第408話
同一人物…………だよね?
そこそこ時間が経ってはいるけど、恐らくは同郷と思われる転生者の幻を見てから日を跨いだ程じゃないのだ。
まさか忘れるわけがない…………筈だ!
先程の戦闘を振り返れない自分に不安である。
しかし突然現れたその人物の顔は、間違いないと言える程、『机の彼』にそっくりだった。
ただ……。
雰囲気が違う。
垢抜けたとでも言えばいいのか…………いや違うな。
より先鋭されたと言う方がしっくりくる。
日本人だと確信出来るような緩さというか、学生の時にしか出せない空気感というか……。
ようするに『甘さ』のようなものが消えている。
大した年月も重ねてなさそうなのは、見た目の若さからしても読み取れる。
なのにこの変わりようだ。
同一人物かどうかを疑っても仕方ないと思う。
これは、あの机のシーンの後に撮影されたものだろうか?
「姫殿下!」
声を上げたのは白服の何人かだ。
素早く姫様を隔離して幻の転生者と対峙する。
白服の囲いの一部が解けたお陰で、その向こう側にいる……ローブを着けた赤いツインテールが見えた。
……見たくなかった。
そうか……俺を囲んでいたわけじゃなくて、姫様を守ってたのか…………あの人、さっき早々に帰ってなかったっけ?
こういう時には強制力が無くなる姫様は、必殺の肉詰めをされて不機嫌顔である。
録画だって言えば――――
幻の彼の視線が、肉の壁に押し潰されそうになっている姫様をチラリと見た。
『出来そうなのは…………三名ぐらいか。神器を持っていた奴らは取り込めず……。まあ予想通りだ。とっとと済ませよう、あまり時間も無いんだ』
…………本物、というか……実体が、ある……のか?
まさか、あり得ない。
ここは数百年以上前の遺跡で……何より人が住めるような状態ではなかった。
……偶然だろ?
僅かにも不安に思うのは幻が精巧過ぎるからだ。
ほんとに紛らわしい立体映像だなぁ…………いやほんと。
己の常識に今の状況を照らし合わせていると、待っていられないとばかりの魔法が幻を撃った。
砲弾のような土塊である。
白服の誰かだろう。
その攻撃は――――幻くんをすり抜けて白の彼方へと消えていった。
幻が口を開く。
『無駄だ。ここは俺が作り出している擬似的な『神界』だ。お前らの自由を縛る程の強制力は持たないが、俺に届くようにも出来ていない。そもそも肉体を持たない俺に『土』は届かん。せめて『霊』属性で攻撃するんだな。多少は意味があるかもしれん』
「答えたの……」
答えたねぇ……。
姫様の呟きとシンクロする。
いや堪えるわぁ……知らないワードいっぱいなんですけど。
どうしよう? 俺、『霊』属性って持ってるのかな? 脳筋パンチが十八番なんだけど、それも届かない感じ?
強者感を出す幻(?)くんに辟易だ。
装備も、前世を思わせるジャージじゃなくて黒染めの不思議な光沢のある服に変わっていた。
目つきも鋭く、油断も見られない。
本当に机の前に現れた幻と同じ人物なのかと問い掛けたくなる。
魔力は…………まだ残っている。
なんなら七割半ぐらいあるから……あと一回ぐらいなら魔力による体調変化を起こさないまである。
しかし物理攻撃が通用するのか不安なところだ……。
恐ろしいのが無駄撃ちである。
使うだけで死にそうになる両強化四倍を使って何も得られずに瀕死……うわぁ、やめて欲しい。
そんなの恥ずかしくて死ぬ。
俺の選択肢には死しかないのか?
全く……。
構える幼馴染の両名に合わせて、こちらもをなんとか立ち上がろうと足に力を入れた。
俺を一瞥もせずにテッドが言う。
「無理するなよ、レン」
へっ。
「やだね、する」
「……ほんと、我儘だよなあ」
溜め息を吐く幼馴染にブチギレですよ? あ? 誰がじゃ? やれるわ、むしろやってやるからな?
グイッと体を持ち上げる。
うーーーわっ…………キッツ……いや、テッドの発言だけじゃなくてですね? 体がね……?
…………やっぱり任せていいかなぁ?
片膝を立てるだけでミシミシと鳴る体に絶望した。
傍目には治ってるのに……文字通り体が言うことを聞かない系。
説得……話し合いとかどうだろう? ほら? 同じ転生者なんだからさあ、助け合い精神で……。
幻くんが問答無用で続ける。
『まもなく、この施設は溜め込んだ魔力を暴走させて自爆する。その威力は施設内に留まらず半径百キロ程を灰燼と化すだろう。ここの神には話をつけている。間口が少しばかり広がるだけだとさ。……どいつもこいつも、神ってやつは』
……………………ちょっと待ってくれる?
理解が追い付く前に次々と新しい情報を更新してくる幻くん。
『お前らの狙いは俺の『魂蔵』だろ? その方が楽だもんなぁ……わかるよ。俺もそう思った。俺もそうした。何より無茶な要求だ。普通に達成させるなら……あいつらの言う通り、世界を破滅させるか、延々と戦争を繰り返させるか……それぐらいしか思い浮かばねえよな』
「お主…………何を言うておる?」
ちょうど俺の……というかここにいる全員の心の声を代弁してくれた姫様に感謝である。
幻が自嘲するような笑みで答えた。
『何って……真実さ。今から話すのは、俺達にとっての真実。この中に居るであろう他の世界から来たお仲間に対する――アドバイスだ』
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