第267話
両強化の三倍は反則級の能力がある。
時が止まったように感じれる集中力や、単体での発動では届かない程の絶大な強化。
これだけでも充分に奥の手と呼べるだろう。
それでも足りないという異常な事態に巻き込まれている最近の状況の方がおかしいのだ。
だってそうだろう?
そんなに生きるのが困難なわけがない。
それじゃあ長生きしている老人なんてどうなる? ドゥブル爺さんは置いとけ。
結論。
村人が最強。
間違いない、だって長生き出来るよ?
僅かな期間だというのに村の外には死にイベがゴロゴロしていた。
天外魔境だ。
そもそも異世界なんだから、魔物による生存競争が普通。
そんな選別に運良くも生き残れたのだ。
ならもう村でのんびり暮らしていくことになんの抵抗があろうか?
ああ、だから最後だ。
この魔法を放つのも……人助けなんて特A級に危ないことをするのも!
駆け出して飛び上がった。
三倍も充分チートだが、四倍には及ばない。
空を駆けるという馬鹿げた行いも、四倍だから出来ることだろう。
なのでタイミングを合わせて、大砲の玉のようにワイバーンの群れを目掛けて飛び上がった。
速度はこちらの方に分があるのか、ワイバーンの群れが何らかの反応を示すより前に、竜巻を解き放てた。
激減する魔力に相応しい風の渦が、空を我が物とする蜥蜴面を巻き込んで顕現する。
急激に速度を増した風に煽られてワイバーンが渦に呑み込まれていく。
渦の中では風の刃が巻き込まれた目標を慈悲も無く切り刻む。
しかし――
「か、固ぇ?!」
やはり竜種と呼ばれるだけはあるのか、ワイバーンの鱗は固く、削ぎ落とし皮膚を傷付けることは出来ているのだが……その威力は減衰されて見えた。
「グキャアアアアアアアアアアア!!」
ダメージがあるのは吹き出る血からも分かる――しかし叫び声には未だ怒りが多く混じっている。
まだまだ元気だな、畜生がよ?!
ワイバーンをこの場に留めるためには……。
――――このまま魔力の放出を続けて、竜巻を維持するしかないだろう。
結局のゴリ押しに移行する直前。
数の力とばかりに一匹のワイバーンが竜巻から抜けた。
「マ、マズッ?!」
慌てたのは一瞬。
しかし直ぐさま逃げ出すかに思われたはぐれワイバーンは、フラフラと下へと落下していった。
……飛べないのか?
よくよく見ると、ワイバーンの翼膜は鱗程の固さがないのかボロボロで、どうやら飛行能力を失う程度には傷付いているらしい。
ならば!
竜巻を発動を止めて、滞空していた体を地面に落とす。
同時に自由を得たワイバーン共が、ドカドカと岩場地帯に落ちてきた。
「飛べない竜は、ただの竜だぞ。知らないのか?」
それ凄い強そう。
一人逸れたワイバーンへと駆け寄り、その面をぶん殴った。
「ガッ、ゴギャ……」
イケる。
ぶん殴られたワイバーンの頭がピンボールのようにハネ、首が曲がらないであろう方向に曲がった。
一撃必殺でいけるようだ。
しかし残るトカゲ共も生存本能を刺激されたのか、共鳴するような咆哮を上げて威嚇せんと翼腕を広げた。
十匹……か。
端から殴るべく着地するや否やワイバーンの群れへ駆け寄る。
あとは作業だな。
……このお肉持って帰ったらターニャも許してくれないかなぁ?
なんて考えながら飛び上がり、二匹目のワイバーンの首を折る――――と同時に、周りのワイバーンが口を開いた。
――しまっ?!
殴られた仲間ごと、岩すら溶かすであろう灼熱の業火が放たれた。
逃げ場のない業火は『羽根を持たない人にはどうしようもあるまい?』とばかりに空間を彩った。
俺の驚愕の表情は、ワイバーンにはどう映ったのか。
捕食者の立場も高い爬虫類共は、それが当然とばかりに冷たい視線を寄越すばかりだった。
――――ナ・メ・ん――!
蜥蜴に一本取られたとあってはお土産どころではない。
ターニャの手土産は無しだ!
それはそれで怖いけど!
奥の手とは……最後の最後に使うことになるから奥の手なのだ。
取っといたまま使わなかったら、なんのために習得したの? ってなるだろ?
うん、ロープレで何度も経験したよ。
――――俺はアイテムは使わない派だったけどね?!
四倍の威力が発揮される。
重力の楔を越えて、理すら踏み潰す。
逃げ場は無いとばかりに空間を嘗める炎を拳の一振りで散らし、間抜け面を晒す蜥蜴共の顔に
三倍との違いは、原型が残らないことにある。
踊るように空を駆け、拳が、蹴りが、本来なら消費される筈だった空気を掻き回し、最強生物の頭を散らしていく。
派手派手しくも爆散する汚ねえ花火が、岩場地帯に連続して咲いた。
衝撃が血と脳漿と、僅かに残る眼球を岩場地帯に降らせる。
……反動もしっかりと体に。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ! いっ…………?!」
涙目を堪えて、しっかりと着地した。
ここでヘタるわけにはいかないから。
何故なら……。
「あ……あ……」
「――――?!」
自分達の命も危ないというのに、わざわざ駆け付けてきたお人好し共が見ているから。
カッコつけるのが男の本能なのだ。
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