第396話
シュトレーゼン……のオマケとして、再びの斥候……というか先遣となった
俺が通りますよ。
回復魔法が自動で掛かるという不思議分岐部屋を拠点として、一先ずは各通路の先遣を行うことになったのが会議の結末。
いやにやる気を出す不安というか不穏げな
以前との違いを上げるなら…………シュトレーゼン氏が前を行っているということだろうか?
明らかな対抗心にゲンナリである。
ちゃうねん……別に姫様の『お気に』とかじゃないねん……。
あの姫様は、実用的で効率的なだけやねん。
我が身を顧みないところからして、それが筋金入りってだけなんだろう。
どちらかと言えば――――姫様を気に入っているのは俺の方だろう。
……あれも器ってやつなのかねえ?
まさに大器とでも言わん性格なうえに、色々と事情を加味してくれる『空気の読め具合』は上司なら嬉しい有能さである。
ただ惜しむらくは高貴過ぎることなんだけど。
それだけで敬遠対象なんだけど、むしろ大賞なんだけど?
高いカリスマ、蠱惑的な話術、思慮深い性格。
『人の上に立つ』を体現しているような存在だ。
信者がいたとしても仕方ないことかもしれんね。
しかしそれだけに厄介だ。
そこに色恋を絡めるファン心理とかだと特に。
前世を思えば『俺、殺されてしまうんじゃない?』という発想が浮かぶのもまた仕方ない。
推しの結婚とかで
大丈夫かな? 俺の前世……今よりよっぽど
無口を決め込んだ
明らかに自然のものじゃない。
未だに先が見えない闇の奥から、棚引くように後を引く風は、俺達の服と髪を揺らしながら駆け抜けて行く――
異常事態だ。
魔物か、はたまた遺跡の未知なる仕掛けか。
しかし無言で駆け出して行くシュトレーゼンは頑なで、こちらを一瞥もしないばかりか、一言も無かった。
……どうする? 死亡フラグ立ってるで?
追い掛けないわけにもいかず、渋々とシュトレーゼンに続いているが……これは非常に不味い雰囲気のようだ。
思っている以上に。
それが分かっているからこそ、姫様も唯一といっていい先遣に俺というオマケを付けたのだろう。
……姫様のそういうところなんだよなぁ。
甘いというか、優しいというか。
恐らくは、自分だけが助かろうとするのなら……あの人はそんなにリスクを負う必要がない。
暗殺者の釣り出しや、救助隊全員の生還ルートの割り出し。
どれも回避出来ただろう。
それでも……たとえ自分が零れ落ちようとも、一人でも多くを救わんとする気概は、割と好きな気質である。
ああ、ほんと……上司にいいよな。
そんだけ部下のこと考えてくれるんならさ。
だからこそ手柄を上げんと転びかけている若い奴にも気を掛けられるんだろう。
…………へっ、損な性分だな、護られる側のくせに。
仕方ないので承ろう。
なーに、お守りはお手のもんだよ。
なんせワンパクな奴らを六人も友達に持っていたんだから。
灯りの魔道具が照らす光とは別の光が通路の先に見えた。
そこが先程の風の発生源だろう。
「――――ォオオオオオオオオオオオ!!」
聞こえてくる獣の遠吠えと、空気を揺らす振動に、魔物の存在を確信する。
また分岐だ。
今度もとんでもなく広い。
しかし何処か作り物めいた分岐部屋にあって、今度は鼻を突く獣臭が、より幻の生々しさを感じさせた。
――――三つ首の黒犬だ。
血のように赤い瞳は生物を萎縮させる禍々しい眼力に溢れ、僅かにも引っ掛かれば人の体など容易く両断せしめそうな牙の間からは飢餓を感じさせる涎が床に落ちる度に焼けるような音と共に白煙を上げている。
例にも漏れず、この黒犬も巨体を誇っている。
三つある頭は、どれか一つだけ温和――――ということもなく。
今にも『食い散らかしてやる!』と殺す気満々で、三つが三つとも殺気を撒き散らしていた。
対する勢力も三つ。
一つは、当然ながら我らが白服、シュトレーゼン氏である。
しかし分岐に飛び込んだ勢いは、
それだけ……この犬の眼光には生存本能を刺激させる何かがあった。
ぶっちゃけ俺も前言撤回して帰りたいまである。
どっかの岩山の頂上で睨まれた経験が無ければ逃げ出していただろう。
「――――新顔ね? 大歓迎よ」
あ、やっぱり逃げたいです。
二つ目の勢力が、新規参入した俺達を見て喜ぶような声を上げた。
……見たことのあるような知らないポニーテールさんだ。
こちらもケルちゃんと似たような禍々しさを持つ大剣を振り翳して……しかし喜びの表情――つまりは笑顔を見せたイカレが一人。
聞いてた話じゃ、もう一人……小柄な黒ローブと一緒とのことだったが、今は一人だけである。
もしかしなくても……こいつらも転移罠を踏んだのだろうか?
そのままお外にでも飛ばしてくれりゃいいものを……。
この時点で三十六計のうち九十計ぐらいまでをクリアして、なんなら人生からも逃げ出しそうなんだけど――
「――――レン?!」
伏せカードが強過ぎて逆転が不可避問題。
三つ目は――――光輝く剣を手にしたリーゼンロッテとアン達だ。
白服が言っていたところの救助隊だろう。
残りの人数も合う……どうやらこっちはこっちで合流していたらしい。
何故か『来ちゃった』したアンの無事な顔を見て……幾分かホッとしている俺ってば度し難い存在だよなぁ。
驚いている幼馴染に、久しぶりとばかりに手を振った。
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