第260話


「いません」


「おう! ……って、返事したのにぃ?! テメッ、ふざけんなよ!!」


 こいつ……なかなか面白い奴だな。


 言動は荒々しいのに、無理やり踏み込んでこないところも高評価だ。


 ノックもしてたし……意外と真面目なのかもなぁ。


「総合評価はCです。貴方のご活躍をお祈りしています」


「お、おう、そうか。分かりゃいいんだよ、分かりゃ」


 ガラッと戸を開けてやると、怯んだように頷くチンピラA。


 後ろにぞろっと続くのは、いつメンってやつだろう。


 チンピラBと腕組みボス冒険者も一緒にいた。


 お礼をしに参った感じだろうか?


 熊肉を売っていた時もこちらをチラチラ見ていたことだし……。


「ここじゃ悪い。ちょっと歩こうか?」


「お、おう。……なんかお前、慣れてんな?」


 クイッと顎を振って、村外れの方へと歩き出す。


 戸を閉める時に見たチルルはアワアワしていた。


 別に慣れているわけじゃなく……なんとなくこういうもんだろうと理解しているだけだ。


 あと呼び出し自体は毎日のようにされていたので。


 ……どうしようかなぁ。


 これが自分の村だったらボコボコにされてもいいのだが……他のコミュニティーともなれば勝手が違う。


 俺が熊を倒せる実力がある、というのは既に周知の事実。


 万が一、自分の実力を過信されても困る。


 ……しかし、じゃあ返り討ちにするというのも……ちょっと可哀想が過ぎる。


 こいつらは、いわゆる地元冒険者で……下心が無いとは言わないが、チルルの安全にも気を配っていた。


 なんなら距離を空けて監視なんかもやっていた。


 ……いい奴らなんだよ。


 …………どうしよう。


「話し合いで解決しない?」


「うわっ?! っとぉ! 急に止まんじゃねえよ?! ビックリするじゃねえか!」


 クルッと振り返って提案してみると、想像以上のリアクションで飛び退くチンピラAがいた。


 いやお前だけ近いんだよ……見ろ、他の二人はちゃんと距離取ってんじゃねえか。


 俺、熊倒してんのに……怖いもの知らずか。


「……あ? 話し合いだぁ?」


 メンチを切るチンピラさん。


 ……ぐっ! やはりボディーランゲージ畑の輩か! これだからヴァイオレンス党は!


「いや――」


「元よりそのつもりよぉ! おん? テメッ、ナメてんのか? ああ?!」


「だから…………お、おう」


 ちょっと待って? 予想を越える事態に脳の処理が追い付かないから。


「そうか、そうか。テメェもそのつもりだったか。そうだと思ってたんだよぉ。こんな村にテメェみてぇな熊殺しが目的もなく来るわけねえよなあ? クックックッ」


 クックックッ、言うてるでぇ?


 え…………クックックッ言うてるでえ?!


 めっちゃ企んでそうな顔で肩を組んでくるチンピラさん。


 どう見ても悪い人。


 そのまえに距離感おかしい人。


「まあまあ、聞けよ? いい話があんだよ。テメェと兄貴が居たら貰ったも同然さ。な? そうだろ?」


 ……それ絶対あかんヤツや。













 話し合いを済ませてチルル宅へ戻ってきたら、風呂上りだという奥さんとチルルが体から湯気を上げていた。


 結構長く話してたもんなぁ……ほぼバカ話。


 あのチンピラ…………話すと面白ぇんだよ、なんで?


 どうぞと言うのでサウナ風呂で汗を掻き、布団を用意された部屋で寝転がった。


 新しい服が気持ちいい……やっぱりある程度の文明が人間には必要なんだよ。


 魔女宅にも風呂があったけど……あそこの腐呂には恐怖を感じていたので。


 なんか思想を改造されそうな気さえしたよ……。


「…………あ、あの」


「ふわあッ?!!」


 思わず二回転を決めて壁にぶつかってしまった。


「……あ、す、すいません」


 ワタワタと、どうしていいか分からない様子のチルルちゃんが、いつの間にか布団の横に正座していた。


 き、気付かんかった……さすがゴブリンのいる森を一人で彷徨こうと思っているだけある。


 ちなみにあのクサい臭いの元を作ったのはチルル父らしい。


 さすがは元冒険者である。


「だ、大丈夫……ですか?」


「あ、はい」


 流石にずっと申し訳無さそうな顔をさせるのも悪いと、ズキズキと痛む頭を放置してチルルの前に正座した。


「えっと……何か用事かな?」


「……」


 話しにくそうにしているが、恐らくは何か話があるのだろう。


 ……だと思っていた。


 ここに誘われるまでの態度と、当初の態度では違いがあり過ぎたから。 


 熊を運びながら村に入った時、他の村人の顔を見て明らかにホッとしていたことからも、決して俺に慣れたわけではあるまい。


 なんらかのアクションを取ってくるとは思っていたよ……いや、思ってたんだけどね?


 それでも驚くもんは驚くよ!


「……………………その……」


 ところでチルル母は何を思って行きずりの男の部屋に娘が行くことを許してんだろう? 不思議。


「……こ、これを」


 ようやく意を決したのか、チルルが脇に置かれていた袋を押し出してきた。


 …………ゴブリン除けとか言わないよね?


 遠回しに帰れと言われているんじゃないかと恐る恐る袋を開けた。


 中には――


 いやお金入ってるけどぉ?! だからカツアゲじゃないとあれほど……!


「え、もしかして……熊代返してる? いや、あれは正当な……」


「あ、ち、違います! ……あの、それ……依頼料……です。足りるか分かりませんが……」


 え? ……ええ?


 もう一度袋の中を見てみると、銅棒どころか銀板も混じっている。


 結構な金額だ。


 少なくとも熊代より多い……。


「そ、それで、あの……ご、護衛をして欲しくて……」


 護衛…………ああ、そういえばそんなことを言ったような言わないような……。


 相変わらず気が弱い雰囲気を漂わせつつも、決然とした表情で想いを吐き出すかのように、チルルは言う。


「――――エウィードの」


 ふむ。


 ちょっと登場人物の名前読み返すから待ってくれるかな?


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