第154話


 まあ関係ないんだけどね。


 どういう意図があるのかは知らないけど、まさか俺達の邪魔をしようってわけではあるまい。


 ロッククライミング中に石をぶつければそれだけで済む話なんだし。


 既に居ないということは目的を達した可能性すらある。


 馬車を引き返させるためか、道を潰したかったのか。


 それは分からない。


「ただ…………言っちゃなんだが、雑だなぁ」


「……ね」


 焚き火をしたであろう地面には不自然な砂が掛かっているし、気付かれないと思っているのかテントの固定具を刺したであろう穴は放置だ。


 体に引っ掛かる位置にある折れた小枝や、踏みつけられた下草等々……。


 ゴミは掘って埋めたんだろうけど……それっぽいところはハッキリと分かる。


 ……せめて均して行けよ。


 しかも使わなかった足し木用の枝なんかを纏めて森に放り込んでいるので意味がない。


 いや、不自然が過ぎるだろ? たとえ森の中でも枝が纏まって落ちてたらぁ。


 結論。


「誰だか知らんが、全く森に慣れてねえな」


 うちの村じゃ肉食えなくなる人種だ。


「……わたし枝番」


 薪を集める苦労を買って出てくれた優しい幼馴染が、纏めて捨てられていた枝の山を拾い上げる。


 うふふ、本当に優しい女性に育ってくれたなぁ。


 俺が育てた! なんて口が裂けても言えないよ。


「ちょっと待とうか?」


「……レンは獲物……がんば」


 それどっちの意味で言ってる?








 頂上から麓までの森は中々深く、また峻厳だった。


 ターニャがなんで行くには厳しい絶壁を登れと言ったのかは、頭頂に付いてようやく分かったところ。


 ここからなら比較的緩やかだし、またマズラフェルまで近い。


 北に逸れて行く公道も、やや南寄りにある街もハッキリと一望出来る。


 反対側からなら無理な行軍で登って来れなくもない山頂である。


「ということは……ここから岩を落とした奴らってマズラフェル出身?」


「……まだ分からない」


 鶏肉に香辛料を振って焼いた物を食べつつ、暇だったのでターニャと推理ごっこをしている。


 ダンジョンで持たされた荷物の中身は、ほとんどがキャンプ用品なので俺達の野営の質は上がっていた。


 使い方も、ここ何週間で何度も触れているのでバッチリである。


 ……捨てられていた物を有効活用しているだけで、盗ったとかじゃないんです。


 ダンジョンに落ちてたのだ、凄い偶然。


 ダンジョンでの拾得物は発見者に権利があるらしい、やったね。


 ダブっている道具をマズラフェルで売って後金に換えさせて貰おうと思っている。


 これで少女のヒモからの脱却が可能。


 俺は悪くない。


 全部テッド達が悪い。


 ……大人しく隣町で薬草でも拾ってりゃいいものを。


 ちょっと行って帰ってくる感覚だったから大して持ってきてなかったんだよなぁ。


 旅先で気になるのが懐事情である。


 …………ターニャ、どんだけ稼いだんだろ?


 傍目には情報収集と言いつつ食べ歩きをしていた幼馴染がフラッシュバックされる。


 ダンジョン都市で攻略パーティーとダンジョンに潜っていた俺と、街を満喫していたターニャとの差よ。


 チャノス、ダンジョンは言ってるほど儲かんなかったぞ……。


 そんな小金持ちな幼馴染が鶏肉を飲み込んで続ける。


「……でも目的は通路の封鎖」


「なるほど」


 ありそうだ。


 そもそもここからの落石って狙うにしても距離がある。


 あのキャラバンを狙うなら他の方法の方が確実だろう。


「ここ最近はダンジョン都市との交易も増えたって言うし……益々発展していきそうな雰囲気もあったから。それ関係かな? だとしたら貴族が関わってそうだけど……」


 利権とか権勢とかで起きた妨害説。


「……主な目的は『通行の妨害』だけど、他の道もある。だから稼ぎたかったのは『時間』の筈」


 おぉ……なんかそれっぽい。


 頭の回転はめちゃくちゃ良いんだよなぁ、ターニャって。


 ただ……最近になって怠け癖というか、割とめんどくさがりなところもあるなと認識出来てきた。


 オシャレとか、労働とか、勉強とか、出来るけどやらない、いや面倒だからやらないって節が……。


 そりゃおばさんもケニアも嘆くよなぁ。


 前世で言うなら、凄い天才だけどニー……いや止めておこう。


 違う違う、単にまだ子供なだけだって。


 俺と同じで村が好きなだけだって!


 単に親元を離れる気がないとかじゃなく!!


「……レン、なんか他のこと考えてる」


 ドッキぃ。


 小っちゃい『ツ』が大っきい『ツ』に変わる前に何か言わねば?! 殺される――


「知ってるか? 戦争は何も生まない……」


 思わず出てきた言葉がこれである。


 前世からの道徳心が戦争に行きたがる幼馴染を理解出来ず……いやなんてことねぇな、某ロボットアニメとかの影響だわ。


「……武器の需要と兵器の開発促進」


 天才って嫌い。


「……だからダンジョン都市から武器が流れるのを妨害……それはある」


 勝手に都合のいい解釈をしてくれるターニャさん。


 天才って好き。


「うんうん、ちょうどね? そのことを考えてた。あと流れるのは物だけじゃなく人もね?」


「……冒険者?」


「そう、戦力の増強を恐れて……とかね」


 ベラベラと思っても無いことが口を衝く。


 流れに身を任せているだけだけど……割といいところを突いてるんじゃないかと、今更ながらに思う。


 あのショートソードって言っていいのか巨大なビルって言っていいのか分からない金属の塊を弾き飛ばしていたバーゼルを思えば、冒険者の参戦というのは認められるものじゃないだろう。


 まあテッド達が参戦しようとするくらいなんだし、既に強い冒険者とか居そうなもんだけど。


 というか、世の中には化け物みたいに強い奴が割といるよね?


 真実化け物な蛇と合わせて……もう村の外には行けないレベル。


 特に黒いローブ着てる輩は要注意だろう。


 もうね? 見たらダッシュで逃げていいと思うんだ。


「……ダンジョン攻略者パーティーが参戦?」


「あー……可能性としては無くは無いってところかな。でもその妨害が一番近い公道を潰すだけってのもなぁ……文字通り時間稼ぎにしかならなくないか? 他の道を行けばいいんだし。日数は掛かるだろうけど」


 そもそもまだダンジョンに潜ってるよ。


 お宝の運搬に人がいるから、また上から引っ張って来なきゃいけないだろうしね。


 自分で言い出しといてなんだが、この説は無い線が強い。


 ま、所詮は苦し紛れで出た思い付きだし。


 こんなもんだろ?


 興味も薄れてきた推理より食事を優先しようと荷物からコップを取り出した。


 コップに魔法で水を注いでターニャに手渡す。


 食べていない野菜も摂取するように言うべきだろうか……と迷っていると、コップを受け取ったターニャがポツリと呟いた。


「……逆を言えば、数日を稼ぐだけでいい」


 自然と逆説まで用いてくる幼馴染を見て俺は――――



 「へっ」と鼻を鳴らした。



 なんか人の真剣な推理って、思わず笑っちゃうよね?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る