第227話
ダンジョンには
……ターニャはなんて言ってたっけ? このローブを、ハズレとか言ってなかったか?
それも仕方ないと思える機能なのは確かだ。
このローブは装備した瞬間から使用者の魔力を吸う、いわゆる魔道具というやつなのだが……ダンジョンから出土したらしく天然物だ。
袖を通したり肩に掛けたりしただけでも強制的に吸い始めるので、判定は割とシビア。
量は微々たるもので、そんなに気にする程でもないのだが……魔力が五割を切ると危ないとされる世界では危険な品なのだろう。
それか着ている限り『吸い続ける』という部分がネックなのかもしれない。
もしくはそれだけのリスクに値しない能力だと思われているのか。
このローブの能力は……まずフードを被らなければ発動しないようになっている。
しかしフードを被らずとも魔力は吸われる。
しかも金属をローブの下に入れると、たちまち効果は失われてしまうという。
帯剣するのはいいのだが、懐剣なんかはアウト。
当然ながら金属製の防具はダメ。
さらに効果は無くなろうとも魔力は絶えず吸われ続けるという、わお! お得! なローブになっている。
そんな冒険者唾棄の一品なローブの効果はというと……なんと五つもある。
まず自動修復機能。
ローブは穴が空こうが斬れようが修復される。
しかしながらローブの耐久性は一般の服並みで、これを着たからといって冒険に出られるわけじゃない。
ついでに言うと布地も別に高価な感じはなく、着心地も可もなく不可もなくといったところ。
次に変声。
フードを被り、効果が発動されると、使用者の声が変わるのだ。
……何故か俺の場合は前世の自分の声になっているのだが、本来なら高くなったり低くなったりするだけだという。
口調が変わるわけじゃないからか、親しい人間だと気付かれることもあるらしい。
…………喋り方も変えていたのに何故かアンにバレそうになったことからも、割と信憑性のあるレビューっぽい。
三つ目が背丈の誤認。
認識阻害系の能力で、これだけは『なんで?』と思える程に高等な機能だ。
俺の背を本来のものより高く見せるらしい。
しかしこれにも弱点というか、欠点があって……。
相手から高く見えるのなら、頭部への攻撃なんかが空振りしようにも思えるのだが……。
存在する位置は、ちゃんと相手から把握されるという……変な機能である。
まるでメガネのような見え方を他者に押し付ける機能とでも言おうか。
幻惑とも違う……文字通り『誤認』させる能力だ。
そして四つ目、顔に影が掛かる!
読んで字の如く、顔に影が掛かる機能だ。
フードを被っている限り顔を見通せなくなる。
ただし口元なんかは見えるそうで、こちらは鏡で確認済みである。
……口元に特徴が無くて良かったよ。
ただし手を突っ込んで顔の確認とかは取れるらしいので、注意するに越したことはない。
最後の一つは、本人しか脱げない外せないという機能!
これによりどんなアクシデントでも……例えば強風やローブの一部が引っ掛かったりなんかでフードがうっかり脱げることがなくなるんだそうだ! いらねえ!
しかし今は一番必要だと思っていますすいませんありがとうございます!
基本的に正体を隠そうという装備の意図が見えるこのローブ。
まさに姿を隠すにはうってつけ……のように思える。
しかしそれぞれの機能に欠点があり、その上でデメリットとなる魔力吸収や金属不可が装備の魅力を大きく損なっているようで……恐ろしく人気が無い品なんだとか。
正直、各機能における上位互換のような魔道具も存在しているらしいので、これを着ける状況というのはめちゃくちゃ限定されるそうだ。
常用している俺が言うのもなんだが……燃費がなぁ。
しかしそれもアイテムボックスという希少な能力の前には全て霞む。
どうもこのローブに対して『入れる』という意思を持たない限り発動しないものらしい。
着る物なのに、収納するという発想を持たなきゃ発動しないという……。
しかも取り出すのも入れれるのもローブを着ている者にしか行えず。
不人気な上に『ハズレ』とか呼ばれていて、更には能力の解放条件も難解じゃ……誰が見つけられるというのか?
もしこのエフェクトが発動の条件だとしたら、かなりの時間、こいつを着ている必要があると思われる。
だってダンジョンじゃ無かったもんなぁ、このエフェクト。
知っていたら帰りはかなり楽になったのに……。
時間なのか、吸われた魔力の量なのか、それとも別の発動条件があるのか。
詳しいことは分からないが……これが今後の異世界生活における大きなアドバンテージになるのは間違いないだろう!
昨今の異世界物においてアイテムボックスは最早マスト! これ一つで天下を取るサクセスストーリーもあるぐらいなのだ!
そんな能力を手に入れてしまったのだ、どう使うかなんて知れたこと!
「はい、これもいれてー」
「ニンゲン! これも美味いぞ! いっぱい持って帰ろう!」
「これもこれも!」
……これは決してパシリとかではない。
人を越えた能力を手にした俺の利権に他種族が早々に群がって来たというだけ。
森の一角で、子供エルフ達が次々に持ってくる山菜をローブに収納しているところだ。
より多くの実りを持って帰るための結論として、山菜の見分け方や採取の仕方を知っているエルフが俺に手渡した方が効率的ということになったのだ。
決して役立たずというわけでもない。
これは仕方ないことなんだ、だってローブに仕舞えるのが俺だけなのだから……役割分担だよ、役割分担。
……でもなんでだろう? 今朝方感じた寂寥感が増えていくんだ、不思議。
山芋を掘り返して脇に持っている猫耳娘が、
「……
「おっと。そいつぁ誤解だね。これでも俺はプロの運び屋でね? ダンジョンの最深部にすら足を踏み入れたことがあるエキスパートだ。託された荷を目的の場所まで、安全! 確実に! 運ぶのをモットーとしている。運ぶだけ? ふふ、トーシロだな。しかしここは郷に入っては郷に従えと言うし、採取が出来ることもお見せしようか」
ジト目……というか白けた視線に押されるようにミナリスの隣りにしゃがみ込み、キノコの一つに手を伸ばした。
横から伸びてきた小さな手が俺の手首を掴む。
「それはだめ。たべられない」
「あ、はい」
いつになく真剣な表情のミナリスに気圧されるように、俺はそそくさと手を下げた。
……シイタケに見えたんだよ、仕方ないだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます