第261話


 てっきり……そう、てっきり!


 ――――腕を組んでいた奴なのかと……!


 ランドン、エウィード、フルカ。


 それがこの村で言う悪ガキ三人組だそうだ。


 もう子供じゃない、が合言葉らしい。


 ……なんだろう? どっかで聞いたことある話だなぁ。


 ランドンだけ歳が二つ上で、一足先に冒険者に成り……後を追うべくした幼馴染二人が、つい最近成人を迎えたという。


 ランドンは新人にしては力が強く、それを鼻に掛けて偉ぶりたいのか、腕組みについては昨今の流行りだそうだ。


 前は、話す前に鼻を鳴らすのが流行りだったとかで……黒歴史の見本みたいな奴だ。


 フルカは、立ち位置で言うとアンに近く、基本的には二人がすることを俺もやるというスタンス。


 唯一あんまり話してないチンピラBのことなのだが、チルルが言うには人見知りだそうで……。


 内輪ノリでしか強く出れないところがあるみたい。


 ごめんね? チンピラでもなかったんだね?


 しかし大体の割り当てが分かったので……残すところがエウィード君……に、なるということか。


 チンピラAのことやん。


「……彼、中々面白いよね」


「そう、ですね……はい」


 そう言って頷くチルルは優しげな表情をしている。


 ……あー、なるほどなるほど。


 どこの村でも似たようなことが起こるもんなんだなぁ。


 最初に遭った時に浮かべていた涙目も、これで説明がつく。


 ……そりゃ自分の想い人が、他の男の子を薦めてくるなんて……泣きたくもなるよなぁ。


 …………分かるわぁ。


 ふと気付けば吐き出そうとしていた溜め息を、本人を目の前にしてそれもどうなのかと飲み込んだ。


 チルルの話を聞くに、護衛をお願いしたいのはエウィード君だと言う。


 そこにチルルの気持ちが表れている。


 護衛の相場も知らないからと、今まで貯めていたお金を全額差し出しているところも本気の度合いが窺える。


 依頼の内容はこうだ。


 冒険者になったばかりのエウィードとフルカは、手っ取り早く功績を上げたいためか、近々無茶な依頼を受ける、と。


 そこはそれ。


 長年の幼馴染の勘とでも言おうか。


 ……


 近年の増長が見られるランドンは、しかし依頼には堅実で実はコツコツ派らしく……弟分二人が冒険者に成る前に、しっかりと下地を固めていたそうだ。


 自分を格好良く魅せるための努力を惜しまない奴なんだとか。


 そりゃあ……あれだよ……チルルの前だから……。


 いつか報われる日が来て欲しいもんだ……。


 フルカは二人がするならと付いていく派で、突発的な無茶をしたりはしない。


 つまり、やらかすのは基本的にエウィードだと言う。


 それは言動を見ていれば無理もないと思える。


 喧嘩っ早く、口調も荒々しい上に、妙な馴れ馴れしさもある。


 それでいて、めっちゃ行動的なんだよね……どっかの村長の息子がダブる。


 ……悪い奴ではないんだけど、傍目にはチンピラ。


 ランドンを立てる奴らしいのだが、イタズラの中心にはいつもいるんだとか。


 彼等は村に拠点を置く、大別されるところの地元冒険者だ。


 となると、あんまり派手な手柄は上げられまい。


 しかし魔物が出る森が近くにあるため、生活に困らない程度の需要はある。


 そのまま適度に魔物ゴブリンを狩る冒険者をやってくれていれば問題ないのだが……。


 やはりどいつも似たようなことを考えるのか、成り上がりを夢見ているんだとか。


 行動を起こすのも無茶をするのも、基本はエウィード。


 だからエウィードの護衛を頼んできた、というわけだ。


「最初は……エ、エルフを捕まえるつもりなんじゃないかと……」


 それは死ぬね。


 無茶もいいところだね。


「で、でも……どうも違うみたいで……心配になって……何度も何度も、何をするつもりなのか聞いてみたんですけど……教えてくれなくて」


 ……まあ、向こうもチルルの幼馴染なのだから。


 どの程度の無茶で止められる、という線引きがハッキリしているのだろう。


 思春期特有の邪魔されたくない感が、チルルの関与を拒んでいるのだ。


 それでもチルルがゴブリンのいる森に出向くとあっては護衛に来るんだから、仲が良いもんだ。


 ランドンの恋心の応援も兼ねてかもしれないが。


 …………チルルの予想、というか予感めいたものは当たっている。


 彼等はある依頼を受けるつもりでいるのだ。


 ランドンの実力と自分達の支援があればイケると踏んだらしい。


 そこに『熊を殺した冒険者』を加えることで成功率を上げようとしているのが、またなんとも……。


 もしくは手柄を取られまいとしての危惧だったのかもしれない。


 しかしなぁ……。


「…………あの……それで……?」


「うん? ああ……」


 顔を上げ下げしていたチルルが、まだ返事を貰っていないと言葉を投げ掛けてきた。


 結構な決意があったのだろう。


 じゃなきゃ、あんなに警戒していた謎冒険者を自宅に招こうとは思うまい。


 信用を勝ち取ったのがどの辺りなのか……後学のために教えてほしいものだ。


 チルルの汗と涙の結晶とも言える硬貨の入った袋を閉じて――――チルルの方へと押し返した。


 非常に心苦しくはあるが。


「断るよ」


 彼等にしたものと同じ返事を、チルルにも返した。


 目に見えて落ち込んだチルルが、それでも頭を下げて……しかし無言で部屋を出て行くのを、俺も黙って見送った。


 …………あーもう!


 

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