第287話
外壁沿いを東に進むと、北側と同じような草原が広がっていた。
と言っても、街の北を進めば荒野、東には大峡谷となるせいか荒れ放題である。
伸び放題の雑草が踏み荒らされているのは、意外にも人の往来があるからだろうか?
他の村々は、どちらかと言えば南や西を中心に広がっていると聞くんだが……。
なにぶん、他の村になんて興味がなかったので詳しくは知らない。
草原には……驚いたことに人の海とも言える程の人数が集まっていた。
「す、すっげえ! 百人はいるんじゃねえか?!」
驚きに声を上げるのは、先頭を意気揚々と歩いていたテッドだ。
……いや千人はいるんじゃないか? 学生時代の全校集会レベルだもの。
きちんと秩序立って並ばせればまだ正確な人数が分かるんだろうけど、無秩序にバラけているのでパッと見の概算である。
恐らくは間違ってないと思われる。
ある程度の塊を作っては距離を取って
塊の一つ一つが同じ村からの集団なら……やはり一村で二〜三十人の出兵を言い渡されているのだろう。
一際大きな塊は、都市レベルからの出兵とかだと思う。
こういうの、戦記物の漫画とかで見たなぁ。
次に来るのは班作りとかなんでしょ? 何マンセルとか、もしくは五だか六だか作るんでしょ?
ちょっと楽しくなってきたのは、人相手の戦争とかじゃなく本当に出稼ぎ感覚が強いからだろう。
それだけに気になり始める出土される物のあれこれ。
隣りを歩く訳知り顔の纏め役のオジサンに訊いてみる。
「そういえば遺跡ってどこから出たんですか?」
「お前……一番最初に気になりそうなところだろ? 村長も話してたぞ。聞いてなかったのか?」
うん。
正直に頷く俺に、オジサンの表情が『ええ?』と歪む。
「……大峡谷だよ、大峡谷。なんでも断崖絶壁の壁に横穴が空いてたらしくてな? そこの奥から遺跡だと思われる扉が発見されんたんだとよ」
「……よくそんな横穴に気付きましたね」
大峡谷とは、ここから東にある底の見えない峡谷のことだ。
対岸すら遠く、北から南に爪痕を残すかのように延びる峡谷は、親切なことに隣国からの侵略を阻んでくれている。
降りることが出来ないかと行軍を試みられたことが何度もあるらしいのだが……。
その度に、暗闇に包まれる底に降りていった調査隊が帰ってくることはなかったという。
たぶん星の反対側にでも出ちゃったのだろう、そして永住を決めたに違いない、そんなブラックもブラックな国なんて捨てて。
南の方に行くと峡谷も終わるそうなのだが……そこはそれ。
きちんと砦を築いて隣国の侵入を阻んでいるそうだから、我が国の防衛は安泰である。
しかもめちゃくちゃ強いと言われる国防の要も置いているとあっては、攻め入る隙も無いだろう。
なんたら将軍だったかな? えーと……やべ、全然興味無いから覚えてねえや。
とにかく、この領の東側には大峡谷が長々と延びていて、不可侵とも言える人類未踏の地となっている。
降りたら帰って来れないかもしれない崖をわざわざ調べたりするだろうか?
縦にも横にも距離がある峡谷だ。
それこそ調べるだけで大偉業なのは間違いない。
よくそんな横穴を見つけられたね?
オジサンもそう思っているのか、どこか呆れたような笑みを浮かべて説明してくれる。
「なんでも何処ぞの犯罪者集団が盗品置き場に利用してたらしいぞ。大峡谷の崖をわざわざ降りる奴もいないだろう、ってな。隠すのに困った盗品を持って峡谷を降りたら丁度いい横穴を見つけたらしい。奥にあった扉は開かなかったから気にしなかったとかなんとか……賢いんだか馬鹿なんだか。その犯罪者集団も、国の手入れだかなんだかでお縄になって、盗品の回収に盗品置き場を洗っている最中に発見……ってのが事の経緯だそうだ」
アホなのかな?
「アホなんですかね」
「アホだ」
それでも遺跡を発見した運は凄いものだ。
もしくは何かを隠そうとする人の心理なんて、誰だろうと似通うものなのか……。
それ何万分の一? 世が世なら億万長者だよ! やったね!
偶然の一致で見つけられた遺跡……報告すればそれこそ金一封どころか色々と特典もありそうなものなのに、よりによって犯罪に利用とは……。
しかし遺跡自体の危険度はともかくとして、そこまでの行程に危険はなさそうな雰囲気である。
犯罪者集団が無事に行き来していたと言うのなら、最低でも扉の前までは安全に行けるということだ。
もっと盗賊とか魔物とかに警戒しながら、色々と危険な道中を過ごさなきゃいけないものかと……。
犯罪者集団のアホさ加減に引っ張られて比較的に楽な印象。
それだけに遺跡内部も、扉を開けたら狭い一部屋とかの可能性もありそうだ。
その場合も報酬はちゃんと貰えるのだろうか?
むしろ不安はそっちかもしれない。
話しながらもぞろぞろと歩いていくのは集団の端の方。
田舎者らしく目立つまいとする心理に従ってである。
適当なところで足を止める纏め役のオジサン。
「よーし、ここら辺で待っとくことにするか。予定の時間は昼前だから、もうそろそろだろう。なんとか間に合ったな」
「まだ時間あるんなら、街で飯食べたかったなあ……」
いの一番にボヤいたのはマッシだ。
「それは間に合わないパターンだな」
「あるある」
他のオジサンがマッシの背中を叩いては笑っている。
他の村々の塊も似たようなものなのか……とにかくざわめきが凄い。
大声でも出さない限り、近くにいる人間の声しか聞こえない。
「…………あれ? テッドは?」
だからというわけじゃないが、いつも騒がしい幼馴染の声が聞こえないことに気付いた。
「あ? ……そういえば、どこだ?」
不貞腐れていたマッシもテッドの不在に辺りを見渡す。
…………いないねぇ。
姿の見えない幼馴染に、一瞬で生える嫌な予感――――
「――――文句があるなら前に出てきてから言えよッ! 腰抜けはどっちだッ!」
少なくともアホはお前だ。
聞こえてきた馴染みのある声に、腹を殴って寝かしつけとけば良かったと後悔した。
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