第263話


 全然余裕だね!


 山をチマチマ回り込むなんて真似をしなくても!


 ちょっと頭頂部が雲を突き破ってるぐらいの標高なんて低い低い!


 前世のエベやチョモと比べれば、なんのことはないさ!


 知らんけど! ロッククライミング、どころか登山すらしたことなかったわけだからあ?!


 でも大丈夫!


 大幅にショートカット出来るから、時間は大丈夫!!


 遅れても大丈夫!!!



 ――――なので寄り道をすることにした。



 ……あ~あ、だ。


 妄想の中のジト目が俺を貫いている、やめて。


 俺ってもしかしてお人好しってやつなのかもしれない。


 近く、村人が入り込まない森の中で、黒いローブを着込んで伏せている。


 村を出て二日。


 既にサウナ風呂が恋しくなった。


 なんならセフシリアのリフレッシュ機能でもいいぐらいだ。


 分かったことが一つ。


 このローブ……丸一日着込んでいると、アイテムボックスの能力が使用可能になる。


 つまりそれだけ魔力を吸われ続けなきゃいけないらしく……しかも吸われる量の調整は自分じゃ出来ないという。


 壊れ仕様だよ! まさにね?!


 …………あ~あ。


 この二日、何百回と心の中で唱えていた呪文をまた一つ重ねていく。


 重ね掛けした強化魔法は、常に二倍を維持しつつ、村を出て行く村人を監視していた。


 奴らの話から、近々依頼を遂行するつもりなのは知っていたので、恐らくは一週間以内だろうとアタリを付けている。


 ターゲットを逃さないためにも一日に何度か、強化魔法の併用三倍を使ってその位置も確認していた。


 まだ村にいる……早く逝けよと思わないでもない。


 やさぐれてますよ? ええ。


 奴らの狙いは、上位とも言える魔物の討伐。


 別に盗賊の殲滅やダンジョンの踏破という斜め上の目的じゃなく……ぶっちゃけ冒険者としては普通の、でも無謀な挑戦って感じだ。


 そういう意味ではテッド達よりも、ちゃんと冒険者をしていると思う。


 その中でも幸運と実力を持った数名だけが生き残れる――それが正しい冒険者の道ってだけで。


 覚悟はあるんだろうさ…………両方が。


 無くたって時間は残酷で、厳しくも突き付けられる――――


 でもそれが普通なのだ。


 幼馴染でも無ければ……ケニアとチャノスでもなければ、俺だって手を伸ばそうなんて思わない……と、思っていた。


 でも何故か森に潜んでいる。


「……いやいや。これは違う。一宿一飯の恩ってだけだから。日本人の心が俺を離さないだけだから。なんなら命の洗濯をさせてくれたお礼だから。今回だけ、今回だけだからしてぇ?!」


 小生べつにお人好しでもなんでもないからしてぇ?!


 頭おかしなるでしかし! 早来いやあああ!! なんなら逝けやああああああ?!


 なんて考えながら今日の三倍時間に奴らの動きを感知。


 ちょ、待って、心の準備がまだなんすよ、もうちょい日を置かない? 待って待って?!


 しかし向こうが待つ訳もなく、自分達の栄光を思ってか、はたまた戦意を維持するためにか、意気揚々と村を出てくるチンピラ共。


 絶好の位置で監視をしていたので、バッチリと装備をキメたチンピラ三人組を補足した。


 必要だと思われる道具も持っているのか大荷物だ。


 あ~あ……好きだねぇ? 男ってやつは……。


 分からないでもないけど。


 奴らの目的も岩山の方だ。


 といっても西側なので、俺にとったら遠回りとも言える。


 ……まあ同じ岩山だからして、別に寄り道とも言えなくもないこともない……。


 距離を空けながらも、見失わないように奴らの後をつける。


 どうやら心変わりはないようだ。


 ――――チルルの方も。


 いやマジで……人の後をつけるのは、どうかと思うよ?


 ある程度本格的な算段を装備に見せつつも、チルルもチンピラ三人組の後を追うために村を出て来た。


 こっちの女性が強いのか、元々女性って強いのか……。


 今度は飲み込まずに吐き出した溜め息が、潜んでいる樹上の木の葉を揺らす。


 彼等の狙いは分からないのだろうけど、なんとなくの雰囲気は察していたのだろう。


 ってかコテコテに気合いが入った装備だし、あれなら幼馴染じゃなくても『今日なんかあるな』って分かるわい!


 バカなの? 男ってもしかしてバカなの?


 知ってた。


 和気あいあいと話しながら進む、チンピラ三人組の目的は……。


 ジャイアント・キリング大物喰い


 正統も正当……彼等の狙いは経験や強さや金銭で一歩大きく踏み込むためのものだ。


 持っている道具や、恐らくはお金を貯めて買った装備がその証拠だろう。


 ぶっちゃけテッド達よりもしっかり計画している。


 ランドンに至っては、ダンジョン深層の運搬役と遜色のない実力もありそうだし。


 他の二人だって下積みは出来ているのか、少なくとも普通の冒険者ぐらいの強さはあるように見える。


 それでも上手くいくかは分からない。


 だからチルルも心配して後をつけているのだろう。


 それだけの難敵。


 知らなくとも雰囲気で察せるのは、幼馴染故の勘の良さか……恋心の為せる技か。


 俺への依頼も、実は妥当だと気付いてもいないんだろうなぁ。


 溜め息を吐き出しつつ、両組が監視出来る位置を見極めながら移動した。


 ……本当にパーティー内の二人が新人でも倒せんのかねぇ?


 ――――ワイバーンなんて。


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