第381話
「……」
「……」
沈黙がキツい……!
なんで異世界に来てまで『知り合いだけど仲良くない人と同じ帰り道』な状況になんなきゃいけないのかな? ええ、神様? 俺なんかした?
ちょっと用があるからって逃げるわけにもいかないし……かといって適当な話題を振れるような立場でもない。
ではどうするのか?
こうするのだ。
「……」
ただただ仕事に徹する。
仕事だってのにむしろこっちのこと嫌いまであるんじゃないか? って態度を取る人も中にはいるけどね、そこはそれ。
どれだけスルーという名の我慢耐性を磨いてきたと思ってんだよ?
学生時代の女子からの「なんかあいつ暗くない? お風呂とか入ってなさそう」から社会人時代の同僚女子からの「シャツにアイロン掛かってないよねー? お風呂入ってないんじゃない?」まで、ありとあらゆる『風呂に入ってない』という煽りに耐えてきたのだ。
それに比べれば同性との無言空間が何物であろうか?
「おい、お前。確か……レライト、だったか?」
喋り掛けてきちゃったよ。
もう無言の方が良かったまである。
お風呂なら毎日入ってますとか言っとく? ああ、考えれば行軍が始まってからは入ってねえや。
足を止めて闇に向けていた目を金髪イケメンへと振り返り答える。
「なんでしょう? シュトレーゼン様」
灯りの魔道具は金髪が腕に嵌めているので、その数歩先を行く俺は只々暗闇に向かって歩いていたといった状況だ。
まあ分かるけどね。
足元ぐらいまでは明かりが届くし、強化魔法も併用で二倍発動中なので少し先までぐらいなら問題ない。
問題は騎士様だけ。
「いや……随分と無警戒に進むのでな。…………見えているのか?」
恐らくはこの暗闇のことだろう。
『じゃあ灯り寄越せよ』とは言うまいね。
思うだけで。
「これも姫様より借り受けた魔道具の恩恵かと……」
いやー、姫様って言い訳便利だなぁ。
これからも積極的に使わせて貰おう。
本人の許可無く勝手なことを考えていると、訝しげな顔をしていた騎士の表情が変化する。
ちょっと悔しそうなものに。
「……姫殿下はお前のことを信頼しているように見えた」
「そんなことはありません。あるとしてもそれは姫様がお預けになった魔道具のためでしょう」
間髪入れずにフォローしておく。
厄介なことになったら面倒だからね。
既にだいぶ深いところに来ているけども……。
「だとしてもだ。そのような魔道具を預けるに足ると姫殿下ご自身が判断なさっている。……それに、それはお前の献身を持って証明された。姫殿下の存命がもはや証明のようなもの……」
ちょっと何言ってるか分かんないです。
「…………一時的なものでは?」
「……それは姫殿下への忠誠に揺らぎがあると言っているのか?」
ムッとした表情になるシュトレーゼン様に、冗談でも頷くわけにはいかないようだ……。
むしろ忠誠が元から無いまである……なんて言ったら魔法でも撃ち込まれそうなレベル。
ここは誤魔化すが得策……!
「いえ、姫様への忠誠の話ではなく……姫様が私を信頼している、という話が一時的なのではと……。他に寄る辺も無い遺跡の最奥でしたので、そう見えているだけのような……」
「今もか? 王族守護兵たる我々が既に合流した後だというのにか?」
「いや、それは……失点がありましたので……」
「くっ……!」
地上でのアレコレを考えれば、むしろよくやっていた方ではあるだろう。
しかし実績如何なら結局のところ大峡谷に突き落とされているから難しい。
まあ俺には分からんし、関係のないところではある。
――――それにしてもだ。
こいつ良い奴だなぁ……自分の非を突かれているというのに反論もしない。
身分差から考えれば、非常時を差っ引いても暴言の一つや二つは覚悟していたのだが……。
悔しそうに歯噛みするだけというのだから。
話が変な方向に行きそうだったから、発散させる意味でも一度怒らせようかとしたのに見事にスルーされた。
なのでブーメラン。
「……その通り、我々の失態は確かだ。それは認めねばならない。しかし、その辺りの事情を加味してもやはりおかしい。これでも我々は長い間、姫殿下の守護を仰せつかっている。故に分かることもある。姫殿下の表情や態度の端々に滲ませる『安心』は、既に無事を確信しているような程度だった。……その原因はお前にあるのではないか?」
「いえ魔道具です」
……嫌なところ突いてくるな、こいつ。
そのイケメンとプラスで嫌いまであるわ。
「……」
再び戻ってきた沈黙は、しかし先程までとは違って疑念が混じっている。
すっかり足を止めてしまっているので……動かせるタイミングが難しい……。
これは……先に動いたら負ける。
「……その魔道具というのを見せてみろ」
先に動かなくても負けるのかよ。
「たとえシュトレーゼン様でも、魔道具を見せるわけには参りません。姫様のご命令ですので。許可はどうぞ、姫様にお願いします」
恐らくはこれが付いてきた理由だろう。
難しい表情で黙り込むシュトレーゼンからして、それが恐らくは『成らない』と理解している。
もしくは許可を取ること自体が難しいのかもしれない……リーゼンロッテの騎士団よりも尚の事イエスマンっぽかったから、その命令は絶対に思えた。
だから『姫様の命令だから』という必殺技を使用。
見事封殺。
…………もういいかな?
ダンマリを決め込んでしまったシュトレーゼンに、そろそろ歩き出していいものかと考え込んでいると――――
向こうの方からやって来た。
暗闇を越えて、何かがヌッと顔を出した。
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