第213話
森の中を一時間も歩いていると、急に視界が開けた。
「ここが……エルフの里」
「ここもエルフの里よ。貴方の家からここまでの森全部がそうなの。あー、でも人間って色々な物に境を付けたがるものねー。……細かくない?」
逆に「おおらかじゃない?」って言いたいわ。
ちょっと違い過ぎるだろ、ここと森と魔女の家の周りとじゃ。
ここまでの道のりは、まさに森と言える行程だった。
獣道でもない大層な木々が生えている道無き道を、エフィルディスはその身体能力と地の利を活かして軽々と歩いていたが……。
追い掛ける身としては、深山行でもやってるのかと思ったよ。
あれと比べたら……なるほど。
魔女の家の周りは人が住むに足りていると言ってもいい。
整地された地面に、畑と住居、少し謎な巨木はともかくとして、生活する分には問題が無さそうだ。
……地下に目を瞑ればだけどね。
しかしそれもここと比べると、幾分劣る。
「なんか…………凄いな」
「そお? ふふ、そうかしら? なんかちょっと嬉しいわ」
エルフが暮らす場所と言えば、緑豊かで自然そのままといったイメージがあったんだけど……。
整地され、土を固められたような地面に街路樹よろしく等間隔に木が並び、木製なのか土製なのか分からない素材で作られた建築物が、充分なスペースを保ってあちこちに建っている。
特筆すべきは、里を……というか街を縦横無尽に走る水路だろうか。
とても澄んだ水を称えた水路が、特に側溝のような蓋もされずに伸びている。
緑豊かだ、それは間違いないけど……。
割と近代的にも思えるし、それは問題あるんじゃないの? とも思える。
大元は車が通っていないことなのだろう。
そのため剥き出しの水路が邪魔にならず、余裕を持って歩けているようにも見える。
自動車は無いが馬車ならあるため、異世界の街といえど広く切り取られた道だろうと注意は必要だった。
それがここには無い。
だから広々とした道を子供が駆けていても注意されることがないのだろう。
水路には苔が生え魚が泳いでいる。
そんなとこばかりは自然が残っているのだから、近代的というのも違うのかもしれない。
機能的? なのだろうか?
よく分からんが、イメージしていたエルフの集落ではないことは確かだ。
「建物に扉が無いのはなんでだ?」
「ちゃんと部屋とかには付いてるわよ?」
そうじゃねえよ。
割と大きな建物にエルフがひっきりなしに入っては出ていく姿を見てエフィルディスに尋ねたのだが、返ってきた答えは見当違いのものだった。
……公共施設、なのかな?
それにしては個人の家っぽいのにも出入りしているエルフが……いや、その家の住人かもしれないけど。
エルフは、軒並み民族衣装のような格好だ。
基本的に似たようなデザインで、落ち着いた色の服を着ている。
エフィルディスが纏っているのも腰帯を締めたロングスカートのような衣装で、昨日着ていたシャツにパンツといったものとはまた違う。
「……そういえば装いが違うのはなんでだ? 今日、森を歩くって分かってたんなら、昨日の格好の方が不便がなくないか?」
「私、今日はお休みだもの」
…………答えになってないんだが。
疑問が態度に出ていたのか、溜め息を吐かれた上で付け足してきた。
「やっぱり人間って細かいのねー。自分の里に帰ってきてるのに、わざわざ外に出る時の衣装を着たりするわけないでしょ。人間は違うの?」
……実家にいる時にスーツ着ないでしょ? みたいなもんか。
確かに。
となると……これがエルフの標準服か。
ロングワンピースにブーツが標準なのだが、着る者によっては半袖だったり長袖だったりしている。
エフィルディスは長袖でハイネックという、極力肌を露出させない服装だった。
森を歩くからだと思っていたのだが、どうやらエフィルディスの個人的な趣味だったようだ。
だって膝丈に首元を出しているエルフの少女もいるし……あ、手を振ってる……振り返しとこう!
「エルフ最高だな」
「何故かしら? 全く同意出来ない上にイラッとするわ」
いやだって美少女だらけだもん、仕方ないよ、それはそうなるよ。
しかも手を振ってくれたエルフの女の子はニコッとした笑顔だったのだ。
通帳と印鑑がなくて良かった、そう言わざるを得ない。
エフィルディスも負けず劣らず美少女なのだが……何分表情に乏しい。
だから仕方ないんだ。
「残念ながら落第です。敗因は愛嬌ですね。次回に期待します」
「あそこが里守の訓練場よ。良かったわね、直ぐ見つかって? さ、行きましょ」
「やだなー、エフィルディスさんが最高ですよ。まさにエルフの顔、エルフの中のエルフ! 当代一の美の女神! だから勘弁してお願い!」
「嫌よ」
「エルフに慈悲はないのか?」
許してくれる流れでしょ?!
道の真ん中でローブの袖がビリビリという音を立てるぐらいの引っ張り合いをしていると、周りにいるエルフからクスクスという笑い声が漏れ聞こえてきた。
割と寛容な種族性なのか、止められることもなくニコニコと見守られている。
誰だよ、エルフが蛮族なんて言ったのは。
しかしエフィルディスには恥ずかしかったようで、珍しく頬を赤く染めると叩きつけるようにローブの袖を離し、足早に歩き去っていった。
…………いや、置いていかれても困るんだが?
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