第341話 *アン視点
グルグルグルグルしてる……変な階段。
タタタタ、と足音も軽やかに階段を下る。
普通の階段と違って、目が回りそうな程にずっと曲がった道が続き、大した段差じゃないのに一段一段が広いという……間違えば足が取られそうな作りである。
…………しかも長いし。
結構降りてきたというのは、続く救助隊のメンバーも思っていることだろう。
だいぶ近付いてきたレンの気配も、その大きさのおかしさに気付くぐらいには強まってきた。
う〜ん……レン、だよね?
それは間違いない。
でもこの大きさは…………ええ?
僅かな困惑の表情を見咎められたのか、直ぐ後ろに付いているボーマン様が声を掛けてくる。
「どうした?」
「あ、いえ……長い階段だなって……」
「……確かにな。一フロア一フロアが巨大だ。通路の大きさや天井の高さもそうだが、巨人族が建てたと言われても納得が出来る規模だ。しかし、各部屋の入口や、この階段などは人族に合わせて作られているのは間違いあるまい。…………なんだ?」
「あ、いえ! 凄い納得出来る説明だったので?!」
珍しい口数の多さにびっくりしたとか言えないよね……?
「ふん。なんでもない考察だ。気にせず進め。この遺跡の解明は我々の責ではない」
少し前なら「余計なことを考えるな」と怒られそうなところを、「気にするな」と言うボーマン様。
やっぱりボーマン様も……というか口数が少なくなった救助隊の全員が、一様に『おかしさ』を感じているのは間違いない。
勿論、それはレンのことじゃなく……。
戦闘することなく進める地下遺跡――――そんなものが……本当にあるのか、ということ。
どこだろうと人のいない所には魔物がいるのが常識なのに……。
しかもここは人の手が及ばないと言われる大峡谷の隣りにある遺跡だ。
その危険度は全員が承知していた。
なのに、ただただ走るばかりで神経を磨り減らしている。
まだまだ続きそうな遺跡の中で、既に軽々しく帰れる距離じゃなくなってきたのに、である。
そしてこの……奥へ奥へと進む階段。
誘いこまれているようにずっと続いている。
まるで帰れない……ううん。
帰さないと言われているようで――――
『環境改変装置起動』
突然、知らない言葉が階段内に響いた。
「『警戒』!」
事前に決めていた合図を叫ぶリーゼンロッテ様に、全員が役割に沿った方向の索敵を果たす。
一分の隙も無く、聖剣を抜いたリーゼンロッテ様が確認するように全周を見渡した。
あたしもリーゼンロッテ様とあたしを覗く全員が詠唱する声を背に、前方の虚空を見つめる。
――――来た! 聞いてる! これが――――!
唱え終わった魔法を待機させる騎士様達が視線を交わし合いながら緊張感を滾らせる。
唯一遺跡の中で接敵したという隊の報告に『敵は何も無い場所から突然現れた』とあった。
その予兆として、聞いたことのない言語が空から降ってくる――という話を全員が聞いている。
突然、何も無い所から。
本当だとしたら、とんでもない驚異だ。
ジリジリと嫌な汗が体を伝う中、全員が緊張しながらもリーゼンロッテ様の指示を待つ。
……………………来ない、よね? ……ここじゃない?
リーゼンロッテ様が口を開く。
「魔法はそのまま待機でお願いします。アンと私が周囲を探ります。アン?」
「はい! 周囲に……人の気配は感じません」
でも『人の形をしているが人ではない』って話だったから……。
頷くリーゼンロッテ様が前に出てくる。
歩調を合わせて、死角となっている曲がった階段の先をリーゼンロッテ様と慎重に進む。
残してきた騎士様の姿が見えなくなるギリギリで折り返し、今度は降りてきた階段を上がる。
上下共に誰も……いや何もなかった。
リーゼンロッテ様から投げ掛けられる視線に頷く。
「警戒を解いて構いません。少し様子を見ます」
「姫様の気配はどうだ? 動いているか?」
早々にボーマン様が口を開いた。
……レンの気配だって言ってるのに、ボーマン様は『姫様の気配』って言うんだよね……。
うぅ……レンが姫様と一緒に居ますように。
先程の小休止でレンの気配が一箇所に留まっていることを報告したからなのか……ボーマン様は細かく動きを訊いてくる。
なんとなく近付いてくるのが分かった当初とは違って、ここまでの大きさとなると大雑把な動きは分かるようになっていた。
「この真下じゃないですけど……だいぶ近付いてる、と思います。なんか…………結構大きく動いてる? 感じです」
……近付いて来てる……? ううん、ちょっと逸れてる感じもするけど……。
階層が違うから道も違うんだろうけど、大きく外側をなぞっているように動いている。
動きがあるという報告にボーマン様が頷きを返す。
「そうか。向こうも脱出に向けて動いているようだな……。ならば尚の事、急ぐ必要がある。賊に先を越されるような事態だけは避けねば……! ――リーゼンロッテ様!」
挑むようにリーゼンロッテ様を見るボーマン様。
少しばかり考えるような沈黙を挟んで、リーゼンロッテ様が頷く。
「いいでしょう。もう少しペースを上げることにします。アンは随時報告を」
「わ、わかりました!」
「行きましょう」
コクコクと頷きながら、少しばかり階段を降りるペースを上げた。
リーゼンロッテ様は、というか他の救助隊のメンバーもだけど……たぶん賊の方が罠に掛かったと考えているんだろう。
こちらに現れることのなかった『敵』が向こうを襲っている――
それは有り得そうである。
だから今のうちに――――
この好機に乗じようとするこの意見に、あたしを含め、反対意見は上がらなかった。
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