第334話
「階段ですね」
「階段じゃの」
横道の一つを洞窟の中心に向かって歩いたところ、頭に思い描いていた地図の丁度中心部に何処ぞで見たことのある螺旋階段を発見した。
この階段が罠じゃないとしたら、俺達が上がってきた螺旋階段も正解に思える。
しかし実際には長々と歩いて行き止まりに突き当たるというのだから…………ここを作った奴ってのは絶対に性格が悪い。
しかも苛立ちに壁でも叩けば落ちるオマケ付きである。
「なるほどな……そういう罠だったか」
「何を言っとるか分からんが恐らくは違うぞ?」
なんで分からんって言ってるのに違うって思えるんですか?! そんなのズルいよ?!
まあ、階段あって良かったよね……最悪は姫様を背に絶壁クライムするっていう選択肢もあったから。
どっか適当に穴を空けてそこから上を目指すのがいいのでは? なんて考えも他の扉を見つけた時に浮かんだのだ。
……崩落しないという自信が無いからやらないけど。
「じゃ、行きますか」
「うむ……いや、よいのか?」
何が?
続きを待ちつつも構うことなく階段を登っていく。
姫様からは沈黙しか返って来ない。
いや何がよ? 気になる話の切り方だなぁ。
螺旋階段に違いがあるとすれば、こちらの階段は途中まで剥き出しということだろうか。
洞窟の天井を越えてずっと続いていることから、壁に突き刺したドリルのようでもある。
「途中で欠落するとか考えてます?」
段の一つが滑落する罠というのはありがちだ、何度となく警戒を促している姫様ならあり得る発想だろう。
「そうではなく……妾をおぶさったまま登っても平気かと問うておる」
「姫様クソ軽いですよ。ちゃんと飯食ってます? 知り合いに幾ら食べても小さくて悩んでいる奴がいるんですけど……ああ、胸の話じゃなくてですね? ここだけの話、そいつよりも全然軽いですよ。ちょっと信じられないぐらい。……死ぬ気ですか?」
「お主が
マジかよ女子、あれで「食が細くない」とかよく言えるね? うちのマッシに言わせれば食事後に「いま……
『そんな食事で大丈夫か?』
そんなフラグを建てて生きたい。
いやね? 俺にもあると思うんだ、異世界飯テロの可能性が……まだ。
それを
なんなの異世界? 食材だけで星が獲得出来るまである。
とても危険な遺跡の中とは思えない食事の話題を交わしながら階段を上がった。
「――で、ですね? 今にも折れんばかりの枝に乗って、木に生ってる果実を取ろうとするわけですよ。それが代々受け継がれる我が村の腹ペコ病です」
「そんな女は居らん」
そんな感じで。
会話を続けていたせいか長々と続く階段も気にはならなかった。
それでも大分登ってきたなと感じる頃に――終点が見えた。
「扉……ですかね?」
「明らかにこれまでの物とは違っておる。恐らくじゃが……この地下への道は隠されておるのではないか?」
これまでの扉とは違って、床下収納に使われるようなハッチが天井に付いている。
……引っ張ると降りてくる隠し階段みたいなフォルムだな。
ご丁寧に取っ手が付いていたので引っ張ると……ここだけ何故か開いたハッチから縄梯子が降りてきた。
試しに階段状の縄の一部を両手で引っ張ったら……簡単に千切れた…………決して魔法のせいではない。
「……なんでここだけ縄梯子?」
「こればかりは妾も同意しよう」
既に両手を離しているというのに俺の首にしがみつく姫様が肩口から千切れた縄を見て頷いた。
ハッチの向こうを覗くついでにグイグイと縄梯子を引っ張ると、何処かで千切れた手応えの梯子が落ちてきた。
ハッチの広さは……そこそこ広く、これなら姫様を抱えながらでも登れそうである。
ついでとばかりに浮かべていた光球を先行させると、穴の先はそれ程遠くなかった。
終点の終点にも同じようなハッチがある。
とりあえず手を使う必要がありそうなので姫様を降ろし――今度は片腕抱きの体勢で抱え上げた。
「お主……」
「いや背中に引っ付かれてるだけだと万が一があるじゃないですか?」
流石にターニャと比べても非力っぽいし……途中で力尽きて転落されても困る。
「そうではないが……いやもう何も言うまい」
そうそう、ちょっと我慢するだけ……ちょっと我慢するだけですから。
大人しく俺のローブを握り締めて落ちないようにしている姫様を確認してから、ハッチの奥へと進む。
大したことない縦穴だ。
壁は剥き出しの土面で掴む所も多く、これなら片手でも足を掛けながら進める。
早々に登り終えた数十メートル。
階段で稼いだ距離といい、結構な高さを登って来てると思うんだけど……。
流石に上層まではまだまだかもしれんが、近いところまでは来てるんじゃない?
ここを開ければその答えも分かるだろう。
穴の先にあったハッチを前にすると、姫様が告げた。
「妾が押してみよう」
こっちのハッチには取っ手が付いておらず……どうも『裏側』なのか押して開けるしかなさそうである。
それを読み取った姫様からの提案…………だったのだが、ハッチは姫様の繊手を添えられたところでビクともしなかった。
きっと女の子なんだよ。
「…………なんじゃこれは? 本当に開くのか? 壁と変わらんように感じるのじゃが?」
「まあ、なんか古そうですし……色々ガタついているのでは?」
なんて言葉で姫様の非力をフォローしつつ……。
はいはい、本命の登場ですよ。
「代わりましょうか? ……古来より、力仕事は男の仕事と決まっております
「お主……今は手が使えんではないか」
「そこは姫様の協力が必要です。こう……暫くの間、俺にギュッと抱き着いてて貰えませんか?」
「……」
「いや変な意味ではなく」
人を殺せる視線だね?
「片腕を空ける必要があるじゃないですか?」
分かって貰えますよね?
「…………仕方ないの」
そうそう……仕方ない、これは仕方ないことなんだ!
流石に正面から抱き着くのは勇気がいったのか、渋々と背中に手を回す姫様。
「もっとギュッと! 強く! 全力で密着してください!」
「必ず償わせると誓おう。必ずじゃ」
「嘘です! 調子乗りました! さーせん!」
ぶっちゃけ体重は姫様が踏んでいる俺の膝に掛かっているので抱き着かせているのは保険です!
いや言えねー。
まあバランス崩されても困るしね。
「動きます」
「うむ」
姫様に一声掛けてから空いた右手でハッチを押した。
…………ええ? これマジか?
姫様が非力なのは勿論なのだが……それを抜きにしたとしても――――ハッチは重かった。
ぶっちゃけ両強化の三倍を掛けてなかったら持ち上げられなかっただろう。
気合いを入れて慎重に力を掛けていく。
しっかりとした手応えと……向こうで響くバキバキ音を耳にしながら、分厚い金属製のハッチが持ち上がっていく――
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