第383話


 拾い上げた銅貨が安全だと確認した上でシュトレーゼンへと手渡した。


 『見せて欲しい寄越せ』とジェスチャーしてきたのだ。


 突然現れたドロップ品に興味を持ったのは俺だけじゃなかったらしい。


 ……カツアゲと違うよね?


 しかしこれでこの銅貨が本物かどうかが分かると言うもの。


 相手は世の中の裏まで知っていそうな上流階級なのだ。


 もしかしたら俺が知らないだけで、実は銅貨を貨幣として使っている国も――……この反応からして無さそうだなぁ。


 不思議そうに銅貨を裏返して見たり、また手の平で重さを量っているような動きをするシュトレーゼン。


 納得したのか、一つ頷くと言った。


「どうやら本物の銅を使っているようだな」


 今ので分かるの?! それもう特殊能力じゃね?!


 こちとら噛んだところで本物の金かどうかも分からないけど実物を目の前にしたら噛みそうなのに……そんな触ったり手で量ったりするだけで分かるもんなのか?


 他の銅貨を拾い上げていた俺に返してくるシュトレーゼン。


 チャリンとまた一つ……。


 手の中が銅貨でいっぱいですよ。


 これで俺の攻撃力も上がること間違いなしだね!


 ……なんで異世界に来てまで不良のケンカのような攻撃をしなきゃならんのか?


 俺はどこで間違ったの、転生くん?


 俺専用のハーレム転生ルートはどこ?


「重さと柔さからして混ぜ物はないようだが……随分と薄い作りだな? 丸みを持たせている理由もよく分からない……掴みにくいようにしてるのか?」


 お、おう……そういう捉え方なんだ。


 そうだね? ここらの物価で言えば銅棒一つでパン一個買えるもんね。


 たぶん十円玉銅貨で十五枚前後の価値ってところだろう。


 しかし――――


「……それが、ここは凄まじい遺跡として歴史に名が残るだろうな」


 シュトレーゼンの言う通りだ。


 たぶん……額で言うなら大したことはない。


 それこそゴブリン一体で銅棒一本ぐらい価値基準なので、等価交換と言えば等価交換だろう。


 問題は……本物かどうかの区別が付かない実物が生まれる、ということにある。


 …………取り扱いが難し過ぎるだろ。


 直ぐに思い付くのが、偽金……とかだろうか?


 色々と問題がありそうな遺跡だなぁ。


 しかしなんとも……。


 暗闇の奥へと目を凝らして、先程の思い付きを確かめるように思い耽る。


 …………昔のゲームだよなぁ?


 この直線でカクカクした通路も、魔物を倒してドロップする貨幣も。


 だとしたら――――



 もしかして謎解き要素とかもあるんだろうか……。



 ふと脳裏を過ぎ去っていった不吉な予感に笑顔で蓋をする。


 この頃のゲームは攻略本片手じゃなきゃ無理だろって謎解き要素が幾つもあったよな〜……。


 そのやり込み要素が楽しかったところもあるけど、絶対に今じゃないのは俺でも分かる。


 ダンジョン……ダンジョンねぇ……。


 トレーニングルームに図書館、隠しフロアに制御室。


 …………。


 チュートリアルに攻略本、裏ダンにモード管理……。


 ふとした思い付きがスッと胸に落ちた。


 在りし日のボッチの青春である。


 いやいや、さすがに無いでしょ? ……ねえ? そんな……さすがに…………。


 そもそもこれが人工のダンジョンだとしたらそれだけで凄い発明なのに……使われ方がしょうもなさ過ぎる。


 しかし思う。


 そういえば魔物の研究してそうな部屋もあったなあ…………なんて。


「……おい、どうした? 先程から無言だが?」


「あ、すいません。なんかしょうもない考えに囚われておりました。もしかして人工のダンジョンなのではと……」


「…………人工だと?」


 警戒というには遠い目をする俺に、シュトレーゼンが訝しげな表情で話し掛けてきた。


 心配お掛けしました、もう帰りましょうね? 村に……。


 しかし今度はシュトレーゼンの方が難しい顔になって沈思してしまった。


「…………あの、シュトレーゼン様?」


「……もしそれが本当なら各国との戦争に発展してもおかしくない程だな」


「そんなに?!」


 やめたげて?! たぶんそんな大それた思いで作ってないと思うから?!


 俺の驚きに呆れたような表情になるシュトレーゼン。


「当たり前だろう。この領に住んでいてダンジョンの恩恵を知らぬわけじゃあるまい。そんな物を作れるとなったのなら……同盟国すら剣を手に我が国を蹂躙するような事態になるぞ」


 ダンジョンって言ったら…………鉱山のような扱われ方をしてるよね?


 ああ、確かに……絶対ヤバいな。


 そんなの国力にも影響するだろうし、なんなら世界の敵とか宗教戦争とか起こりそうなまである。


 それは言い訳としても、パンを分け与えない国に他国が何を思うのかは予想に易い。


 嫌な沈黙が落ちる。


 これならまだ最初の沈黙の方が良かったまであるなぁ……。


 再び落ちた手を拱くような沈黙に、またも闇の中からゴブリンが現れた。


 そういう法則でもあるのか?


 いい感じの空気クラッシャーぶりだが、今じゃない。


 今度のは……俺も知っている、というかこの世界に居るポピュラーなゴブリンだった。


 腰蓑に棍棒、涎が標準装備である。


「――――ハアッ!」


 再び処理しようとする俺を置いて、今度はしっかりと警戒していたシュトレーゼンがゴブリンへと踏み込んだ。


 気合いの声を上げているが、力みのない剣の振りからしてまだ実力半分といったところだろう。


 棍棒を握るゴブリンの手を一太刀で斬り落とし――返す刀でゴブリンの首をハネた。


 鮮やかな手並みである。


 しかし俺達の注目はゴブリンの出現よりも、その後の出来事にあった。


 焼き付けのように消えたゴブリン……そして確実に無かった場所へと現れる銅貨。


 もう間違いない。


「…………一度報告に戻るべきだな。レライト、姫様以外には他言無用とせよ」


「勿論です」


 これ最悪俺が消されちゃうフラグじゃない? 大丈夫?


 真剣な頷きを返しながらも、シュトレーゼンの握る剣を気にしている俺であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る