第247話
残すところ、魔力は三割。
絶不調で満身創痍、ついでに言えば気息奄々。
四倍強化は使えて一回。
倒すべきは――――ゼロの方だろう。
ダメージを肥大化させる能力が厄介だ……どう考えても。
攻撃を受けた際に魔力に変化が無かったことから、もし外傷などのダメージを肥大化させたとしても傷そのものに変化は無いと予想している。
だからと言って痛みやキツさが無くなるわけでもない。
ニケの方は……極論、あの空間に足を踏み入れなければ問題ないのだ。
吸い取られ、抽出されている魔力が、ニケの盾として機能しているから。
元々持っていた『アミュレット』とやらを合わせると、手も足も出ない状態となってしまうが……。
ニケの身のこなしは、それ程でもない。
少なくともエルフの戦力……里守と呼ばれる彼等との遜色は見られない。
魔法によるダメージを与えられないという点で、俺との相性は最悪だが。
エルフの戦士が普通に戦えるのなら、ニケは問題になる戦力ではない……と、思う。
常に漂う余裕さが不気味ではあるが……。
しかし魔力の吸収は既に種の割れた絡繰りなのだから、再びあの空間に足を踏み入れて相手をしてやることなどない。
魔力は放っておけば消える。
それは魔法の痕跡が、時間経過で無くなることで証明されている。
俺達から奪った魔力も、長々と滞留させたりは出来ない筈だ。
ニケを放置してゼロを叩く。
倒すべきは、ゼロ。
「…………それが正解」
……………………な、筈なのになぁ。
どういうことか。
灰色の空間を目の前にしている。
何故か真っ直ぐにこちらを……セフシリアの本体である闇緑樹を目指して動く灰色の空間を目にしたら……いつの間にか。
気付けば、真っ正面に立っていた。
…………バカだよなぁ……ほんと。
魔力の消耗は必須だ。
じゃなきゃ俺は戦えない。
傷だって当たり前のように負うだろう。
今ですらゼロから受ける謎の攻撃に耐えられるか分からないというのに……後回しにしてどうするのか?
……こっちが教えて欲しいぐらいだ。
溜め息を吐き出しながら、繁みを掻き分けて灰色の空間へと足を踏み入れた。
外からの攻撃を警戒しているのか……それとも、より魔力を吸わんとして見つけにくい場所にいるのか、ここからじゃニケの姿は見えない。
爆心地で堂々と姿を表していたのも、アミュレットあってのものだったのだろう。
本来は見晴らしのいい場所を良しとしない能力である。
しかしそれなら森は最適と言ってもいい。
遮蔽物が多く、隠れるには最適だ。
「でも生き物の気配が無いっていうのがな……」
「……うっそ? 気付いたんすか?」
ニケの前……いや、透明に見えるニケの前に立って言葉を投げ掛けた。
恐らくはその灰色のローブが原因だろう。
魔力を捉える瞳が、ローブから流れ出る魔力を捉えていた。
しかし気付けたのは心音や熱のお陰だ。
両強化魔法の三倍併用は、まさに万能の力だと言える。
ゼロの警戒のために気配を探っていたことも一因だろう。
本命は見つからなかったが……。
目標を見つけた。
この間合い、相手の反応速度、共に問題にならない。
しかし……。
「一応……姿を消していた理由を聞こうか?」
「え〜? いいっすよ、別にぃ。ただ逃げ切ったって思って安心してるところを驚かそうとしてただけなんで〜」
「クソ野郎だな」
「いやいや、自分、女っすから! それにこれでも仲間内じゃお淑やかな方っすよ? そうですね〜……証拠って訳じゃないっすけど、お兄さん――――逃がしてあげましょうか?」
たった今、追い掛けて突き落とす宣言をしたあとの発言である。
「信用出来ると思ってんのか?」
「いや〜、ぶっちゃけお兄さん厄介なんすよね。逃げに徹されたら『面倒かな?』って思うぐらいには。だ・か・ら、逃がしてあげようかな、っと。ね? 優しくないっすか?」
「じゃあエルフ全体を見逃してくれ」
「はい駄目〜。ざ〜んねん! お兄さんは生き延びられる機会の方を逃したっす〜。――準備も終わりました〜」
ああ、分かっていた。
こいつが姿を晒す……見つけられる可能性を考えて近付いて来たのなら、何か手があるのだ。
こちらの攻撃を防ぐ方法も既に検討を付けているのだろう。
こっちの話に乗って来ている時点で、そういう計略の可能性すらあった。
しかし時間を掛けたのは、何も相手のためじゃない。
「…………近くに、いないな? あの、ゼロとかいう黒ローブは」
丹念に集中して探ったのだ。
少なくとも灰色の空間の中にはいない。
恐らくだが……この魔力の吸引は無差別なのだろう。
急場なうえにローブで隠れていたので確証はないが……。
ゼロも魔力を吸われていたように思う。
「あー……一応訂正しておくんすけど? ゼロさんって、ゼロスが本当のコードネームっす。あたし略して呼んじゃうんで〜」
「随分と色々教えてくれんだな?」
「いいっす、いいっす。お兄さん、どうせ死ぬんで。それじゃあ、始めますか?」
「ああ。とっとと――終わらせてやる」
応えて早々に踏み込んだ。
初速から全開で飛ばし、相手が反応する間も無く、横手に回り込む。
無防備とも言える横っ面に、
素肌から鳴らないような音が鳴る。
この手応えは……やはりアミュレットだろう。
壊れてなかったのか、二つ目か。
二人いたのだ、一人に一つずつ持っていても変ではない。
加えてこの場にゼロスがいないことも、その話に説得力を持たせている。
どこかでアミュレットの受け渡しが発生したとなれば、ニケ一人に俺の相手を任せたのも頷ける。
……まあ、関係ないな。
こちとら腹を括って来ているのだから。
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