第409話
姫様の視線が僅かにもブレないことがありがたかった。
恐らくは薄々……というか確実に、俺に対して何らかの予想を立てていたであろう姫様。
長く続く歴史の中に、時折俺みたいなのが現れるって言ってたもんなぁ……。
どうにもこの幻くんは、こちらを認識出来るみたいだから尚の事だ。
もしかして識別するのに日本人としての特徴を捉えなければいけないというのなら、俺はそれから外れるのでパッと見には分からないだろう。
いや、そもそもなんでこいつらは揃いも揃って日本人の特徴を残してんの?
全員が全員、黒髪黒目とか…………偶然にしてもおかし過ぎるだろ?
魔女の伝承では――――魔女は黒髪黒目に生まれたと言っている。
しかしこいつは……まるで日本から迷い込んで来たような格好までしていた。
…………転生と転移で分かれてるんだろうか?
だとしたらなんで俺だけ現地人として生まれたんだろう?
答えを返せる――恐らくは同じ世界から来たと思われるお仲間に訊いてみたかった。
しかし周りの目がなぁ……。
沈黙を貫いているのは何も姫様と俺だけじゃない。
テッドとアンは普通に戦闘態勢だし、なんなら白服に至ってもそうだ。
手出しをしない理由は先程の魔法すり抜けの件もあるんだろうけど……一番は何故か居るローツインの存在のせいだろう。
居るよ…………すっごいイラついた顔で白服達に半包囲されてるよ……。
これまた何故か大人しいけど……こいつの場合、それが戦闘の手段ってこともあるからなあ。
宛てには出来ない。
気になったのは他の救助隊のメンバーとリーゼンロッテ…………オマケのポニテといったところか。
倒れている皮鎧装備が、残る救助隊のメンバーなんだろうけど…………その中にリーゼンロッテの姿は見えなかった。
ポニテもいない。
互いに最高戦力がいないことが、この膠着状態を生み出しているとしたら……それは幸なんだか不幸なんだか……。
とりあえず目の前の
なんかアドバイスくれるって言ってたし。
周りが静かな方が喋りやすいだろう。
こちらの予想に違わず、緊張感のある沈黙の中だというのに……幻くんは淡々とアドバイスとやらを始めた。
『まず神と交わした約束だが……他の奴が何を言われたかは知らないが、転生する間際に出された交換条件みたいなのがあっただろ?』
何それ知らない。
どうしよう……異世界が全力で俺をハブってくる。
『あれは嘘だ』
しかも嘘なんかい!
幻影が疲れたような溜め息を見せた。
『……と言ったところでお前らは信じないだろうな。ここにいるってことは、既に引き返せないもんな? 他に縋る者もいないもんな? 信じるしかないもんな? わかるよ…………本当にわかるんだ。俺もそうだったから。でも叶わない、それは叶わない願いなんだ』
話される真実とやらは、ご丁寧なことに現地の言葉だ。
この中にいる転生者を炙り出したいのなら、日本語で話せばいいのに……。
その方が俺も都合がいいし。
白い空間に幻とは思えない朗々とした声が響く。
『俺も探した……探したさ? でも…………結局は見つからなかった。だから縋るしかなかった。出来るか? いや出来るわけねえよ……少なくとも俺には無理だった。それでも、せこせことした抵抗に寿命間近の奴を看取ったり……小競り合いのような戦争に参加したり……色々やったよ。そこで思いついた。……まあ、誰でも考えつくだろ? 他の……前に呼ばれた転生者の『魂蔵』を貰おうなんて――』
さっきも言ってたな? その『魂蔵』ってやつ……。
なんだ? 異世界チート的なやつか?
あれか? 俺の他の転生者もムッキムキ(見た目変わらず)になれるのか?
『痕跡は……割と簡単に見つかったよ。自重する奴の方が少ないからな。……俺も含めて。前に来た奴……前の前に来た奴……協力者、関係者…………色々遭ったなぁ……色々あったよ』
――――老人か?
ふと過ぎる表情が余りにも年輪を感じさせるものだったので……不意に『もしかしてこいつ、前世で老人だったのでは?』と思わせた。
…………そんなわけないよな?
こいつの見た目や口調、何より語っていた思い出は……精々が俺と同年代程度のものだ。
年寄りなわけがない。
『その中にさ……目標に到達した奴がいてさ。すげえよな……ああ、凄え……――稀代の大罪人だ。…………それだけ帰りたかったんだろうな。日記が残っててさ……読んだよ。後半、もうグチャグチャだった。ああ……そうなるよなぁ……そうなる。普通ならそうなる』
「それを見つけたことが、神との約束が叶わぬとされた理由かの?」
唯一と言っていいほどに冷静な姫様が、幻に問い掛ける。
それに頷きを返す幻は……やはり映像なんかじゃないようだ。
『ああ、そうだ。真実を知った。真実……この世界の真実、約束の真実、……俺達の真実。…………お前が何を願ったかは知らないけど……教えとくよ。俺達は帰れない。……元々そうだろ? 死人は生き返ったりしねえ。そして……神様だって嘘をつくんだ』
そもそも神様に会ったことが無いとは言い出せない雰囲気……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます