 遺跡内にある魔力を暴走させ、爆発を生む――と。ならば何故、わざわざ妾達をこの空間へと招いたのじゃ? 必要がないじゃろ。殺そうとしている標的がいるやもしれんというに、わざわざ手筈を露見させるなぞ……。悪手も悪手じゃ」
「いるやも……?」
姫様の言葉に引っ掛かりを覚えた『
幻は……何故か話を遮らない。
言わせたいように言わせている。
「リーゼちゃんが居らぬ。離れている距離や怪我の有無にも関わらず、妾達は強制的に此処へと集められた。しかし例外が含まれておる。ということは……避けることが出来るという可能性を示しておる。それでは此奴の言う『魂蔵』持ちを逃しかねん。話を推察するに……本来の役割は別にある」
『御名答』
「此奴の目的は、『魂蔵』持ちを逃がさんとすることじゃ。つまり逃げられん状況に追い込まんとするのが本来の役割じゃろう。神云々の話は、不和の種蒔きといったところかの?」
『話が早くて助かるな』
「フン! どのみち妾達には選べる道などないのであろう? さっさと話すがよい!」
『それじゃあ早速――――今から、爆発を解除する方法を教えよう』
なる……ほど。
イマイチ規模に実感が湧かないんだけど、半径百キロというと……近くにある街は当然として、いくつかの村も、その範囲に含まれるだろう。
うちの村は…………範囲外だと思う。
しかし多分だ。
半径百キロともなると、その熱量もとんでもないものになるのが簡単に予想出来た。
しかもこの近辺はうちの村の唯一といっていい程の交流範囲である。
軒並み無くなるとなれば、その後の流通や領主の村に対する扱いも変わってしまうのではないか……。
と……止めたい、…………止められるものなら、止めておきたい!
しかしようやく理解出来た。
これは罠だ。
どう考えても……。
そもそも教える理由もないのに、止める方法を教える……?
絶対に罠だ。
それは姫様が交わした会話からしても読み取れた。
なんでもないことを告げるように、幻の黒尽くめが続ける。
『なに、方法は至極簡単な事だ。特殊な技術を用いない……誰にでも出来る方法さ。魔力を流すだけでいい。特定の場所に、ただ魔力を流すだけ……それで魔力暴走は止まる。な? 簡単だろ?』
「考えうる中で最悪のパターンじゃ」
『賢い奴が居てくれて良かったよ。俺達の努力も報われる』
幻が片手の掌をクルリと回す。
すると幻の前に、両手で測れるぐらいの大きさの穴が空いた。
全方位が真っ白な空間にあって、そこも見えないような黒々とした穴は、何か不吉なものでも孕んでいるのではないかと感じられた。
幻が穴を指差す。
『一人だ』
何を言っているのやら――――残念ながら理解出来た。
それはどうやら俺だけではないようで……。
「――姫殿下。どうぞその御役目、私に……」
「いや待て! 先に賊を討つべきだろう!」
やいのやいのと騒ぎ始める白服達。
意見の一つに『先にあの黒ローブのツインテールを殺ってしまおう』というのがあった。
半包囲されているというのに慌てることのないローツインは、成り行きを見ているのか憮然とした表情である。
あれがあいつの
何故か未だに魔力を吸われてはいないが、また別の何かを仕掛けている可能性も――――
『この場で誰かを傷付けるという行為は出来ないぞ? そういう風に作られている』
こちらの警戒も何処吹く風と、幻くんが一刀両断。
その言葉を聞いたローツインが、溜め息を吐き出しながらボソリと呟いた。
「……どうりで」
あ、こいつ既に攻撃してやがったな? 騎士の皆さん? ちょっと試しに斬りつけて貰えませんか?
気色ばむ白服を放りおいて、幻が続ける。
『そういうのは戻ってからやってくれ。そこの白銀の髪の嬢ちゃんの言う通り、この空間は一時的なものだ。時間になれば崩れる。尤も、ここの時間なんてどれだけ長くても向こうに戻れば一瞬でしかないんだけどな』
「……姫殿下。騙されてはなりませぬぞ。こやつ、そう嘯いてこちらの戦力を削ごうとしているに違いありません」
『いいや? これは『魂蔵』持ちに対する挑発を兼ねての慈悲みたいなもんだぞ? この穴は……いわゆる近道ってやつだ。爆発を解除出来る場所ってのが、この施設の最深部になるからな。しかも地下への道は分かりづらい。優しさだよ、優しさ。ただの親切だ』
それは最悪だ。
告げられた会話の中で、それが何処を指しているのか…………俺と姫様だけには分かっただろう。
確か…………開けていない扉が三つ程あったなぁ。
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