第387話
闇の中に煌々と浮かび上がる白服の集団は、下手すれば魔物なんかより余程威圧感がある。
先頭にいる一人が、こちらに気付いて手を上げてきた。
「ご苦労である。して成果は?」
俺のバディだった白服が、ドロップする硬貨が詰まった袋を渡しながら、返事に躊躇している。
ここでの返事は「問題ない。〇〇まで進める」が常套句だったのだが……初めて難色を示す顔色の変化に、向こうも何事かが起きたようだと悟った。
チラリと一瞥される斥候隊。
そう、四人全員が無傷で帰ってきている。
どうも危険に直面するような状態ではないと判断されたのか、疑念が増した眼差しに白服バディさんが渋々と口を開く。
「あ〜……魔物は出ませんでした」
「良いではないか? 危険がないと確認されたのだろう?」
『それのどこに報告を迷う必要がある?』と言わんばかりの口調である。
魔物の殆どを……というか広間があった分岐以降の全部を、斥候隊だけで始末出来ているので危機感を共有出来ていないようだ。
まるで法則のように『一通路に一体以上』。
必ず魔物が現れていたのだ。
魔物を見ることのない通路を粛々と進んできた本隊と違って、常に魔物に接していた斥候隊としては違和感が半端ない。
何かある――――そう思うには充分な程に。
加えて今までにない直線の長い通路。
警戒と今後の方針を加味して、『一度報告に戻る』と判断したのも無理はない。
しかし……これを説明するとなると、やや怖じ気づいたように感じられるから困っているんだろう。
実際に怖じ気づいてるわけだしね。
それに気付いた白服さんの躊躇に、報告を受け取る白服さんは疑問の表情である。
慎重さだよ、慎重さ。
リスポーンが出来ないワントライ人生なのだから別にいいじゃん。
マジビッちゃったんでエスケ余裕っしょ? とか言っとけよ。
返答に困るバディさんに痺れを切らした白服が、もう一人の斥候隊白服に話を振った。
「おい、どういうことか? 明瞭に報告せよ」
隊の中にもありそうな上下関係先輩後輩……どうにも斥候隊入りしている二人は、騎士団の中でも些か若い立ち位置にあるようだ。
問い掛けられたのは、大隊長さんと一緒に行った白服。
結構寡黙なタイプで、必要以上には話さない……というか平民とは話す口を持たないって感じの人だった。
別に嫌味な意味じゃなく、ちゃんと棲み分けをしているという意味でだ。
仕事ぶりからは真面目さと丁寧さがあったから間違いないだろう。
わかるわかる、年下には馴染まないタイプなんでしょ? 飲みに誘ったりもしないけど、若い奴らの邪魔もしないってタイプ。
俺も生前そうだったから。
心の中で頷けるタイプの白服さんが、上司からの問い掛けに返答しようと前に一歩踏み出して――――
――――報告を受けていた白服さんの腹を短剣で刺した。
わかるわかる、俺も生前は……。
いや生前に捕まるようなことをやった覚えはないんだが?
「なん?!」
「き、貴様! 何を――ッ!」
グリッと捻られる短剣の根本から、瞬く間に血が溢れ出す。
あっと言う間に白い服を侵食していくドス黒い色が、それが現実なのだと教えてくれる。
…………よっぽどストレスを溜めてたのかなぁ?
「おい!」
慌てて抑えに回ろうとする白服バディさんに、短剣を持ってない方の手を突き付けるイカレ白服。
体には練り上げられた魔力。
――――マズッ?!
咄嗟に突き飛ばしたバディさんの顔のあった位置を、イカレ白服が放った火球が通過していく。
闇を焦がす火柱が顔を照らした。
「乱心したか、マトゥーザ?! ――――斬れ!」
待って?!
刺された腹を押さえながら下がる白服は、騎士団の中でも発言力がある方なのか、言葉通りに剣や杖を構えるのが幾人。
これがイカレ白服のみなら止めはしない。
しかしどうにも斥候隊を纏めてという気配を感じる。
というかターゲッティングされている。
不意に高まる魔力の光に汗が滲む。
「撃――」
「止めよ」
間一髪、膨れ上がった魔力が魔法へと変わる前に、姫様の言葉が間に合った。
バネ仕掛けのようにバックステップを踏んだイカレ白服――マトゥーザとやらと大隊長が並ぶ。
突き飛ばされた白服バディの方は、あっと言う間に簀巻きになって捕らえられていた。
つまり……こんなところでも一人なのが私ですよ、と。
ヤバい、ヤバいぞ……!
恐らくはあの大隊長とマトゥーザは、操られているか偽物だろう。
入れ替わった場所も分かる。
分岐だ。
そして偽物かどうかの判別方法なのだが…………。
これは伝えてなくて正解かもしれない。
前に出てくる姫様の周りには、貴き光の恩寵騎士団と違って味方っぽい人だろうと容赦の無い王族守護兵さん達……。
割と躊躇しないことも分かっているので、これに判別方法を伝えていれば「とりあえず斬って判断しましょう」とか言われかねない。
特にシュトレーゼンさんとかね?
いや他意は無いんだけどね?
――――でも魔法を放とうとしてたのも王族守護兵の方でね?
姫様が最初に声を上げてくれて助かったと思おう。
状況の好転に、しかしあの二人が本物なのか偽物なのかという問題がまだ残っている。
さて……どう説明しよう?
今、喋り掛けたところで信じて貰えるかどうか。
この場の決定権を握る王家の血筋が、鋭い視線で周りを観察する。
しかし姫様なら……! あのジト目、もとい! 魔眼の持ち主ならば!
予想もしない知性の輝きで現状を打開してくれる筈!
そんな平民の期待の星こと姫様がポツリと言う。
「…………レライトならば、妾の命に首を振らぬ筈……むしろ喜び勇んで頷くことじゃろう」
前言撤回である。
お前、ちょっと悪ど過ぎひん?
状況は変わらず四面楚歌のようだ。
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