第306話


「なるほど。守護者ガーディアンだと思ったか……」


「はい。すみません、出しゃばりました」


「いや、構わん。お前の素早い対応で被害は軽微だ。戦果もあった」


 突撃敢行の言い訳である。


 テッドが子供の頃に話していた御伽話を参考に、宝物を掠め取ると出現する魔物かと思ったと説明した。


 これは俺が思っているよりもメジャーな話らしく、周りで聞いていた他の兵士も納得したように頷いている。


 中隊長の理解も得たようで……何が為になるか分からない世の中だなぁ。


 子供の頃のテッドの言い分だと「な? そこでグワーッ! ってなって、ぎゃーー! ってなるんだよ!」だったけど。


 俺風の注釈を付けただけで嘘じゃない。


 しかしそういうのを守護者って言うんだね、初めて知ったよ。


 本当にいることも含めて。


 ギリースーツの怪物ヴァイン・クリーチャーといい、今回の守護者といい、意外といるもんだなぁ……。


「いや、ほんと、助かった。ありがとうな」


「い、いえ……俺もぶっ飛ばされたんで、助けになったかどうかは……」


 気絶から目覚めた盾を拾ってしまった兵士が頭を下げてくる。


 現場検証ではないが、諸々の関係者と共に中隊長が理解に努めている最中だ。


 話の途中だというのに俺に謝ってくる兵士へ、中隊長が目を向ける。


「それで、お前はなんとなく盾を拾ってしまった、と?」


「す、すみません! そんなに危ない物だとは思いもせず……!」


 まあね、一見しただけだと頑丈そうでデカい盾だもんね。


 不安を紛らわせるためというのにあったのかもしれない。


 そこで中隊長は、この場にいるもう一人にも話を振った。


「盾が出現したのは、お前が壁を押してからで間違いないんだな?」


「はい! 入り口横の壁に肩が当たり、僅かに押し込む感覚の後、騒ぎになりましたので間違いないかと。トラップ発動元スイッチだと思われます。申し訳ありません!」


「いや、両者共構わん。遺跡内部での未知は想定に入っている。しかし次からは気をつけろ。一人の軽挙妄動が隊を全滅させることもあるのだ」


「「はっ! 申し訳ありませんでした!」」


 両者が敬礼で返すのに遅れて真似をする。


 ……俺も謝るところだったかな? …………分からん。


 下手な敬礼を含む、反省している兵士に中隊長が鷹揚な頷きを返すと……今度は一転して困った表情を浮かべた。


「しかし……これを持ち帰っていいものかどうか……」


 中隊長の視線の先にあるのは、黒鎧が執拗に攻撃してきた大盾だ。


 あれだけの衝撃に耐えるばかりか、僅かな傷も凹みも無いとあってはレア物であることに間違いないだろう。


 これがダンジョンでの一攫千金なら大成功と言えるのだが……。


 またあの黒鎧が出現することを恐れての躊躇である。


 何故出現したのかも、何故盾を持つ者しか攻撃してこなかったのかも、何故消えてしまったのかも、一つとして理由が分かっていないのだから無理もない。


 理由として考えられるのは『トレーニングモード』という言葉。


 俺だけに意味は通るのだが……それで理解出来るのかどうかと言えば、また別問題だ。


 ……訓練ってレベルじゃなかったように思えるんだけど?


 もしあれが昔に行われていた訓練だとしたら頭おかしい。


 普通に死んでしまう。


 それとも何かな? 昔の人の訓練っていうのは、ダンジョンの英雄バーゼルさんレベルの戦いを言うのかな? ハハハ、頭おかしい。


 念の為、普段から盾を使う兵士に再度大盾を握らせてみたものの……黒鎧が再出現することはなかったのだが……。


 オマケ付きの盾トラブルの元を持って帰ったものかどうかというのは……悩ましい話である。


 管理職って大変やね。


 大盾を前に唸る中隊長に、恐らくは小隊を纏める小隊長が告げる。


「隊長。あちらの方はどうされますか?」


「それよ。あちらも……恐らくは同じような事になろうな。さて……どうしたものか」


 他人事だと話を右から左に聞き流していると、何やら唸っていた中隊長と目があった。


「……そういえば、お前。何やら随分と慣れた動きであったが……元は荒事専門冒険者か?」


 酷く嫌な予感。


「いえ、自分は純粋に農家の出です。ただ必死だったので……」


「ふむ。輜重隊か……」


 そうそう! 輜重隊なんすよ自分! 残念!


「半数を率いる予定だったな?」


「はい。予定では十人から十五人となっていますね」


 ほんと……残念が過ぎる。


 下っ端には知らされてなかった予定だが……考えれば荷物持ちっているよね。


 そのまま随行するのはむしろ当然なのかもしれない。


 就業時間があるわけでもないんだし。


「よし。腹は決まった。隊形! 二列横隊! 『剣』を挟む形で距離を取れ! 邪魔が入るかもしれん! 一個小隊は入り口を固めろ! それとお前!」


 ビリビリと響く中隊長の気合いの入った声が俺に向けられた。


「はい!」


「名は?」


「レライトと申します!」


「よし! ではレライト! 合図と共に『剣』を握れ! 魔法持ちがいたな? 今度は魔法も撃ち込む! 距離十歩! 配置に付けえ!」


 ……アイ、マム。


「装備を持ってこい! レライト、その装備じゃ軽装が過ぎる。鎧と盾を付けろ。剣は最悪離して構わんが、それで奴の注意が逸れるかは分からんから気を抜くなよ」


「了解しました」


 恐らくは予備で運んでいた鎧と盾が、兵士によって持って来られる。


 …………鎧と剣と盾という……初めて異世界っぽい装備を身に着けるのに、なんでだろう?


 全然嬉しくないんだけど……。


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