第315話
少しばかり通り易いように森を拓いて確保した道を、ぞろぞろと馬に乗った騎士がやって来る。
それでも結構な悪路なのに物ともしないのは、普段からそういう訓練を積んでいる証拠なのだろう。
こっちの隊長格も結構な強さを持っていたが……流石に『騎士団』を名乗るだけあって一人一人が強そうである。
ゴリ押しのダンジョン攻略を成し遂げた、なんて言われていたけど……今ならそれにも納得出来そう。
戦争で見た騎士団よりも、よっぽど強壮だなぁ……。
やはりその領の特色とか出るんだろうか?
ダンジョン都市なんて抱えているだけに、冒険者を圧倒出来るだけの抑止力が必要だろうし。
この騎士団を迎えるために全軍を招集したと言われれば……それもそうなんだろうけど。
…………なんかいるなぁ?
お揃いの装備に包まれた強面の騎士が二列縦隊でカッポカッポと進む中……真ん中辺りに違う装備の騎士が数人。
問題はその騎士の装備――ではなく。
その騎士に護られるように進む白馬の方だろう。
毛並みも良く、健康で強そうな白馬を駆る…………白銀の髪を束ね上げた、ドレス姿の女の子。
不敵な笑みと、ふてぶてしい態度。
意志の強そうな紫の瞳が恒星のような光を放ち、森という人外魔境にあって堂々と自らの存在を主張している。
……………………あれ、ここに居たらダメな人じゃね?
第四姫殿下、そう呼ばれている人物に思える。
気になるのは夜襲をしてきたメッセンジャー共。
チラリと視線を向ければ――動揺は無く、そればかりか早々に礼を示している。
……あれ? 本当に勅使とかだったのかな? あれれ? そうなると黒いローブの人がやったことって……。
…………まあ、黒ローブって悪い奴の代名詞みたいなものだし。
悪いな、黒ローブ。
勅使を襲うなんて酷い奴だな、黒ローブ。
善人な農民には関係ないけどね?! 黒ローブ!
最近はフードを被った時に見える身長差が無くなったので、ローブの変装効果が半減している。
いや、善人な農民に変装とか必要ないんだけどね? ただ今後はローブに頼ることなく生きていこうと決意しただけで……。
こちらがドギマギしているのなんて関係なく、粛々と本拠地に入ってきた騎士団。
隊長が相応の礼を示し敬礼をするのに、相手も馬を降りて敬礼を返す。
次々と入ってくる騎士団に、本隊の人達も慌ただしく動き始める。
…………なんか物々しいな?
それも仕方ないと思える人物がいるから、しょうがいないんだろうけど。
念の為にと魔力を練り上げて強化魔法を発動させた。
それだけの緊迫感がある――
なにより…………。
俺の不安を後押しするかのような会話が、強化された耳に聞こえてきた。
騎士団の代表と大隊長だ。
「出迎えご苦労。急遽変更を余儀なくしてスマンな」
「いえ。しかし危険では?」
「ふん。流石は一人で犯罪組織を取り潰したとだけあって行動的よ。内憂を払うためと足を運ばれた」
「……ありがたくはあるのですが、胃が痛いです」
「私もだ」
「もし万が一、億が一、殿下に何かあれば……」
「言うな。分かるであろう? ……その時は全滅よ。あの方の命が全軍よりも重いのは、今更だろう」
あ、これなんかある、ヤバい。
カチリ、と強化魔法のギアを上げる。
何より心臓の音が増して聞こえてくる中で、白馬を降りた殿下とやらが、手綱を近寄った兵士に渡し、整列する全隊の前――――第二王子殿下の遣いの近くへと足を進めた。
勿論、護衛なのか別装備の騎士が四人、周りを固めている。
遣いに向けられる護衛の騎士の視線は厳しい。
明らかに警戒している。
ピリピリとした空気の中で、一人平然としている――堂々としている姫殿下が、全隊を見て告げる。
「皆、苦労を掛ける」
全くだよ。
……と、思っているのは俺だけなのか……。
猛り上がった歓声に鼓膜が破れそうな程に震えた。
鼻息を荒くする者、生気を吹き込まれたかの如く瞳を輝かせる者、体を前のめりにする者と、一目にも隊にやる気が満ちたように思える。
これがカリスマってやつかな?
持ってる人は持ってるもんだ……。
引っ張られないのは俺みたいな意識低い系の奴と…………目的意識がハッキリとしている奴ぐらいだろう。
騎士団と王子の遣いと護衛……なんかはピクリともしてない。
嫌な予感が栄養を与えられて『そろそろか? そろそろなのか?』と膨らんでいく。
……バカバカバカバカ、そんななんでもかんでも事件になると思うなよ?
見てろ、特に問題なく…………問題なく、取り押さえられる筈だ! うん!
俺がじっとりと汗を掻く中で、労いの言葉に対する反応に頷いていた姫殿下が……今度は控えていた王子殿下の遣いに目をやる。
「さて……。何やら
「ハッ! それでは……お傍によろしいでしょうか?」
「なに?
「実は文を持っておりません。漏洩を防ぐ処置として、内容はここに……」
そう言って胸を叩く王子殿下の遣い。
これはあからさまな……!
しかし尚不敵な表情を崩すことのない姫殿下は、より笑みを深くすると――言った。
「そうか。では傍に」
「殿下!」
これには流石の近衛も口遣りを入れた。
おっまえ?! マジでやめとけよ!!
色々とハラハラドキドキする中で、笑みを抑えた姫殿下が溜め息を吐き出すと共に続ける。
「わかっておるわ。戯れじゃ、戯れ。全く……。兄上の遣いとやら、その場で構わぬ。申してみよ」
「……出来れば余人を交えぬところが宜しいのですが……」
「聞けんな。文がお主自身というのは認めよう。送る側の権利にある。しかし聞く姿勢は受け取る側の権利であろう? 妾が構わぬと申している以上は構わぬ。その場で告げよ」
「……私信であるとしても?」
「くどい。断わったとしても罰せられる立場に、妾は居らぬ。出来ぬと言うなら――去ると良い。ここは妾が請け負うておる。主らが彷徨く場ではない」
…………これは、慈悲なのかな?
大人しく帰るなら罪には問わないと言っているような……。
捕らえた後も軟禁状態であったことを考えると、色々と事情がありそうではある。
しかし――――
「それでは……失礼をして」
王子殿下の遣いとやらは、その四人が四人とも……微動だにしなかった。
まるで予定調和であるかのように。
「……ほう? 引かぬか。……兄上には切られるだけぞ?」
「何の話か、私には分かりません」
「ふむ…………では、告げよ」
「はい」
控えていた一人――――恐らくは隊長なのだろう一人が顔を上げて、姫殿下を真っ直ぐに見て……言った。
「殿下よりは一言――――『死んでくれ』」
遣いと近衛が瞬く間に動いた。
しっかりと取り上げた筈の火晶石を、再びこれ見よがしに振り上げる遣いを、近衛が迅速に取り押さえていく。
万が一を考えられた姫殿下が後ろへと下げられ――
――――背後から剣が伸びてきた。
――ああ?! くそったれ!!
だから抑えた。
掴んだ剣に血が滴る――それでも尚、押し込まんとする力に抗うべく万力のように力を込めた。
衝突したエネルギーが空気を揺るがせ、互いに競り合う力が大地に罅を走らせる。
至近距離で見つめ合う人物を――俺は知っている。
「これは……驚き――――――――であります……」
「…………ネルさん」
ちょっと……一旦力抜かない?
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