第299話


 一先ずは混乱を生まないようにと箝口令を敷かれた。


 内通者がいたとして具体的な人数や主な目的が分かっていないからだろう。


 それこそ混乱ありきの騒ぎを目的としているのなら相手の思うツボになるわけだし。


 優秀な指揮官がいたお陰で、こちらも肩の荷が軽くなった思いだ。


 本拠地を広げること二日。


 やはり人海戦術は有用で、そこに魔法も加わるとなれば森を切り拓くなんぞなんのその。


 そこそこのスペースを確保出来たので、本命となる遺跡探索が始まることになった。


 ありえないとは思うが、これでいざ背後から急襲されたとしても崖に追い込まれるようなことは無くなっただろう。


 ……本当に良かった……崖際の布陣ってなんか怖かったから、広さって偉大なんだと再認識出来たよ。


 内通者は未だ見つかっていない。


 というのも、あれ以来、内通者が動きを見せることが無かったからなのだが……。


 恐らくは炙り出しのようなものを行っていたと思われる歩哨のローテーション関連。


 突発的変更などがあったのは、見張りに加わることもあったので知っている。


 こちらの警戒度が上がったことを敏感に察して動きを自粛しているのか……もしくは箝口令を敷いた兵士の中に内通者がいるとのか……。


 疑心暗鬼を狙ったものだとしたら大したものだ。


 どちらにせよ優秀なのは間違いない。


 それだけに危険を孕んでの遺跡探索となってしまうのだが……。


 『敵の間者が紛れ込んでいる、危ないからやめよう』で仕事が中止になるわけがなく。


 命令って偉い人から出てるからね……そんでこれ会社じゃなくて軍隊なんだよねぇ……。


 安穏な日本でだって、死亡事故が起きたとしても利益が出るならと、その機械を二度と使用不能にしたりはしないのだから。


 王制貴族主義が強いこの世界では何を況んやである。


 ある程度の調査は我が領の軍俺達がやることになっている。


 厄介というか困難な問題に直面した時は、それこそ騎士団の出番というわけだ。


 その騎士団花形もそろそろ着くとあって、ボチボチ遺跡探索に本腰を入れる頃合いなのだ。


 大まかな班分けは四つ。


 まず遺跡の中を探索する班、これが二個中隊。


 そして本拠地を守る班、歩哨を含む外からの魔物対策班がそれぞれ一個中隊となっている。


 残るは輜重隊になるのだが……。


 探索となると奥地へと進む班に食料を届けるために、輜重隊のメンバーも潜る必要が出てくる。


 人数の方は問題ない。


 元々先行して現場の警護をしていた兵士が五十人程いたので、中隊規模には届かずとも輜重隊を分けるぐらいには増えている。


 ……本拠地護衛班と外敵班の数が多く思えるのは、流石に最近の騒ぎを無視出来ないからだろう。


 上層部には悪いけど、俺にとったらラッキーだ。


 なんせ残る班に振り分けられる可能性が高くなるのだから。


 手柄……と呼ぶには大きくないけど、歩哨のローテーションが弄られている発見を促した第一人者ではあるのだし。


 あとは真面目に仕事を熟していれば、欠損回復が可能なポーションまでの足掛かりぐらいにはなるだろう。


 ……もうキナ臭さがヤバいから、今回は予約だけで切り上げようと思っている。


 俺の勘が囁いているんだ『……無理じゃね?』って違う違う、深入りはするなってね?! 不安さんは顔を出さないでくれますぅ?!


 …………しかし人事ばかりはなぁ、何せ『天命』と絡んじゃうぐらいの言葉だから……彼女が出来たと喜んでいた後輩の別れる原因になったのは古くも記憶に残っている。


 『世界は……なんて素晴らしいんだ』から『皆死ね』になった時の彼の表情ったらなかったね……。


 しかも探索を前にして、各々の能力で隊を作り直すなんて言われちゃあ、不安さんがひょっこり顔を出しても仕方ない。


 どうか……! どうか遺跡探索だけは……! 神様仏様人事様!!


「お前はの輜重隊だ」


 おいクソ人事。


 整列して一人一人に人事を言い渡されているところである。


 なんか全校集会とか思い出すよね……。


 違いは前に立つ誰かがいるわけじゃなく、列に沿って正規兵の方が歩いているとこかな……。


「えー……お前も中の輜重隊だ」


「はい!」


 呆けている間に一人後ろへと動いた『天命さん』が、マッシへと人事を告げている。


 ……俺の一人前ひとりまえも『中の輜重隊』だったので、ズレによる間違いは無さそうである。


 ちなみに一人前は喜びにガッツポーズをしているテッドだ。


 良……くねえよクソったれ。


「あ、あの!」


「うん? どうした?」


「り、理由とか……聞けたりします?」


 意外と感じのいい正規兵だったので往生際も悪くゴネてみた。


「ああ、いいぞ。え〜……火の魔法が使える……は、前の奴か。あー……お前とこいつは、かなり腕力があるらしいな? そういう報告が来ている。遺跡内部では荷車を使えん。なんせ荷車を降ろすわけにもいかんからなぁ。運搬作業は腕力勝負全部人力になるからして、お前達の力が認められたというところだ。良かったな? なんでも荷車を四台引いたと報告にあるぞ。……あとそっちの奴は、ケンカで最後まで残ったタフなんだろ? ハハハ、いいじゃないか? 期待してるよ」


「はい! ありがとうございます!」


「クソがよ……」


「ん? なんだ?」


 マッシの声に紛れて呟くのをやめられなかったのは、仕方のない不可抗力だと思うんだ。


 へへへ、そういえば神様なんて嫌いだったぜ神様ちくしょうめ。


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