第226話
つーか外の森も里の中も違いが分かんねえ……。
恐らくは外? だと思われる森の方に足を進めている。
キノコやら木の実やらを採取する場所が被らないようにするためだ。
これでエルフが山菜を採取する場所と被ったら元も子もないからな。
「あ、これたべられるよ」
「おいニンゲン! あそこの実も食べられるぞ!」
……しかしこれを自立と言えるのかどうか。
付いてきた、というかむしろ先行している子供エルフが指差す場所に、恐らくは美味しいのであろう森の恵みがある。
自分じゃ絶対に採らなかったであろうカラフルなキノコやら果実やらだ……斑点があったり、紫だったり。
頭にセフシリアが標示装備、三歩離れて歩く猫耳娘とラナリエルがオマケ。
わざわざ俺が行くまで足を止めて採取場所で立ってくれている子供エルフ達。
楽しくて仕方がないという表情をどう捉えたらいいのか……。
お手伝いを自慢している子供ぐらいの気持ちならまだしも、……ペットに対する躾のようにも感じられると思うのは、俺が黒いからなのかなぁ……。
「実を取る時は枝を傷付けちゃダメだからな!」
「ねっこからぬくの? できる?」
……黒いからだよ、うん……黒いからさ。
一先ずキノコを指でつつくミナリスとかいう子供エルフの隣りにしゃがみ込んで、注意された点に気をつけながら採取する。
山菜採りはまだ習ってないんだよなぁ。
うちの村で習得する順番が狩りの方が先になるのは、森の危険度故になのだろう。
ちょっと楽しいと思ってしまう。
一個、二個……あ、しまった、袋か何か貰って来れば良かった。
これでは持てる量に限りが出来てしまうじゃないか……なんというウッカリ。
「こうすればいいよ!」
「なるほど」
スカートの端を引っ張って示すミナリスに、女子ならではの発想だなと頷きを返した。
まあパンツ見えちゃうから大きくなったらやらないんだろうけど。
こういう時は無駄に裾が長いローブを着ていて良かったなと思う。
……いや、これ確実に貰った時より布地というか面積が広がってるんだけどさ。
なんか気付いたらこうだったんだよなぁ……闇緑樹とやらのせいなんじゃ……。
不穏な気配を察知したのかピシピシと叩いてくるセフシリアを無視してローブの裾を掴んで引っ張り、簡易籠と貸した布地にポイポイとキノコを入れていく。
「……すごーい! ねえ、どうやってるの?」
「へへ、だろ?」
何が? とは聞いちゃいけないんだろうか? もしかして採取がミラクル決まったとかある? そもそも採取に基準とかある?
連発される「すごい!」に引きずられるように上がるミナリスのテンション。
他の子供エルフも寄って来て……流石に何かがおかしいと気付いて手を止めた。
「……何が凄いんだ?」
「きえてくよ! ほら! なくなってる! ……どこにいったの? ねえ、もっかいやって!」
聞かぬは一時の恥とばかりに尋ねると、簡易籠を指差して興奮口調のミナリス。
そこには――――あると思っていたキノコが無くなっていた。
…………あれ? 落としたか? 今、三つ四つ入れたよな?
咄嗟に立ち上がって辺りを見渡す。
生えているキノコ以外のキノコは……落ちているようには見えず。
再びしゃがみ込み、姿勢なんかを確認してキノコが転がりそうな方を予測……するも、当然ながら見当たらず。
「あれ? キノコどこいった?」
「きえた! すごい! ほら、みてて?」
首を傾げてローブの裾を持つ俺に、ミナリスが取ったキノコを布地へと落としてきた。
しかしコロンとキノコは布地の上で転がるばかり。
「あれ? できないよ?」
そもそも『きえてくよ』ってなんだ? 消えるって言ってんのか? そんな愉快な手品、俺出来ないんだけど?
投げ込んだ勢いが強くて、布地でハネたんじゃない? それでなくても変なエフェクト付いてるし。
俺の目は魔力が視える目らしいから、下手なこと言わなかったけど。
何も言われなかったことからして、傍目には普通に見えている可能性もあったし。
……もしかして凄く反発するという防御効果があるんじゃ?!
ちょっぴり期待しつつ、布地の上に鎮座するキノコを持ち上げて、もう一度落とした。
今度はもうちょっと高いところから。
するとポテッと布地の上に着地するキノコ。
異常無し。
なんだ……やっぱり見間違い――
「あ、ほら。きえてく」
目の錯覚を指摘しようとする束の間、ミナリスが指差すキノコが――ズブズブと布地に沈んで消えて行った。
…………。
「わー?! すげー! すげーな、ニンゲン! 初めて見た! ニンゲンの使うマホウってやつだろ? 俺、知ってる!」
「すごい?! なくなった!」
「ねー? あたしがさいしょにみつけたんだよ! でもきのこ、どこいったんだろ?」
「……何それ? 今、何やったの?」
いつの間にか大集合して俺の手元を覗き込んでいた猫耳やら子供エルフやら。
のべつ幕無くぶつけられる疑問には何一つ答えられない。
何故なら俺もこれがどういうことか分からないからだ。
しかし……ちょっとピンと来るものがあり、キノコが消えていった布地へと手を近付けた。
指先に抵抗……は無く、ズブリと飲み込まれるように布地の中へと手が入っていく。
久しぶりにファンタジー来たな……。
布地の中には、とりあえず何もない。
しかも手首までぐらいしか入らないらしく、それ以上進まなかった。
思い付くままに、キノコを想像してみた。
すると確かな感触と共に、キノコを布地から引き抜けた。
興奮したように歓声を上げる子供を無視して手の中のキノコを見つめた。
アイテムボックスだな、これ。
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