第256話
……こいつッ、十六ッ?!
「そうか……十六歳か」
「あ……はい。十六です。すみません……」
「いや、怒ってるわけじゃなくて……」
その……見た目がね?
あと少しで村に辿り着くという道端で、何故か少女と座り込んで話している。
警戒をさせないようにと身分証でも提示出来たら良かったのだが、生憎と切られしている。
仕方ないので自己紹介がてら無害の旅人をアピール。
困っているようだったから助けたと善意の第三者を気取った。
そんなことで解ける警戒心なら最初から無いだろうと、少女は今になっても危機感を持ち続けている。
こちらの言動に一々ビクビクするのが証拠だろう。
誰ぇ? 人助けが好感度稼げるみたいな定説を作った奴は?
なんなら『今一人だし……誰も近くにいない……もうダメ……』みたいな雰囲気を漂わせている。
チンピラから助けた山賊みたいな立ち位置になってる。
そんな馬鹿な。
それでもギリギリ会話が成り立っているのは、俺の見た目や肉体的な年齢が年下だからだろう。
この娘の名前はチルルと言うそうだ。
こちらが睨んだ通り、あそこに見える村に暮らしている。
なんでも森に薬草やら山菜を取りに行く途中だったとかで……腰に小さな籠を付けていた。
そうか……森にねぇ……。
「え? 危なくない?」
「……あ、えっと……大丈夫……です」
モジモジとチラチラとこちらの顔色を窺うようなチルルは、見た目からしてターニャと似たような体格だろう。
強そうには見……ターニャを例題に上げちゃダメだな。
一般的な見地からすると強そうではない。
角材も無いのにどうするつもりだったのか?
今の返答も、こちらに配慮してのものなのか、本当に慣れていて大丈夫なのか分からないものだ。
というか大丈夫じゃなくないか? 普通に血気盛んなゴブリンがいるぞ? 幾度となく襲われたぞ?
近くではないんだろうけど、恐らくは集落でもあるんじゃないかと思われる遭遇ぶりだった。
ゴブリン、少女、と来たら……。
「え? 危なくない?」
「…………え? あ、あのぅ……」
繰り返される質問に泣き出しそうなタレ目の三つ編みおさげだったが、ここは強く言っておいた方がいいように思える。
いや冗談じゃなく。
「…………俺も付いてっていいかな?」
「ひぅ?!」
……ごめ、そこまで反応しなくとも……。
心が、心が死んでしまうよ?! こちとら中身はオジサンだから!
「いや、正直に言うと……俺は、あの村で最低でも一泊したいと思ってる。目的地があるから、その情報収集も兼ねて。しかし先立つ物が……まあお金だね? お金が無くて、それでもなるべく良い印象を与えつつ村に入れて貰いたいわけなんだよ。だから君のこと助けられるんなら助けたいんだけど……」
そして出来ることなら路銀とかせびりたいんだけど……。
「……そう、でしたか。はい……村には、お金を払わずとも入れますが……」
うん、その可能性は多いにあった。
今のところ、お金取られるのは街規模の所だけだし。
ただここが自分の国かどうかも分からないから。
ちなみに言うなら自分の国の名前すら分からないから。
うちの村には名前すら無いんだよ?
お金は払わなくとも入れるんだろうけど、明らかに悪印象強めのチルルを放っておいていいものかどうか……。
いや良くはない。
未だ警戒する理由というのも分かる。
俺だって村に居る時に森の方から誰かが来たのなら『そいつ人間? 蛇が化けてない?』と怪しんだだろうし。
あからさまに『結構です』という返事を臭わせるチルルに、それでもと食い下がる。
「別に金銭とか求めないから! なんなら換金出来そうな物を俺も捕りたいし! 荷物も持つよ! 魔物も倒せるよ?! い、色々教えてくれると、ありがたい、かなぁ……」
「そ……そういうことなら」
おずおずと頷いたチルルは、どう見ても妥協したような諦めの表情を浮かべていた。
これも俺の初手が間違ったせいなのだろう。
このチルルという娘に絡んでいたチンピラ……。
村の方へと歩いていったので、その可能性もあると思っていたが……。
その通り、村出身者だそうだ。
なんなら知り合いだと言う。
…………ほらー?! だから確認もせずに助けちゃ駄目なんだよ!!
むしろボコボコにしなくて良かったよ……まだ穏便な手段でのご退場で。
しかしこれで俺が言っていた依頼云々というのも嘘だということがバレバレだろう。
渋々と立ち上がったチルルに合わせて腰を上げる。
ゴソゴソと腰に付けた小さな籠から、何かこれまた小さな布包みを取り出した。
「あの……じゃあ、これ……」
「ち、違う?! カツアゲじゃない! ほ、ほんとに違うんだ?! 別に金銭目的じゃなくて?!」
ちょっとはあったけど!!
ワタワタと慌てる俺に、向こうも違う違うとバタバタと手を振る。
「あ、あ、ちが、違います。こ、これを体に振り掛けておけば、ゴブリンは寄って来ないんです。ダンジョンとかじゃ効かないそうなんですけど」
あ…………そうか、なるほど、そういう道具ありきだったか……うん。
彼女が渡してくる布包みを受け取ると、振り掛けろという指示に従うべく包みを解いた。
すると臭ってくる臭いに、再び包み直した。
キツく、紐が千切れんばかりに。
「ゴブリンはいいよ。俺が倒すから。ギブアンドテイクで行こう」
自分にも掛けようと思ったのだろう、彼女が布包みを取り出そうとしたところで、腕を掴んで止めた。
…………クッッッッサ?!
知り合いだというチンピラが護衛を買って出たのも仕方なく思える臭いだった。
……なんならあいつら良い奴らまであるよ。
ほらね、安定のスルーだったでしょ?
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