第254話


 で。


 圧倒的に迷子だ。


 現在地何処ォ?! ここ何処ォ?!!


 帰れるという一念に従って衝動的に出てきてしまったが、もうちょい準備なりなんなりすれば良かったと思っている。


 ……仕方なかったんだよ、エルフが想像以上に恐怖で。


 綺麗さとか以前に監禁、発狂、生き埋めなんて目に遭えばトラウマ製造種族に指定されるのもやんなるかな。


 発狂しそうになったのは主に同郷の人のせいだけど。


 お陰様で清々しい気分で森を散策して――――見たこともない魔物から身を隠している。


 ……食肉植物っぽい魔物がいるんですけどぉ?!


 近くを通った小動物を触手で捕らえてパクパクしている植物(?)を発見した。


 酸で溶かすとか、そういうムーブじゃなくて……思いっきり獲物を歯で砕く音が聞こえていたので、恐らくは立派な牙が存在していることだろう。


 見た目にはハエトリソウ。


 割とポピュラーな魔物なのか、森を二日程さまよい歩いているのだが……そこそこの確率で見掛ける。


 ちなみに西に向かっている。


 大まかな方角は天測と太陽の位置から割り出せるのだが……多分、村とは逆方向だ。


 しかし間にエルフの里を挟んでいることから、まさか出戻りするわけにも行かず。


 一旦は森を抜けようと頑張って…………そう。


 迷子の典型です。


 しかし俺もむざむざ二日間、ただ迷っていたわけじゃない!


 ローブの新しい機能についての発見もあった。


 アイテムボックスの機能と子供エルフの尽力で、食料に困ることのなかった二日間。


 もういい加減ローブを脱いでもいいだろうと、川で水浴びするついでにローブからも解放された。


 そして無くなる黒い靄エフェクト。


 嫌な予感に引っ張られ、なんでもいいから出してみようとアイテムボックス機能を期待してローブに手を突っ込んでみたところ!


 ――――ローブの布地を、手が突き抜けない?!


 という当たり前の結果を生み出してしまうことになった。


 しかも重量は変わらないという……ね?


 着ている間、本人にしか働かない可能性に掛けてローブを羽織ってみたけど……再びエフェクトが発生することはなく……。


 当然ながらアイテムボックス機能も発動せず。


 今やローブは鍵を失くした金庫状態で布袋に収納されている。


 …………どうしたもんかなぁ?


 魔法があるので水はともかくとして、食料を入手する必要があるのだが……。


 キノコに関してはミナリスさんの厳しい視線が思い出され、小動物等の食肉に関しては先住(?)している植物さんの寡占状態となっている。


「ギャ! ゲギャ! ガギャ!!」


「魔物はいいんだよ、魔物は」


 意味不明な叫び声を上げながら突進してくるゴブリンを、身体能力強化を駆使して倒す。


 この二日間で幾度となくこなすことになったルーチンワーク。


 今回も無手で突っ込んできたゴブリンを、カウンターの要領で殴り飛ばした。


 顔を陥没させて吹っ飛んでいくゴブリンの先には、例の植物先輩。


 森のお掃除もやってくれる。


 森の中に、植物先輩以外の強そうな魔物はいない。


 そんな植物先輩も、植物と主張したいのか根を張っているところから動く様子はなく……攻撃範囲を知っていれば対処は容易いように思えた。


 魔物よりも熊が怖かったぐらい。


 村からダンジョン都市に行くまでの森と雰囲気が似ている。


 ほぼほぼ荒野での行軍だったけど、偶に立ち寄る森側がこんな感じだった。


 あんな物騒な植物はいなかったがな!


 倒そうと思えば倒せるとは思うんだけど……どうしても本能的な忌避感があって植物先輩は避けている。


 同じく突然の遭遇を果たした熊からも逃げた。


 ……なんか、どうしても、こう……『喰われる?!』系の想いが強い生物は、二の足を踏んでしまうのだ。


 ぶっちゃけ怖い。


 早く抜けないかな、この森。


 ――――なんて思っていたせいか。


 そんなトラウマと恐怖の権化のような森にも終わりが見えてきた。


 あと少ししたところで、森が途切れている。


 そろそろ魔力も完全に回復するから、もう少し歩いて駄目そうなら両強化の四倍を使用してでも抜けてやろうか、なんて考えていただけに、森の切れ間からは後光が指して見えた。


 …………ああ、居たんだね? 神様。


 ……これで魔女の家なんか見えた日には、生きていけないぐらいに落ち込むと思うけど。


 流石にそれはないだろうと足を早めて森を抜けた。


「おおおお?! 外だ! いや最初から外だけど! しかも村がある!!」


 森を抜けたところから、少し離れるようにして村特有の外壁を発見した。


 森じゃない空気を胸いっぱいに吸い込んで、どこに隠してたのかというぐらい元気よく村へと足を向けた。


 やっぱりシャバだな、シャバの空気が一番美味いよ。


 そう、気分良く歩いていたのだが……。


「だ、大丈夫です。大丈夫ですから……」


「ああ?! 兄貴が付いてってやるって言ってんだよ! しかもタダで! 大人しく頷かんかい!」


「あの……あたし、お金とか無いし……」


「だからよぉ? 金はいいって言ってんだよ、金はな? へへへ」


 野郎三匹に絡まれる女の子というテンプレを発見するまでは。


 スルー安定でいいよね?


 むしろ安定のスルーがいいよね?!


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